ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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旅人提督の方にも出ていた、ノースティリスのあいつが主人公の話。


zelona
1話 ノースティリスのあいつ


あなたは退屈している。

 

このイルヴァ、ノースティリスの地で冒険(と言う名の遊び)をしているあなたは、今、猛烈に退屈している。

 

目ぼしいモンスターから神々まで討ち滅ぼし、その剥製を飾った博物館はノースティリス一番の大盛況だ。

 

あなたの信仰する幸運の女神の力と、素材槌の山によって作り上げられた吸血を回避した生き武器の数々。

 

数多のモンスターや人間を狩って取り揃えたアーティファクトのコレクション。

 

錬金術によって生み出した神や無限高階層ダンジョン『すくつ』産のドラゴンや超巨大キューブと言ったモンスターで溢れる牧場。

 

アーティファクトから野菜まで、何でも生える謎の農園。

 

連日大富豪が訪れる最高級の店。

 

遺伝子強化と訓練や実戦によって鍛え上げられた可愛いペット達。

 

魔法、戦術、武器、錬金術、あらゆるスキルを極め、最強まで至ったこの身。

 

もう一度言う。

 

あなたは退屈している。

 

酒を飲みつつペットの少女達と気持ちのいいことをするのも、神を降臨させて遊んでやるのも、すくつに挑むのも。

 

少し、飽きてしまった。

 

少なくとも、当分の間は良いだろう。

 

何か、退屈しのぎになる事はないだろうか……。

 

そうあなたが呟くと。

 

自宅である城の前に、小さなムーンゲートらしきものを発見した。

 

あなたは、その幸運も人並みから外れているのだ。フラグを立てたらレスポンスが返ってくるのは当たり前だった。

 

幸運の女神に少し感謝しつつ、また、新たな冒険の始まりを感じつつ……。

 

あなたは、そのムーンゲートに触れた。

 

 

 

 

「あんた、何者?」

 

ムーンゲートの先にいたのは、ピンク色の小さな少女だった。

 

酔っ払わせてから気持ちのいいことをするには少し幼い、食料的な意味で食べるなら、肉が柔らかそうで丁度いいと思った。

 

あなたの好物は人肉なのだから。

 

そう言えば空腹だな、とあなたは思い出した。

 

目の前の少女をハンバーグにすることを決め、愛用の獲物である、生き武器のグレネード付き大鎌を取り出す。

 

するとどうしたことだろう、頭髪の少ない男が声を上げてきたのだ。

 

「くっ、凄まじい殺気……!!何をするつもりですか!!」

 

何をするつもりか、そんなのは決まってる、食事の時間だ。

 

あなたがそう答えると。

 

「まさか……!馬鹿な真似はやめなさい!」

 

男が前に出てきたのだ。

 

あなたは、参ったな、と口にした。

 

男の肉は不味いのだ。

 

美食家であるあなたは、若い女の肉が一番の好物だった。

 

あなたがどうするか悩んでいると、食料(予定)のピンク髪の少女が話しかけてきた。

 

「ちょっとあんた!いきなり武器を抜いて何のつもり?!武器をしまって跪きなさい!」

 

成る程、とあなたは思った。

 

この少女は貴族の子供だ。

 

態度の大きさからして。

 

しかしこれも新鮮だ。貴族の子供どころか、ノースティリスの民はあなたと出くわすと、泣いて命乞いをするものだから、このような物言いをする者はもういないのだ。

 

その挑戦的な態度に少し嬉しくなったあなたは、少女と会話をしてみようと思った。戯れだ。

 

何の用だ。

 

「良いかしら?本来ならあんたのような下賎な傭兵風情が私と会話できるなんてことはないんだから、私の言葉が聞けることに感謝しながら聞きなさい!」

 

ほう。

 

「あんたはね、この私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに召喚されたの!分かるかしら!召喚!」

 

知らんが。

 

「使い魔召喚の儀よ!あなたは私のものなの!」

 

……それはつまり、この自分をペットにしたい、ということだろうか。

 

あなたは笑った。

 

腹の底から笑った。

 

『目隠しして座っていても勝てる』虫けらに、ペットになれと言われたのだから。

 

「ッ、何がおかしいのよ!!!」

 

おおっと、いけない。

 

爆笑の渦で飛んでいった思考回路を戻す。

 

この少女の話が正しければ、この少女はムーンゲートだ。

 

下手に破壊すればノースティリスへ帰還できなくなるかもしれない。

 

それは少々困る。

 

愛するペット達に会えないのは嫌だ。

 

あなたのペット達は優れた冒険者であると同時に愛人や性奴隷でもあるのだ。

 

他にも、騎乗用ドラゴンや、テロ用キューブなど様々なペットを所有してはいるが。

 

まあ、つまりは、話をまとめると、この少女を殺してはならないようだ。

 

「私はあんたのご主人様なのよ!敬いなさい!」

 

ご主人様……、護衛をしろということだろうか。しかしタダ働きというのも性に合わない。あなたは冒険者だ。いつだって対価を必要としている。

 

あなたは、自身の交渉スキルを用いて、交渉を行った。

 

「雇うなら対価を寄越せですって?!何言ってるのよ!使い魔は主人に忠誠を誓うものでしょ?!」

 

しかし、困ったことに、話が通じる相手ではなかったようだ。

 

こうなると金品を奪うしかないが……。

 

