僕は、クラン疾風の翼のリーダー、ライ。剣士だ。
疾風の翼は、僕と、人間の女魔導師のカーシャ、熊獣人の戦士モス、エルフの僧侶レインの四人パーティで構成されている。
そんな中、ギルドから、新人冒険者の試験監督をやらないかと依頼された。特に断る理由もないので、それを受けた。
しかし、箱を開けてみれば……。
「うーっす、あんたらが疾風の翼さん?いやー、中二っすね」
白衣の研究者風の男。黒い癖毛の髪は腰ほどまでに伸ばされ、目付きはギラついている。
「シグ、お腹すいた、肉出せ、肉」
とても珍しい、ドラゴニュート。
「あ、あそこのお姉さん美人……!人妻かな、人妻もアリだよね」
白亜の子供の吸血鬼。
「早くしろ」
国賓魔導師のモーントリヒト様。ハイエルフ。
……なんなんだ、この陣営は!
話をすれば異常性がどんどん浮き彫りになってくる。
アソシアの森へ飛んでいくだって?空は飛べて普通?飛行魔法はレア度Aクラスの高等技術だぞ!
そもそも、僕も魔術をある程度使えるから分かるけれど、魔法全般が難しすぎるんだ!膨大な魔力も必要だし、制御も難しい。口語の詠唱によって制御する魔術じゃないと、一般人には使いこなせない。
イメージを魔力で再現するのが魔法だと聞くけど、そんなことができるのは一握りの天才だけだ。
それこそ、モーントリヒト様のような……。
転移魔法でアソシアの森に転移した。
やはりモーントリヒト様は凄い。
火、水、土、風の四大元素の魔法を使いこなし、光や闇、時空魔法すら使えるのだから。
賢者の名は伊達じゃないんだな。
しかし、そんなモーントリヒト様が同格と認めるこのクランは何なんだ?
そんなことを考えているうちに、アナーキーインザミドガルズのメンバー達は、緊張感など全くなく、談笑をしながら森の奥へ向かって行った。
そして。
「あれじゃね?オーガって」
運悪くオーガの巣を見つけてしまった。
オーガの巣……、Aランクパーティが必要な案件だ。
普通、オーガを一体倒すのに、Bランク冒険者四人パーティが必要だと言われている。
そんな中、十数体のオーガがいるオーガの巣?無理に決まっている。試験どころじゃない、撤退だ!
しかし、アナーキーインザミドガルズのリーダーの男は。
「いや逃げたら試験にならんでしょ」
と、僕達を引き止めた。
何を言ってるんだ、それどころじゃないだろう!僕は怒鳴った。
だが、男は僕を一瞥すると、腰を落として両腕を前に垂らした奇怪な構えをとる。
やる気、なのか?
僕は男を注視した。監督官としての義務から、という気持ちもあるが、それ以上に、男から強大なプレッシャーを感じたからだ。
まるで、神話で語られる海獣がいるかのような……、そんな重圧だ。
そして男の左腕がブレると、大きな破裂音のようなものが聞こえた。
気づくと、オーガは頭を石榴のように破裂させられ、死んでいた……。
な、なんだ?
今、何をやった?
僕の衝撃を他所に、白亜の吸血鬼が出てくる。
そもそも、昼間なのに出歩いている吸血鬼?
まさか、伝説のデイウォーカー?
疑問を感じていると、その吸血鬼はオーガに片手を翳した。
するとオーガは、何か大切なものを抜き取られていくかのように痩せ細り、やがて動かなくなった。
あれは、まさか、エナジードレイン?!
そして次は、ドラゴニュートの女が見たことのない魔法を使い、オーガを薙ぎ払った。
最後はモーントリヒト様が閃光の魔法でオーガジェネラルの頭を吹き飛ばした。
規格外だ……。
恐らく、彼らは、Aランク冒険者以上の力を持っているだろう。
こんな試験は茶番に過ぎない。
僕は恐ろしくなって逃げ出そうとしたが、リーダーの男に捕まってしまった。
「次模擬戦でしょ?とっとと済ませっぞおら」
い、嫌だ、殺される!
