「ねえ、あんた」
何だろうか。
「勝てるの?」
目隠しして座っていても勝てる。
「凄い自信ね」
事実だ。
「あれだけのマジックアイテムを複数所持している、つまり、それだけの財力があるという事。財力があると言うことは傭兵としてそれだけ稼げていると言うこと。つまりは、強い、ってこと?」
どういう認識でも構わないが、言えることはただ一つ。
「まあ、良いわ。あんたのメイジとしての腕、見せてもらうから」
あなたは、ノースティリス最強の冒険者だ。
「タバサ、この勝負、どう見るかしら?」
「ギーシュが虐殺される」
「言い切る?」
「あれは、駄目。あの人は、駄目。逆らっちゃいけない」
「あなたもトライアングルでしょ?傭兵崩れに負ける訳……」
「瞬殺されるだけ。巨人と蟻程に格が違う」
「……そんなに?」
「例え、教師を含めて、学園の全員で彼に挑んだとしても秒殺される」
「そんなに?!」
「……私にもあれだけの強さがあれば」
「?、何か言った、タバサ?」
「……何でもない」
「諸君!決闘だ!」
貴族の『ギーシュ』は声を上げた。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの傭兵崩れだ!」
また、いつのまにか集まったギャラリーも歓声を上げた。
あなたが今回為すべきことは、虐殺、惨殺である。
そう決めたのだ。
這い上がらせずに、埋まることを選択するよう、丁重に心を折るつもりだ。
あなたはまず、愛用の軽鎧を脱いで懐にしまった。
「な、何故鎧を脱ぐ!これから決闘だぞ!」
ギーシュとやらが非難する。
あなたは、ハンデだ、と言ってのけた。
「き、さま!後悔するなよ!!」
顔を真っ赤にして怒り出したギーシュ。
「ルールは、この僕が杖を落とすか、参ったと宣言すれば貴様の勝ちだ!まあ、そんなことはあり得ないだろうけどね!」
成る程、つまり、杖を落とさせないように気をつけつつ、口を利けなくしてから存分に嬲れ、と言うことか!あなたの卓越した頭脳は完璧な答えを出した。
異世界に来て早速、趣味である嬲り殺しが出来ると思ったあなたは、心が踊った。
「僕の二つ名は『青銅』!青銅のギーシュさ!故に、青銅のゴーレム『ワルキューレ』でお相手しよう!」
そう言って周囲の土を錬金し、ゴーレムに変えたギーシュ。
しかし、これは、何とも……。
お粗末だ。
ゴーレムといえば巨大で、ミスリルやアダマンタイトでできているものだ。
少なくとも、あなたが見て来たのはそうだ。
「ミ、ミスリルやアダマンタイトでできたゴーレムだと?そんなもの、スクウェアクラスのメイジにだって作れやしないぞ!そんなものを見た?嘘をつくな平民!!」
ギーシュがどう思おうがあなたにはどうでも良いが、それにしても青銅とは。
あなたを殺す気ならアダマンタイト、ミスリル、竜鱗、エーテルくらいは用意して欲しい。
「まあ良い、さあ、行けワルキューレ!!あの愚かな傭兵崩れを叩きのめせ!!」
迫り来るミニゴーレム。
あなたにとっては、欠伸が出るほどスローだ。
「とった!」
ミニゴーレムの刃があなたの身体に当たる。
「……な、何?!」
しかし、あなたのその肉体に切り傷や痣が刻まれることはなかった。
「どういうことだ?!!」
単純なPV差……。
あなたの素のPVが、ギーシュの攻撃力を大きく上回っただけの話だ。あなたは鉄のような皮膚を持っているのだ。
ギーシュの猛攻に湧き上がっていたギャラリー達も、何かがおかしいことに気付いたのか、声を出せない。
「馬鹿な!」
あなたは、ワルキューレの剣を窃盗し、目の前で食べて見せた。
あなたは何でも食べられる。
「ひ、ひいっ?!!」
次に、ゆっくりと、子供でも分かるように手を前に出し、デコピンの体勢をとる。
「な、何を」
デコピンを放つ。
すると、ワルキューレと呼ばれたミニゴーレムは、爆散し、そのかけらが校舎の壁に叩きつけられて大穴が開いた。
「は、ひ」
明らかに動揺した様子のギーシュ。
素晴らしい。
弱い者いじめは大好きだ。
さあ、処刑しようか。
あなたが、鈍間な一般人でも見逃さないように、ゆっくりと歩みを進めると。
「ワ、ワ、ワルキューレェェェ!!!」
悲鳴のような声と共にミニゴーレムを嗾けるギーシュ。
相変わらずあなたの肉体に武器が振るわれるが、傷一つつかない。
そしてあなたは、襲いかかってくるミニゴーレムを捕まえて食べて見せた。
……お前も食い殺してやろうか?
