む……。
そう、だな。
今は、ある意味では良い生活をしているのかもしれないな。
だが……、会社で、信頼できる上司と部下と働くことも悪くはなかったんだがな。
上司は……、口下手な俺にも理解を示してくれた。
部下も、有能で、俺に気を遣ってくれた。
死なせるのは、忍びなかった。
故に、皆、避難させた。
避難地は、会社のあるミュンヘンから数十キロ、故郷のヴァイスベルグという内陸の片田舎の街だ。
アルペン山脈の近くで、美味いビールを作る。
規模は小さいが、近くに動物園があり、幼い時にはよく母に連れて行ってもらっていたな。
小さな町だが、麦の生産量が多く、パンとビールを作り、農家や酪農家も多い。ヴルストも美味い。
石造りの古い街並みが特徴で……、自然の多い長閑な地で、それ故になのか、動物愛好家が多く住む。
動物が多い街で、動物の為の餌などの生産も盛んだ。
野良猫なんかも多い。
世界がこうなってからは、モンスター溢れる街になったのだが。
まあ、その辺りは今から話そう。
………………
…………
……
アーニーが世界が滅ぶかもしれないと提言して俺達は準備を始めた。
俺はまず、母のいるヴァイスベルグを避難地にすることにした。
母はもう五十を過ぎている。
まだまだ元気であるとは言え、長距離移動させたくはない。
何より……、自分の故郷を守りたかった。
本音を言えば、会社も守りたいところだが、タツが言っていた。
「……優先順位、か」
優先順位……。
全てを救うには、俺の掌はあまりにも小さ過ぎた。
救えるだけ、守れるだけ、その範囲だけを命に代えても守護しよう。
兎に角……、母と、故郷の人々、そして後輩のフェイは守りたいと思う。
ヴァイスベルグは入り組んだ古い街だ。
元々は、昔、貴族の避難所として作られた街らしく、路地は狭く、見通しは良い。
見通しが良いことで、多方向を警戒できるという利点があるそうだ。
そして、石造りの建物は堅牢だ。
尤も、建物は多くは建てかえられているが。
しかしそれでも、街の構造から考えると、攻め込みづらい……、とは思う。
また、街の南側にはアルペン山脈があり、壁になっているのも大きい。
川もあり、井戸も現役で使われているところもある。
世界が滅ぶとして考えると、全体的に立地はいいだろう。
……また、あらかじめ備蓄用の缶詰などを大量に確保しておく。服や薬なども用意しておく。
それを、ヴァイスベルグの貸し倉庫を借り切ってそこに詰める。
浄水器や発電機も用意するが……、発電機は最低限の電力供給しかできないだろう。
まあ、ソーラーパネルのお陰で、電力にはそうそう困らないだろうな。
ドイツは再生可能エネルギーに力を入れていて、太陽光発電も使える。
整備などの問題は生活魔法のリペアで何とかなる。
当面は保つ、な。
家の私物も、殆ど全て実家に送った。
準備はできている。
終末に向けて動き出そう。
その日は、平日のことだった。
X DAY……。
世界にダンジョンが溢れた日。
丁度午前の、出勤してすぐくらいの出来事だった。
『ヴォルフ、来たぞ!今日がX DAYだ!』
タツからの遠話魔法が飛んでくる。
それと同時に。
「大変だ!世界中に化け物が現れた!ニュース見ろニュース!」
誰かが、社内でそう叫んだ。
それを聞いてからの俺の動きは、自分で言うのもなんだが、迅速だった。
即座に遠話魔法でルディを喚び出す。
ルディは俺の飼い犬だったが、ある日、机の上に置いておいた魔石をキャンディか何かと間違えて誤飲。
それから、モンスターに進化してしまった、元犬、現ティンダロスハウンドのペットだ。
魔石……、魔石は、モンスターの体内にある、魔力を発する石のこと。
属性魔法を込めれば、簡単な魔道具にもなる。
また、魔道具の燃料的な役割もある。
例えば、魔石に火属性の魔力を込めれば、熱を発する。水属性の魔力を込めれば水が滴る……、など不思議な特徴がある。
亜人の多くは、魔石に属性のある魔力を込めて、着火剤やコンロ、エアコン、井戸などを擬似的に作り出している。
魔石を与えられた動物はモンスターに進化するなど、兎に角謎が多い。
全くの謎だ。
ルディはモンスターになってからは、医者に診せていないが……。
特に健康に問題はないらしく、今日も元気に敵を狩る。
さて、全長3mを超える銀の狼、ルディは、スキル『鋭角転移』により、鋭角がある場所からならどこからでも、どこへでも転移できる。
オフィスの中には、書類のファイル、コンピュータ、本棚……、ありとあらゆるところに鋭角が存在する。
ルディは、オフィスのど真ん中に躍り出て一つ吠える。
「うわあああああ!!!」
「化け物だあああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
悲鳴が上がるオフィス。
何故だ?
ルディはとてもいい子だぞ?
何も怖くはない。
「せ、先輩、そ、それ、なんですか?」
後輩のフェイが脂汗を流しながら指を指して尋ねてくる。どうしたのだろうか。
「フェイ、忘れたのか?俺の飼い犬のルディだ」
「いや……、いやいやいや、そんな……、何言ってるんですか先輩」
「ルディだ」
「いやいやいや……」
「ルディです」
「キィヤァアアア喋ったあああああ!!!!」
「む、落ち着いたか?」
「いや……、落ち着いたもなにも……」
「時間がない、簡潔に言おう。ヴァイスベルグに逃げるぞ」
「な、ヴァイスベルグ?下手に動かないで軍隊とかを待った方が」
「フェイ、みんなも。俺を信じてくれ」
「……分かりました」
「この、モンスター騒ぎは、世界規模で起きているようだ。軍隊も、すぐにはここに来れないだろう。ヴァイスベルグなら、農地や牧場がある。最低限、飢えないで済むだろう」
俺の言葉に、同じ部署のみんなが同意して、避難することに。
「どの道、ここに留まっても危ないですしね。安全さも、食料もないですし」
「そうだな」
まだ、軍隊がモンスターを食い止めているから、混乱はそこまで広まっていないが……。
時間の問題だろうな。
「少し遠いが、歩って逃げるぞ」
「ここからヴァイスベルグは……、数十キロってところですね」
「その前に、家族や友人を集めて、動きやすい服に着替えてきて欲しい。それと、荷物もまとめて」
「じゃあ、一旦解散ですか?」
「ああ、軍隊がいるから、今日一日くらいは保つ筈だ。但し、ミュンヘンの中心部には行くな。ニュースを見た限りでは大都市の人口密集地にモンスターが出ている。人が多い場所は危険だ」
「分かりました」
「11時に会社前に集合だ。11時30分には出発する」
「はい」
新ライダー見ました?
あれ、デザインがちょっと前衛的過ぎでは?
ってかアマプラでライダー見なきゃ……。
俺はオーズ以降見てないです。
感性がおっさんなので、新しいライダーのデザインがイマイチ好きくない。