リューサンになりたいので槍マンになります。
魔人族のテレジア……。
いわゆる悪魔。
旅行好き。
「昨日は京都に行ってきたわ!」
と言いながら、空を飛び、商店街やら定食屋やら、近場に住む人たちにお土産を配る。
「あらあら!テレジアさん、旅行好きねえ!」
「ええ、京都は興味深いものがたくさんあったわ」
「あら、八ツ橋!ありがとね、またうちにおいで!」
「もちろんよ、ミチコ」
しかもタメ口ィ。
「テレジア、口の利き方が悪い」
「あらあら!良いのよ!テレジアさんは外人さんだし、二百歳なんでしょ?おばちゃんより歳上じゃないの!」
え?
「信じるんですか?」
「んー、歳を取るとね、その人の立ち振る舞いとか、そう言うのから大体の年齢は分かるのよ。テレジアさん達は本当に大人っぽいから、おばちゃんより歳上ってのは本当だと思ってるわ」
年の功ってやつか。
その辺は分かってくれてるみたいだ。
……いやいやいやいや、まてまて、テレジア、なんかおかしいこと言ったぞ?
「お前、そのまま京都に行ったのか?!」
「やあね、ちゃんと変幻魔法使ったわよ」
セーーーフ!!!
テレジアは基本的に低空飛行ってか浮遊している。
背中の悪魔の羽は申し訳程度に羽ばたいているが、これは羽で飛んでいる訳ではなく、羽から魔力を放射して浮遊しているのだ。
だから、飛んでいる最中に羽を掴んでも……。
「やん、私の羽とか尻尾とか弄るの好きねえ、レイジは」
墜落しない。
さて、今日も商店街にお土産配りに行くそうだ。
付いて行こう。
「おっ、テレジアさんじゃないか!今度はどこに行ってきたんだ?」
肉屋。
「京都にちょっとね。はい、お土産」
テレジアは『アイテムストレージ』の魔法で異次元からお土産を出す。
「いやー、いつ見ても凄えなあ!テレジアさんのタネなし手品は!」
「これくらいの魔法、魔人族なら誰でもできるわ」
「凄えな、悪魔さんって!」
んー。
「あの、偏見とか……」
と、俺が聞くと。
「んー?大丈夫だ、うちは仏教徒だし!それにこんなにスタイル抜群の美人さんであるテレジアさんをいじめる男なんざこの世にいねえよ!俺の母ちゃんも昔は、それはもう綺麗な人だった……」
「また言ってるのかいあんたは!悪かったね、スタイルが悪くて!」
「いてて!母ちゃんごめん!ごめんってば!」
仲良いな、肉屋夫婦。
「こらこら、喧嘩しないの」
「全く……、うちの旦那はこれだから!」
「シゲル、人間はすぐに老いるものよ。でも、その老いも含めて楽しめるのが紳士というものなんじゃないかしら?」
「はい……」
と、肉屋の旦那、茂さんに説教するテレジア。
「テレジア、あんまり説教とかするなよ」
「だって、シゲルが悪いのよ?歳をとっても、妻は大事にしなきゃ」
まあそうだけど!
「すいません……」
「全く……、はい、お土産。これ食べて仲良くしなさい?」
「はい……」
「あら、テレジアさん、いつもいつも悪いねえ」
「良いのよ、旦那の金で遊んでいる悪女なんだから、私」
続いて八百屋。
「コーイチ、こんにちわ」
「おや、テレジアさんかい。今日は旦那と一緒なのかい?」
「ええ、今日は旦那とデートなの」
「かーっ!妬けるねえ!俺も若い頃は……」
「うふふ、コーイチだってまだ若いわよ」
「おっ、そうかい?」
「ええ、私だって、魔人族としてはまだまだ若造なのよ?」
「に、二百歳で若いのか……」
「はい、これ、お土産」
「おお、ありがとさん。今度はどこ行ってきたんだい?」
「京都よ。大仏?って言うの見てきたわ」
「へえー、どうだった?」
「うーん、小さいわね」
「ええ?そうなのかい?テレジアさんとこにはもっと大きいのがあったのかい?」
「いえ、うちには戦闘用のゴーレムがあるから。大仏くらいの大きさのロボットみたいなのね」
「ほおー!そうなのかい!凄いなあ!」
内部事情ダダ漏れ。
「私の旦那はね、そう言う戦闘用の魔法で動くロボットや兵器を作る人なの。前の国では世界一の技術者って言われてたわ」
「ほえー、凄いな!」
次に、魚屋。
「テツヤ、こんにちは」
「おや、テレジアさんかい」
「京都見物してきたの。これ、お土産」
「おお、ありがとさん。中身はなんだい?」
「八ツ橋?とか言うクッキーよ」
「そうかい、ありがとな、嫁と一緒にいただくよ」
そう言って、お土産を店の裏に持っていく魚屋の哲也さん。
「さて、旦那さんかい?前はルシアちゃん連れてたな」
「ああ、はい、そうですね」
「誰が正妻なんでい?」
もー!
