ノースティリスのあいつがバランスブレイカー過ぎて。
あなたは、タバサの母に反対されながらも、どうにかこうにか、タバサというペットを得ることができた。
一方でタバサはと言うと、母を助けられたことがそんなに嬉しいのか、友好度は既に魂の友以上。
あなたにすっかり懐いたタバサを撫でつつ、あなたは学院に戻ることにした。
よしよし、可愛いぞ、タバサ。
「んぅ、ありがとう」
大人しく撫でられるタバサに、今後の予定を説明してやる。
残念ながら今のタバサは弱い、終末狩りをしようにもドラゴンあたりにプチっと殺されるだろうと。
故に、基礎能力を伸ばすため、ハーブと潜在能力のポーションを多数服用させること、装備を一新すること、特訓をすること。あなたは丁寧に説明してあげた。
「私も、もっと強くなりたい」
タバサはそれを了承した。
聞き分けの良い可愛いペットを得て嬉しくなったあなたは、タバサを抱き上げ、外にいるタバサのドラゴンを引っ捕らえ、帰還の魔法を唱えた。
「……魔法学院?」
「きゅ、きゅい?」
おや、転移は初めてだろうか。ノースティリスでは一般的な現象であるテレポートも、この世界では一般的ではないのかもしれない。
あなたは、夕食の時間であることに気付くと、タバサを連れて食堂に足を運んだ。
そして、その食堂の真ん中で、世界最高のダイニングテーブルと★ボスチェアを二つ出し、シエスタに命じた。
飯だ、と。
「……はい」
命じられたシエスタは、貴族用のそれと同じかそれ以上の料理を持ってきた。
うむ、苦しゅうない。
「あの、ミス・タバサには……」
彼女は自分のペットだ、食事はこちらで用意する、と告げると、方々から驚愕の声が上がった。
「ええっ?!」
「貴族様をペットにした?!」
「なんて人だ!」
あなたは、タバサに山盛りのハーブを渡す。
「これは?」
主能力値を上げるハーブである。
ノースティリスのハーブは、僅かながらだが、食べた生物を強化すると言う特性があるのだ。
「食べるだけで強く?」
その代わり、味は最悪だが。
「分かった……。ん、はしばみ草みたいで美味しい」
?
あなたは頭を傾げる。
ハーブはどう考えても美味しいものではないのだが……。
「私にとっては、美味しい。これなら幾らでも食べられる」
魔法使い型のペットと言うことでマイレロンを中心に食べさせているが……。
では、追加で潜在能力のポーションだ。
「分かった」
これも難なく飲むタバサ。
にしても、かなり大量に食べている。
自分の何倍もの量を平らげるタバサを見て、あなたは、食事による育成が捗ると喜んだ。
「良い加減にしろっ!!」
おおっと。
あなたに、一人の男が食ってかかる。
「貴様は何様のつもりだっ!貴族をペットだと?!ミス・タバサの名誉を大きく毀損しているっ!!」
何を言っているのだろうかこいつは。
「私は気にしてない。自分の意思でペットになった」
「な?!ミス・タバサ!」
ペットに文句でもあるのだろうか。
冒険者がペットを連れていることの何がおかしいのだろうか。
「ふざけるな!貴族をなんだと思っている!!」
ふざけるなとはこっちの台詞だ、食事の邪魔をしやがって。
あなたは辟易した。
もうめんどくさいので殺そうと思い、愛用の拳銃を取り出すあなた。
「殺しは駄目」
しかし、タバサに制止される。
「決闘で殺してしまったならまだしも、突然殺せば罪に問われる」
じゃあ、何か?
この世界では殺人は許されていない、と?
