ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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ちょっと作者がレッドグレイブ市に出張中なので遅れました。


8話 人が人を救うことなどできるものか

世界崩壊から十日後。

 

既にインターネットやテレビは繋がらない。

 

ラジオから、最寄りの自衛隊基地に避難するように勧告が出ている。

 

この天海街にも、煮炊きの煙なんかを見て、逃げてくる人がまあ、百人くらい?いた。

 

まあ、しがない喫茶店のマスターには縁のない話だ。

 

『現在、日本各地での特異生物の大量発生により、救助活動を行えない状況です。国民の皆様は、最寄りの自衛隊基地に避難してください。自衛隊基地の場所についてのアナウンスをします。東京都は……』

 

「怖いねえ」

 

俺は昼のコーヒーを啜りながら、ラジオをぼんやりと聞いていた。最近働き過ぎたな、のんびりしよう。

 

いやあ、昼のFMのクソくだらない三流芸人やアイドルの馴れ合いと、古臭い邦楽がラジオで聞けないのは寂しいね。

 

「店長ー!」

 

「どうした揚羽?デートのお誘いか?中々良いな、水族館にでも行くか?魚は全滅してるだろうが」

 

「店長!何サボってるんですか!」

 

「働いてるさ、ほら」

 

「え?」

 

俺が指差した先には、『喫茶店ディメンション、洋館一階ホールにて臨時開業』と看板が。

 

「因みに、飲み物とお菓子はセルフサービスだ」

 

「要するにサボりじゃないですかー!」

 

「うるせえ、店長の俺が良いってんだからこれで良いんだよ」

 

「駄目ですよ!店長は天海街のリーダーなんですから!」

 

「は?」

 

「お父さんも署長さんも、店長がリーダーだってみんな言ってますよ?」

 

「勘弁してくれよおっさん共……。責任を取るのが年寄りの仕事だろうが」

 

「でも、こんなことになって、何だかんだで生活していけているのはみんな、店長のお陰だって……」

 

「俺は一刻も早く喫茶店の正常な営業を再開したいだけだ」

 

「つまり、世界を救うんですね?!」

 

「何でそうなる」

 

「だって、もうこうなれば、世界を元に戻さないと喫茶店の営業再開はできませんよ!」

 

「んなこたぁねえよ。今だって臨時だが営業できてる」

 

「できてません!」

 

「うるせー、店長の俺ができてるっつったらできてるんだよ」

 

「むー!横暴ですー!」

 

 

 

コーヒーを飲み干す。

 

「で?結局何の用だ?」

 

「羚さんと、昌巳ちゃんと店長と私で、人助けに行きま……、っちょ、ちょっと!何でコーヒーお代わりしてるんですか?!」

 

「揚羽」

 

「は、はい?」

 

「ばーーーーーか」

 

「なな、何ですか?!」

 

「お前馬鹿」

 

「ば、馬鹿じゃないですよ」

 

「いいや、馬鹿だね。言うに事欠いて人助けだと?」

 

「だ、だって、戦う力があるんですよ?」

 

「戦う力と救う力は別だ」

 

「そ、れは……!」

 

「人助け、言うのは簡単だがな。少なくとも俺は顔も知らない他人の為に命を賭けたりなんてしたくはないね」

 

「………………」

 

「お前、ちゃんと考えてなかったろ。ちょっと戦えるからって、世界の全てを救えると思うなよ。自惚れてんじゃねえよ」

 

「そ、そんな、言い方……」

 

俺は揚羽を抱きしめる。

 

「なんかしなきゃ、って思ったんだろ?戦えるなら戦って人を救わなきゃ、とかな。だが、無制限に救うことはできない。それは分かるな?」

 

「……はい」

 

「求められるがままに戦い、救えば、お前は大衆の奴隷になる。お前がどれだけ必死に戦っても、何であの人は助けてくれなかったの、もっと早く来いと怒鳴られるんだ。それは嫌だろう?」

 

「……はい」

 

「自分にできる範囲のものを守ろうじゃないか。救えるものだけを選んで救う。傲慢だが、そうする他ない。分かるな?」

 

「………………はい」

 

よし。

 

適当にだまくらかせたな。

 

いやー、人助けとか、他人の為に戦うとか絶対嫌だもんねー。

 

公僕にはなりたくねーよ。

 

自衛隊だってあんなに叩かれるんだ、世界最強クラスの男なんてどうなるか目に見えてるよな。

 

 

 

