ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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現代魔法使いものローファンタジー書いてます。


38話 ヴォルフガング・ラインハルトの場合 その2

世界にダンジョンが溢れた日、X DAYの11時30分。

 

流石は一流の会社の社員達と言うべきか、全員が迅速に行動し、数百人程が集まった。

 

合流しなかった社員は、どうしても遠方にいる身内を助けたい場合などだった。

 

恐らくは無事に遠方に辿り着けない、とは思うが。

 

既にダンジョンの数は数百万はあるとタツからの連絡があった。

 

この状況で長距離移動なんてしたら確実にモンスターの餌食だ。

 

離脱する社員は恐らく、死ぬだろう。

 

しかし、それを無理矢理止める権利はない。

 

俺だって、身内に何かがあれば、自分の命より優先して助けに行くだろう。

 

また、ドイツは銃規制も厳しい方だ。自衛の手段はほぼない。スタンガンやちっぽけなナイフでは、精々ゴブリンを相手にするので精一杯だろう。

 

それに、最近では移民が旅行者やドイツ人を狙って強盗や暴行をするようになっている。ドイツも物騒になったものだ。そうでなくても、こんな状況では、暴れる奴も出てくるだろう。

 

つまりは、銃器もなしに、モンスターと人間両方に警戒しつつ、遠方に行くということ。

 

それは不可能だ。

 

……俺は俺にできることをやろう。

 

 

 

取り敢えず、社員とその家族を連れて、徒歩で移動する。

 

案の定、道路は破壊されていたり、渋滞だったりで使えなくなっている。歩きで移動しなくては。

 

幸い、まだライフラインは使える。

 

皆で地図アプリを見ながら、道を検索して、途中のスーパーやコンビニで食料や水を確保しながら、二日ほど歩く。

 

もちろん、途中でモンスターの襲撃はあったが、ルディと俺が戦い、撃退した。

 

数百人を守るのは骨が折れるが……、ルディの『鋭角転移』により、即応性のある対応ができた。

 

大きなモンスターを避けつつ、100キロ近く歩き、ヴァイスベルグに到着した……。

 

結構な強行軍だった。無理をして歩ったからか、子供や老人は疲労困憊のようだ。

 

「ヴォルフ!!ヴォルフ、ああ、良かった……!!」

 

「ただいま、母さん。避難してきた人が沢山いるから、後で」

 

「え、ええ。でも良かったわ、無事で……」

 

「ああ、心配かけてすまなかった。もう大丈夫だ、母さんは俺が守る」

 

一旦家に帰り、母にそう告げてから、俺は動き始めた……。

 

 

 

フェイに手伝ってもらいつつ、空き家に避難してきた人達を入れる。

 

ホテルや民家のドアをこじ開け、避難民を入れて回る。

 

ホテルや民家に人を入れた後は、食料と服、タオルや水の配布をする。

 

貸し倉庫いっぱいの物資を切り崩し、配布。

 

大人には井戸水を水筒に汲んで配布し、乳幼児にはミネラルウォーターと粉ミルクを配布する。もう電気は通っていないので、コンロなども配る。

 

まあ、周囲の人同士で助け合い、乳が出る女性が知らない他人の赤ん坊にも乳をやるようにして、上手い具合に回しているそうだ。

 

人間は助け合う生き物だからな……。

 

特に大きな問題はない。

 

ただ……。

 

「アイゼンを捨てるだなんて、俺にはできない!」

 

「バウムちゃんは私の息子みたいなものなの……」

 

「大体、今はもう、モンスターがそこらに沢山いるんだろ?そんな中、うちのマルスを逃しても……。マルスはもう10歳の老犬だ、生きていくことなんてできない」

 

ペット愛好家達が、ペットを捨てたくないと言い始めた。

 

その気持ちは痛い程に分かる。

 

しかし、現状、大型の犬や熊など大量の食料を必要とするもの、爬虫類などの餌が特殊なもの……、それらを養えるだけの余力がない……。

 

俺は、あまり話すのが得意ではないが、それを極力相手を怒らせないように伝えた。

 

それでも、ペット愛好家達は、自分の食べる分を削ってでもペットと共にいたいと言う。

 

すると……、これしかないだろう。

 

「これを……」

 

「これは……?」

 

「魔石と呼ばれるものです。モンスターの心臓部にある、不思議な力を持つ石……」

 

「それが、何だと?」

 

「魔石を飲み込んだ動物はモンスターになります。モンスターなら、野生の他のモンスターを狩って生きていけます」

 

「つまり……、私の犬をモンスターにしろと言うのか?!」

 

「他に方法はありません。モンスターになれば、食性は雑食に変化して、魔石を摂取しても生命活動を維持することが可能になるようです」

 

「し、しかし……」

 

「でなければ、自分が貴方の見えないところまでペット連れて行き、殺害し、弔うという手もあります」

 

「そんな……」

 

「もう、人類に余裕はありません。考えている暇も。ここで決めて下さい。ペットを殺すか、モンスターにするかを」

 

「……分かった、従う」

 

 

 

例えどんな形でも、愛するペットをそばに置いておきたい……。

 

そう言って、人々は次々にペットをモンスター化させていった。

 

モンスター化による変化は色々とある。

 

まず、体色の変化。そして巨大化。一部体型の変化。知能の向上、寿命が長くなる、食性の変化などが挙げられる。

 

戸惑いながらも、ペットのモンスター化を受け入れる人々。

 

基本的に、物にもよるが、1.2倍から5倍近くまで巨大化するパターンもあり、皆、酷く驚いていた。

 

特に爬虫類や小型犬、虫など、小型の動物は10倍以上大きくなることもあった。

 

レベルは平均して二十五程のモンスターが多い。

 

中には最初からレベル三十を超えるモンスターも少数存在した。

 

大型犬なら全長二メートル前後、猫なら一メートル前後、熊は四メートル近くまで達し、クモや蛇は猫程の大きさの個体になり、猛毒を持つことも確認されている。

 

知能の向上も顕著で、こちらの言葉をほぼ完全に理解しているらしい。

 

ペットと会話できると言うのは魅力的だった。

 

「マルス、おはよう」

 

「ワン」

 

「元気かい、身体は大丈夫か?」

 

「ワン」

 

「そうかそうか、よしよし」

 

「ワフー」

 

少なくとも、こちらの言葉を理解し、頷いたり首を振ったりする他、相槌もうつようになっていた。

 

報告では、鼻歌に合いの手を入れてきたとか、踊っていたら混ざってきたとか……。

 

モンスター化することによる知能の向上で、熊のペットなども暴れることなく大人しく過ごしている。

 

人を見ても襲わないし、知能はどうやら10歳児以上はあるようだ。

 

言葉も通じる上に、飼い主に命じられた通りに動く。

 

急激な進化に、気味が悪いと言う人も現れるかと思ったが、むしろ、ペットの知能向上により、より仲良くなれて嬉しいと言う人ばかりだった。

 

ペットのモンスターについては、判別のために、首輪や腕輪、スカーフなどを巻いて、それらのモンスターには攻撃をしないと定めた。

 

他にも、できるだけ飼い主と行動を共にするなどと定めておく。

 

 

 

ヴァイスベルグ……、農業とペットの街だ。

 




クソ強師匠とその愉快な同期達に面白がって鍛えられたチンピラ魔法使い君が、魔法使い学園で色々やる話になる予定。

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