「……逆に、あなたのいた地域では殺人は合法だったのか」
あなたが頷くと、タバサは微妙な顔をした。
「兎に角、ここでは殺人は重罪」
なんと言うことだ、剥製がドロップしない上に殺人も許されないとは。
とことん自分に優しくない世界だなとあなたは痛感した。
「や、野蛮人め!気に食わないなら殺すのか?!」
そうだが。
何が嬉しくて気に入らない人間を世の中に存在させなくてはならないのだろうか。
さあ、決闘だ、決闘をしよう。
まさか誇り高き貴族様が逃げるなんて言わないだろう。
その結果死んでしまうかもしれないがそれは事故だから仕方ないよねとあなたは笑顔で口にする。
「い、いやだ、死にたくない……!」
あなたのコールタールのようなどろりとした殺気を感じ取ったのか、失禁しながら這いつくばる男。
食事中に汚いものを見せられたあなたはイライラした。
すぐにシエスタに命じて片付けさせよう。
「は、はい」
シエスタはトテトテと歩いてきて床にモップをかけた。
うむ、苦しゅうない。
時は流れ、次の日。
あなたはタバサの部屋で一緒に眠り、朝方にルイズの部屋に戻っていた。
「あんた……、使い魔が朝帰りって、良いご身分ね……!!」
実際にあなたは良いご身分だ。
「口の減らないバカ犬ね……!!あんた、また騒ぎを起こしたそうじゃない?」
あなたの認識では、あなたの周りが勝手に騒いでいるだけで、あなたが進んで騒いだ覚えはない。
「何よその言い方!折角プレゼントをあげようと思ったのに!」
プレゼント?あなたは首を傾げた。
「ふん、あんたみたいな言うことを聞かない使い魔には何もあげないんだから!」
貰えるものは貰いたいあなたは、寄越せとブーイングした。
「……はぁ、分かったわよ。そうじゃなくても、買ってあげるつもりだったしね。あんたの鎌、目立つのよ」
この大鎌だろうか。
自分が育てた生き武器の中でも傑作なのだ。鎌の特性である首刈りと、厳選の結果であるグレネードの発動を持つ、全属性持ちの生き武器なのだ。もちろん、素材槌で吸血を回避してある。
「あんた、自分が学院でなんて呼ばれてるか知ってる?死神よ!このままじゃこの私の名誉にも関わるの」
つまり?あなたは問い返す。
「剣を買ってあげる」
剣、剣だと。
あなたは確かに剣術の達人でもあるのだが、生半可な剣ではあなたの身体能力についてこれない。
「安心なさい、それなりに上等なのを買ってあげるから」
あなたは、ルイズに連れられて街までやってきた。
「あんた、貴族でもないのに乗馬ができるのね」
当然だ、あなたは騎乗スキルもカンストしている。
しかし、ここが王都か。
規模はパルミア程度か。
あなたは、自分の所有するダンジョンより小さいことに落胆した。
……街に入ってしばらくすると、あなたはスリに遭った。
「ぎゃああ!!!」
「あ、あんた、今度は何を?!」
?
スリは殺しても良いものではないのか。
「罪人を裁くのはあんたの仕事じゃないわ!うっ、酷い……!」
殺しは駄目だと言われたので、腕を切り落としたのだが。
「痛えええ、痛えよぉ!!!」
「何手加減しましたみたいな顔してるの?!」
事実、加減した。
スリは重罪だ、ノースティリスなら殺されても文句が言えない。
まあ、見つかればの話だが。
あなたに言わせれば、見つかる方が馬鹿だ。
「どんな魔境なのよ、あんたが住んでたノースティリスって地域は……」
あなたとルイズは武器屋に到着した。
そのアングラな雰囲気は、どちらかと言うとブラックマーケットを彷彿とさせた。
「へい、らっしゃ、い……?き、貴族様じゃありやせんか!貴族様がこんな店になんの御用で?うちは真っ当に商売してますぜ?!」
やる気のなさそうな店主は、ルイズを見るや否や、猫なで声になって対応してきた。
「客よ」
「へ?こりゃおったまげた!貴族が剣を?!」
「私じゃなくってこいつにね」
「あ、へい、子飼いの傭兵に武器を買い与えるんで」
あなたは否定した。
あなたは冒険者なのだ。誰がなんと言おうと冒険者なのだ。
「は、はあ」
「ひえええええ?!!!何だ何だ何だおめえはぁぁぁぁぁ?!!!」
「うるさっ?!」
あなたとルイズは顔を顰めた。
「おいっ、喧しいぞデル公!!!」
「うるさいわね、誰よ!」
すると店主が、雑多に置かれている剣の山から一本の錆びた剣を取り出す。
「へ、へえ!こいつでさあ!」
「お、おめ、おめえ!何もんだ?!化けもんか?!人の形をしたエンシェントドラゴン……、いや、神か?!悪魔か?!!」
あなたは、鑑定の魔法を使った。
……《★デルフリンガー》。
あなたは即座に購入を決定した。
「うっわ、しかも『使い手』だしぃぃぃ?!!!もお嫌だ俺はぁぁぁ!!!!」
「何、これ。あんたこんなのが欲しいの?」
これは固定アーティファクトだ。
とっても欲しい。
あなたには収集癖がある。
「……ま、その大鎌よりはマシね」
「うわぁぁぁ?!!!そっちの鎌も化けもんだぁぁぁぁぁ?!!!」
「うるさい!」
タバサが殺人をする奴に惚れるのかって件ですが、ゼロ魔の世界は中世くらい、割と殺人や窃盗などの犯罪がありふれている感じの世界観なので、超強くて魅力2000オーバーで恩人であるあいつに気を惹かれるのもおかしくはないと思いました。