「正妻が誰、とかはないですね。全員同じくらい愛してます」
「……嶺二さん、あんた……」
怒るか?
「でっけえ漢だなあ!」
良いんかい!
次、豆腐屋。
「こんにちは、ミチル」
「おんや、テレジアさんかい?今日も美人さんだねえ」
「あら、ありがとう。ミチルも素敵よ」
「んまあ、こんなおばあちゃんに素敵なんて!お世辞でも嬉しいわあ」
「お世辞じゃないわよ?あ、これ、京都のお土産」
「あらま、京都に行ったのかい?」
「ええ、興味深いものがたくさんあったわ」
「えがったねえ、外人さんに興味持ってもらえると嬉しいわあ」
「日本は面白い国だわ、色々なものがあって飽きないし。この土井中村も過ごしやすいわ」
「ほーかい、ほーかい。テレジアさんは、前はどんな国にいたんだい?」
「酷い国よ。偉い貴族……、まあ、こっちで言う華族がいてね、昔の武士みたいに、民に重税を課して、人買いが人を攫って、野盗が小銭を求めて人を殺して、戦争もして……」
ん?
んー?
ミチルばあさん、同情して泣いちゃったぞ?!
「おろろろ……、可哀想になあ、テレジアさん大変だったねえ。私も戦争の頃は……」
あー、やだやだ、老人の長話!
でも、テレジアは、興味深そうに老人の長話を聞く。
「テレジア」
「あら、面白い話よ。第二次世界大戦、だったかしら?その実体験なんて、貴重な話じゃない」
まあ、お前が聞きたいなら構わねえけどよ。
タバコ屋。
「エツコ、こんにちは」
「ん?テレジアさんかい。そっちは?」
「旦那よ」
「テレジアの夫の鎧嶺二です」
「ほう、あんたが物の怪の嫁を侍らせてる色男かい」
じろじろ見られる。
「ふん……、顔は良いみたいだけど、金はあるのかい?十二人も本当に養えるのかい?」
「取り敢えず、総資産は五十億円くらいですかね」
「……本当かい?」
「事実よ、エツコ。前の国で手に入れた宝石とか金塊とかを売って、五十億円手に入れたわ。レイジはその半分を家族のために貯金して、残り半分を私達に平等に分けてくれたの」
「………………まあ、テレジアさんの旦那として認めるよ。だがね!こんな良い子達を泣かせたら、どんな妖術が使えたってあたしが許さないよ!良いね!」
「あ、はい」
なんか嫌われてんのか?
「レイジ、エツコは私達のことを心配してるのよ。なんでも、エツコの旦那さんはあまり良くない人だったらしくてね」
あー、自分が旦那に裏切られたから、警戒してんのか。
「大丈夫ですよ悦子さん。例え世界中が敵に回ったとしても、嫁は絶対に守りますから」
「……そうかい。その言葉、肝に命じておきな」
「はい、エツコ、これ、京都土産」
「あら、ありがとね。テレジアさんもこんなババアに構わなくて良いんだよ?」
「何言ってるの、私からすれば貴女なんて子供よ」
「ははは!言うねえ、テレジアさん」
その他、総菜屋、弁当屋、風呂屋、古本屋……、色々なところにお土産を渡して回る。
「なんでこんなことするんだ?」
「あら?日本じゃご近所付き合いってのが大事なんでしょ?」
んー、まあ、そうだが。
まあ、これくらいなら、いいか。
そして、夜。
スナック『夕焼け』と言う、地域密着型のスナックに入るテレジア。
「何してんの?」
「バイトよ」
「おっ、浮気かー?」
「あら、嫉妬かしらー?」
とか言いつつ、入店。
「ナオミ、来たわよ」
「あら、テレジアさん。今日も来てくれたのね、助かるわ」
「嫁がいつもお世話になってます」
「あら!旦那さん?やだわぁ、本当にハンサムじゃない!」
「鎧嶺二です」
「大久保直美です、スナック夕焼けのママです」
まあ……、三十代半ばくらいの、割と美人な女。
「え……、うちのテレジアを雇ってるんですか?」
「ええ、バイトで」
んー?
「いや……、外国人労働とか……」
「ああ、それは、お店のお手伝いしてもらって、お小遣い渡してるだけだから。子供の家事手伝いと同じよ」
良いのかそれは?!
「そもそも、悪魔さんを働かせちゃいけないって法律はないでしょ?」
「そりゃそうですけど」
「テレジアさんは歌も上手いし、聞き上手だし、お話も上手いし……、キャバクラならナンバーワン目指せるわよ!」
そりゃまあ、魔人族は他者を堕落させたりする種族だし……。
「私も昔は銀座でキャバ嬢やってたんだけどね……」
「じゃあ何故ここに?」
「女には色々あるのよ、色々ね……」
「そろそろ開店ね」
テレジアは……、えっ、私服?
こいつの私服、アマルガム製の黒い鎧だぞ?
「私服で良いんですかね?」
「その方が異国情緒があって良いじゃない!」
と直美さん。
良いのかこれ……?
ストック
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