あなたは言外にそう告げた。
「ひっ、ひいいいいい!!!」
だが、ああ、残念ながら。
あなたは男の肉は食わないのだ。
ならば、どうするか。
処刑の方法に迷うあなた。
そう言えば、魔法の腕が見たいとか言われたか。
あなたは思い出す。
そうだ、ならば、こうしよう。
幻惑の光線……!
「ひあっ、あがっ、があああ、あああああああああ!!!!」
手加減して撃ったが故に、まだ死んでいないようだった。流石は自分だ、とあなたは自画自賛する。
「ぎいっ、いいいいい!!!あああ〜〜〜!!!!」
地面に頭を叩きつけるギーシュ。『狂気』状態だ。
滑稽だ。
それを見て笑うあなた。
「やめてえええ!!!」
割り込んで来たのは先ほどの巻き髪女。
ああ、しまった、狂気状態にさせるより、この女を目の前で犯して殺してやった方が心が折れたんじゃないか?とあなたは思った。
しまった、失敗した。自分としたことが。
魅せプレイに熱中して本題を忘れるとはなんたることか!
あなたは大きなショックを受けた。
いや、今からでも遅くないか?
あなたが少し逡巡した頃。
「やめなさい!」
ルイズが、前に出たのだ。
「もう十分よ、あんたの実力は分かったから」
いや、まだだ。
まだ彼は杖を落としていないし、参ったとも言っていない。
「そんな……!もう勝負は明らかじゃない!これ以上何をするつもりなの?!」
取り敢えず、そこの巻き髪女を目の前で犯して殺して、それから全身の皮を剥ぎ、肉をズタズタに引き裂き……。
「そんなこと、許されないわよ!!!」
うん?
何かしら犯罪になるのだろうか?
まあ、少しばかりカルマが下がるのはしょうがない、必要経費だ。
もしも犯罪者になってもインコグニートがあるから、正直に言って困ることはない。
ただ、あなたは、あなたに楯突いた者は、埋まるまで何度も殺すと伝えた。
「埋まるまで?どういうことよ、何度も殺すって?!」
言葉の通りだが。
死んでも這い上がれるのが基本のノースティリスで、埋まることを選択する人間は少ない。
「死んでも、這い上がる……?生き返るってこと?!」
平たく言えばそうなる。
「バカ!死人が生き返る訳ないでしょ?!そんな魔法、どこにも存在しないんだから」
いや、ある。復活の魔法の存在を知らないのだろうか?
ん?
そもそも、死人が生き返ることはない?
この世界ではそう言うものなのだろうか?
とすると不便だ、カルチャーショックだ。
剥製集めが捗らない!!
あなたは悲しくなった。
しかし、何かの間違いということもある。
試してみよう。
あなたは、愛用の大鎌でギーシュの首を刈り取る。
「げあっ」
「いやあああ!!!ギーシュ!!!」
ギャラリーが騒ぐが気にしない。
……ふむ、やはり剥製がドロップしない。
この世界ではそういうものなのか。
非常に残念だ。
「あ、あんた、殺し……!!」
あなたは、復活の魔法を唱える。
ギーシュは復活した。
「……え?」
剥製がドロップしない以上、願いで手に入れるしかない。
あなたの頭の中は、決闘のことは既になく、これからの剥製集めのことでいっぱいだった。
あいつは基本的に自己中心的。