「死なない程度に加減すっから安心しろ?」
そして虐めが始まる。
初戦はエルフの僧侶レインと白亜の少年吸血鬼との戦いだった。
「嫌だ嫌だ死んじゃう殺されちゃう」
レインは、光属性の魔術をレベル3まで扱える回復役で、軽いウォーピックで近接戦闘もこなせる上に、土属性の魔術の心得もあるオールラウンダーだが、先ほどの戦いを見てから戦う気にはなれないようだ。
「始めっ!」
「う、うわああああ!光よ、貫け!ライトアロー!!」
五秒ほどの素早い詠唱で魔術を繰り出したレインだったが……。
「うーん、若過ぎかなぁ。エルフなら三、四百歳くらいから味が出てくるよねぇ」
一秒もしないうちに、首筋に爪をかけられていた。
「う、あ、参り、ました」
「しょ、勝負あり……」
次に熊獣人の戦士モスと女ドラゴニュートの戦いだ。
モスは熊獣人らしくフィジカル面が強く、大型のカイトシールドでレッドベアの一撃も防いでみせる。そしてその恵まれた体躯と筋力から放たれる斧の一撃は強力だ。
「始めっ!」
「う、うおおおおお!!!」
強力な、筈なんだ。
真っ向から薪を割るように繰り出された斧の一撃は。
「む」
指一本で止められていた。
「ば、馬鹿な」
あり得ない……!
モスの斧はストライクボアの頭をかち割るほどだぞ?!
「殴るぞ」
「う、あ、おおお!!!」
驚愕に目を見開き、盾を構えるモス。
「そら、死ぬなよ。シグが極力殺すなと言うからな」
そして、女ドラゴニュートの腕が動いた、と思うと、モスの盾は粉々に砕かれ、
「ぐわああああああ!!!!」
モスの腕はひしゃげて、身体ごと吹っ飛ばされていた。
モス!
意識がない……。
なんて酷いことを……。
「加減したんだがなぁ……、思いの外脆かったぞ。いかんな、女というものはお淑やかではないといけないと聞いた、シグに嫌われたくないな……」
次はモーントリヒト様とカーシャの戦いだ。
カーシャは僕の幼馴染でモーントリヒト様に憧れて魔導師になったと言う背景がある。
「あのっ、私!モーントリヒト様にずっと憧れててっ!私はっ、モーントリヒト様みたいな賢者になりたくって……!」
僕は、賢者に憧れるカーシャの姿を、隣でずっと見てきた。
カーシャは頑張っていた。ずっとずっと頑張っていたんだ。
それなのに。
「うるさいな、とっとと構えろ三下」
「……え、あ、すみ、ません」
モーントリヒト様は、カーシャの憧れに答えてはくれなかった……。
「始めっ!」
「火球よ、燃えろ!ファイアボール!」
「甘い」
おまけに、当てつけのように魔法を相殺している……。
魔法の相殺、これは普通、狙ってできるようなものじゃない。
魔法が使えるのに態と無詠唱魔術をぶつけているんだ……。性格悪ッ!
「魔術という劣った術式でもこれくらいは出来る」
「ッ、わ、私は、モーントリヒト様みたいな天才じゃないから……」
「ふん、才能がないと自覚があるなら、何故努力しない?血反吐を吐くまで魔術を唱えたか?古代語の研究は?工夫はしたのか?」
「そ、それは……」
「才能もなく努力もしないなら失せるがいい。所詮その程度の器と言うことだ」
モーントリヒト様が興味を失った目で指を弾くと、炸裂音がして、カーシャが吹っ飛んだ。
「あゔっ」
カーシャ!
……気絶してる。
「あと個人的にババアは嫌いだ」
最後に、僕とリーダーの男との勝負だ。
正直帰りたい。
「いや俺もね、俺より若くてイケメンの兄ちゃんを虐める趣味はないんだけどさ」
じゃあやめてくれないかな。
「始めっ!」
くっ、君の実力は分かってる!殺す気で行くぞっ!
「いやいや、殺す気とかそんな物騒な」
袈裟斬りぃいっ?!!
き、斬れてない?!!
「あー、斬れないっぽいね」
う、うおおおお!!!
胴、切り上げ唐竹割り!!!
「んー」
うおおおおおあ!!!
「あの、もういいか?」
まだだっ!!
僕必殺の剣技!風の魔法を剣に込めて放つ……!
疾風剣!!!!
……しかし、首筋に向けて放った必殺の疾風剣は。
「悪いね、効かねえんだわ」
そ、そんな。
「はいどーん」
あっ、殴っ。
ぶべら?!!!
物凄い衝撃を感じて、僕の意識は闇へと……。
落ちた。
俺って洋ゲーみたいな控えめなファンタジー好きじゃないんですよね。