ロシア、ニトロフクス。
モスクワより1000km程離れた、カザフスタンの北側に存在するこの都市には、現在五万人の人口が集まり、春の訪れを待っている。
ロシアの冬は寒い。流れる涙すら凍りつく。
そんな中でも、我々冒険者は、人民の為に食料を調達せねばならない。
10cm程に積もった雪を魔物革のブーツで踏みしめて、フロストダイトの剣とダークトレントの短杖《ワンド》を持ち、私は都市の外を歩く。
『クルル……』
ヘラジカのモンスター、アクリスだ。
あれは、捌けば食える。
富は、人民に均等に配分されなければならない。
……というのはあくまでも名目だ。
共産主義とは、地球の資源に限りがないとしたら、という前提の下に成り立つ理論であるからして、現状の生きるので精一杯な世界では、とてもじゃないが……。
しかし……、私が戦わなければ、隣人が、家族が危険に晒される。戦えるものが戦えば良いとするならば、私のような若い男は率先して戦うべきなのだろうな。
今の世の中は、女子供ですら働いているんだ。女子供の背中に隠れてのうのうと暮らすなどと、そんな腑抜けたことはできないさ。
「さあ、行くぞ……、『発動:エンチャントダーク』『ファンクション:魔刃斬り』!」
『ギョッ』
首を斬りとばす。
ヘラジカほどの鹿の首を刃物で斬りとばす……、常識では考えられないことだ。しかし、レベル五十二程の高いレベルによる腕力、そして、考えられないほどに鋭い魔剣の斬れ味をもってして、その異常を実現する。
「おっと……、首も拾わなくちゃな。角や骨も資源だ」
獲物の解体に取り掛かる。
ステラダイトの解体ナイフで皮を剥ぎ、心臓から魔石を取り出し、はらわたを捨てて、肉を冷やす。
骨は肥料としてとても有用らしい。
角は削って鏃に使ったりもする。このモンスターの角は鋼鉄並みに丈夫だ。
「ふんっ!」
体重数百kgはあるであろう巨体の鹿を肩に担ぐ。これも、やはり、レベルと共に上がった身体能力のためだろう。
試してみたが、私の腕力は、トラックを軽く持ち上げるほどにまでなっていた。
この程度のモンスターは、体感的には発泡スチロールくらいにしか感じない。
そのようにして、仕留めたアクリスを、六体程ソリに乗せて帰還する。
「おおい、帰ったぞ」
「おお、帰ってきたか、同志トリフォン!」
「またデカいのを狩って来たじゃないか!」
守衛の男達と抱き合う。
「ああ、これで今晩はステーキを食えるぞ」
「「やった!」」
流石に、街の人々全員が食えるほどではないが、私と同じように活動している他の冒険者もいることだし、この周辺の人民は、今晩は美味いものが食えるだろうさ。
私は獲物の乗ったソリを引いて、冒険者ギルドに入る。
「すまない、獲物の解体を頼みたいのだが」
「まあ、アクリスを六体も!流石は『ノヴォルーニエ』ですね、ベタレフさん!すぐにやりますね!ボリスさん、解体担当のボリスさーん!」
その後、解体担当の男達が、鹿肉を捌いて、俺に家族の分の鹿肉を渡してきた。
労働の代金は、冒険者ギルドで十五万NWRUB(ニューワールドルーブル)貰えた。家族を養うには充分だが……、冒険者は何かと入り用だからな。
もしも私に何かあれば、家族……、妹のオレーシャが……。
その為には、金はいくらあってもいい。
オレーシャの為ならば、私はいくらでも命をかけてやる。
しかし、オレーシャの為に、私はまだ死ぬ訳にはいかない。
死なずに、命がけで稼ぐ。
両方やらねばならない。
オレーシャの為に。
「オレーシャ、帰ったよ」
「ああ、お兄ちゃん!」
オレーシャが私に抱きついてくる。
全くもって、私には勿体無いくらいに可愛らしい、最高の妹だ。
「ほら、オレーシャ。今日は鹿肉がとれたんだ。ステーキにしよう」
「ええ、ちゃんとコケモモのジャムがあるわよ!」
……私とオレーシャは、血の繋がらない兄妹なんだ。
私は、父の友人の子供で、オレーシャは両親の本当の子供だ。
両親は、血の繋がらない私を、まるで本当の子供のように可愛がってくれた。愛してくれた。
そんな両親も、世界崩壊の折に、モンスターに襲われて……。
だから、オレーシャを守れるのは、私だけなんだ。
私が守らなくては……。
私は、トリフォン・セルゲヴィッチ・ベタレフ……。
魔法剣士《ルーンセイバー》だ。
あー、どれの続き書こうか。
スペオペもやりたいしクリエイターもやりたい。