「ミス・ヴァリエール!」

 

「何ですかコルベール先生!」

 

「……ここは彼を雇う、という形にしてみてはどうでしょうか?」

 

「何故です!使い魔は主人に忠誠を誓うものでは……」

 

「ミス・ヴァリエール!!!」

 

「ひっ?!」

 

「す、すいません、大声で……。ですが兎に角!彼を『雇う』ように!」

 

「……分かりました」

 

「そうして下さい、彼は危険……、いえ、何でもありません」

 

それで結局、報酬は出るのだろうか。

 

「ええ、出しますよ。ですから、是非理性的な判断を」

 

そっちが大人しく金を出して雇うと言うならば、こっちからは何も言うことはない。

 

それで、護衛だろうか。

 

期間はいつまでだろうか、一週間くらいか。

 

「はぁ?使い魔は永遠にご主人様に仕えるもの」

 

「ミス・ヴァリエール!!すみません、いつまでかは分かりませんが、報酬は約束します」

 

成る程。

 

まあ、良い。

 

取り敢えずはこの世界での冒険を楽しみ、飽きた頃に帰る方法を探せば良いだろう。

 

このムーンゲート少女をバラバラに解体して研究すれば帰る方法も見つかるであろうことは予想に難くない。

 

「さあ、跪きなさい!契約の続きよ!」

 

契約……?何のことだろうか。

 

よく分からないが、しかし、一応はクライアントだ、多少のリクエストには答えてやろう。

 

跪くくらいなら。

 

……もし、命令が、あなたの嫁を寄越せなどの内容なら、あなたは激怒し、周囲一帯を更地にしているところだが。

 

そして、あなたが跪いたところで、少女は。

 

「ん……」

 

徐ろに口付けをしてきたのだ。

 

これは何か、気持ちいいことをしたいと言うサインだろうか。

 

気分は乗らないがそれくらいなら構わないが……。

 

よく分からないな、この少女は。

 

よく見れば見た目は悪くないから、人間牧場で増やせば小銭くらいは稼げるだろうとあなたは思った。

 

と、ここで、あなたは手の甲に違和感を覚える。

 

「ルーンですね、スケッチさせて下さい」

 

ルーン?

 

あなたが聞き返す。

 

「ええ、使い魔にはルーンが刻まれるのです」

 

よくは分からないが、魅力が変化するほどのものではない。見た目が変わらないなら別にいいだろうと、あなたはスルーした。

 

「さあ、行くわよ」

 

あなたは少女について行く。

 

「ゼロのルイズは歩いてくるんだな!」

 

「平民の傭兵と一緒にな!」

 

と、少女は罵倒を受け。

 

翼を装備してもいないのに空を飛ぶ連中を横目に歩いていた。浮遊装備だろうか。

 

「あいつら……!!」

 

少女は空を飛べないのだろうか。

 

ならばこれを使うと良い、と、あなたは翼を差し出した。

 

「……何よこれ」

 

少女の背中に装備させてやると、少女はふわりと宙に浮いた。

 

「マ、マジックアイテム?!傭兵が?!」

 

そもそも、あなたは傭兵ではない。いや、依頼によっては傭兵紛いのこともするが。

 

「傭兵じゃない?冒険者?知らないけど……」

 

まあ、その程度のゴミアイテムで良ければいくらでもくれてやる。と、あなたは宣言した。

 

「っ、良いの?何だ、意外と聞き分けが良いじゃない!」

 

上機嫌になった少女は、空をふわふわと飛び回り、やがて建物の中へ入っていった。

 

 

 

話を整理しよう。

 

目の前の少女、貴族の『ルイズ』は護衛対象。給料は教師の『コルベール』が持ってくる。食事や寝床も、少女……、いや、ルイズと呼ぼうか。ルイズが提供してくれるそうだ。

 

「良い?使い魔の役割はね……」

 

大きく分けて三つ。

 

主人の目となり耳となること。

 

これはお互いによく分からなかった。

 

次に、秘薬の材料などを探すこと。

 

成る程、マテリアルの採取か。錬金術も含めてそれは得意分野だ、と言うと、あんたは水メイジだったのねと言われた。何のことだろうか。

 

最後に、主人を守ること。

 

これは余裕だろうとあなたは断じた。

 

「随分と自信があるようね」

 

少なくとも、すくつ万階層レベルの魔物でもない限り、あなたを打倒し得る存在はいない。

 

まあ、もしも、いるならいるでそれは良いが。もしも自分と対等以上に戦える敵がいるならば、それはそれで楽しい。

 

「まああれ程のマジックアイテムを気前よく渡すくらいのメイジってことなんだから……、悪くない使い魔かもね」

 

何か納得したようなルイズをよそに、寝支度を始めるあなた。

 

「って、ちょっと!ちょっと待ちなさい!!あんた、何よ、それ!!どこから出したの?!」

 

何って、幸せのベッドだが。普通に懐から出した。

 

「幸せのベッド?マジックアイテムかしら……」

 

確かに、魔法の品ではあるが。

 

「しかも、私のベッドより上等……」

 

ルイズは、何か言いたいことがあるように見えたが、あなたはそれを無視して眠りにつくことにした。

 

要睡眠だったからだ。

 

「お、覚えてなさい!私が上で使い魔であるあんたが下なの!」

 

はいはい、と軽く流すと、あなたは目を閉じた。

 




カルマ−100の男。

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