「でも、学校のみんなは助けてあげたいです……!どうにかできませんか、店長?」

 

んー。

 

確かに、若い奴はいた方がいいよな。

 

ここは温泉が名物の田舎だからなあ、年寄りが多い気がする。

 

若者の方が働くかね。

 

確か、電車で何本か行った先に揚羽と昌巳が通っていた附属高校と、羚が通っていた大学があるな。田舎だから広いし、医学部もあるらしい。

 

医者とかいてもらうと助かるなー。この街には今内科しか居ねえんだよ。

 

よし。

 

「高校、行ってみようか」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

シーマを街の護衛に残して、学校へ行こう。

 

どうやらこの学校はクソ広いんで、近隣住民の避難先にもなっているらしい。

 

ふむ、人がいっぱい居そうだな。

 

「線路の上を歩くのって、なんか変な感じです」

 

因みに歩きで移動。

 

いやー、転移のことバレるとタクシー代わりに使われそうだし。

 

親友以外には、俺の能力について話していない。しかも、最近手に入れたステータス隠蔽(中級)と言うスキルでステータスを隠蔽できるようにもなったからな。これは鑑定スキルとステータス看破(中級)のスキルがないと見破れない。

 

さあ、行こう。

 

まあ、四時間くらい歩いたかな。

 

途中、オークの群れとかなんかよく分からん鹿みたいなモンスターとかデカイ鳥とかと出くわしたが、所詮はレベル二、三十程度。問題ない。

 

すると、大学に着いた。

 

「へー、日本の大学ってこんな感じなのか」

 

「そう言えば店長って物凄い高学歴でしたね……。フツーの高校ですよ、ここは」

 

お、見張りがいる。

 

「だ、誰だ?!」

 

「誰だ、だとよ。リアルじゃ中々聞けない台詞が聞けて感無量だ」

 

「店長は話が拗れるから引っ込んでて下さい!」

 

「ん、この大学の元生徒」

 

羚が話し合いをする。

 

「じゃ、じゃあ、助けが来たのか?!」

 

「正確には違う。提案をしに来た。ある程度安全な地を確保したから、そこに移住しないか、と言っている」

 

 

 

大学の門を開けてもらい、中に入り、暫定的なリーダーとなっているらしい大学の学長、光岡昭二と名乗った眼鏡のおっさん……、俺からすりゃおっさんに区別はない、と話す。

 

「……では、天海街周辺は安全だと?」

 

「絶対とは言えないが、ここよりはマシでしょうね」

 

「しかし、ある程度安全で、食料があり、水と住む場所がある……。話がうますぎる」

 

「おお、分かってますねー。学生諸君には働いてもらいます」

 

「何をしてですか?」

 

「農耕やら畜産やら漁業やら……、出来るんなら鍛冶や電子工作、料理にモンスターの解体やら、警備やらですかね。兎に角、仕事はいくらでもありますよ」

 

「う、む……」

 

「まあ、ついて来ないって言うなら自衛隊なり外国の救助隊なりを待てば良いんじゃないですかね。自衛隊なり救助隊なりが来れば、の話ですがね」

 

「……分かった」

 

「おや、思いの他速決」

 

「時間が経てば経つほど、皆のストレスは蓄積される。体育館に籠るより、事態を好転させるには動くべきだと考えた」

 

「ふむ、一理ある」

 

「それに……、私は疲れてしまった。他の指導者に任せたい。一研究者が学長にまで成り上がったは良いが、私には人を統べるカリスマというものがない。今回の件でそれを痛感したよ」

 

「いや、俺も別にカリスマなんてないんですけどね」

 

「いや、君は持ってるよ。自分で気づいていないだけだ。さあ、日が暮れないうちに移動しよう」

 

 

 

二千人近くの人間が、大名行列が如く線路の上を歩く。十日前なら写真を撮られてSNSに投稿され大炎上だ。

 

しかし、今の世界にはSNSなんてものはないし、アナウンスがうるさい電車だってヴォルフや羚みたいに黙っている。

 

時折迫り来るモンスターも、俺達が対処する。

 

女共にもミスリル製の武器と防具を渡してあるからな、対処は楽だ。

 

「ハッハー!見ろあの不細工な猫の化け物!真っ二つだぜ!」

 

殺し合いは割と楽しいな。

 

アメコミのヒーローになった気分だと喜ぶアーニーの気持ちも分からなくはない。

 

 




殺し合いは楽しいぞい!

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