次回からユウチューバー編が始まるよ!
「カエデさんも優しい人ですよ」
神社の神主がカエデを褒める。
カエデは、希少種族である九尾族の巫女だった。
魔力の高い九尾族の中でも特に魔力の高いものだけが選ばれる巫女。
最大出力では、漏れ出す滞空魔力があまりの濃度で結晶化する程である。
これがどれほどに凄いのかと言うと、魔帝王よりも純粋な魔力量は上、ということである。
つまり、RPGの裏ボスよりMPが多いのだ。
前の世界においては、最も多くの魔力を持つ個人であった。
日本に来てからも、その有り余る魔力量で人目も憚らずに魔法を使いまくっている。
そんなカエデと神主との出会いは、こうである。
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土井中稲荷神社。
土井中村で一番大きな神社である。
と言っても、いるのは神主一人だけ。
境内で目につくのは、そこそこ大きい本殿と賽銭箱、二つの狐の石像くらいだ。
お正月にはおみくじをやる、祭事の際に仕切る、突然のお祓い、それとお神酒作りもやる。
特にお神酒は、神主が気合を入れて作るので美味いと評判だ。
それくらいのものだ。
もちろん、それだけ仕事がないので、神主は学校教師も兼任している。
神主の名前は山田日登志(54)、妻と二人暮らしの、優しげで信心深い男性だ。
日登志は、夏のある日、神社の掃除をしに来た。
朝早くのことだ。
早起きは神主を三十年以上務めてきているので、何も辛いことはない。
「さて……」
箒を握りしめて、本殿の方へ歩み寄る。
すると、本殿の中から物音がするではないか。
すわ泥棒か、と思ったが、お賽銭には全く手をつけられていない。
「……美味……、のじゃ……」
女の声が聞こえる。
一体何者だろうかと、恐る恐る本殿の戸を開ける日登志。
そこには。
「んー、ここの酒は美味いのじゃ〜。……あ」
謎の狐耳巫女がいた。
「なっ、あっ、きっ、君は?」
「あっ、あー、えーと、えーと……」
その時、日登志は思った。
狐の耳と尻尾。
「まさか、お狐様ですか……?!」
「え?あ、ま、まあ、妾は狐じゃが?」
「か、神様なのですか?!」
「ま、まあ、故郷では現人神と呼ばれておったが」
「おお……!」
日登志は心の底から感動した。
まさか、生きているうちに、土井中村の守り神であるお狐様に会えるとは。
神主として、こんなに嬉しいことは他にないと思った。
「そ、そのじゃな、悪いんじゃが、妾はただの九尾族で、お主の思っておる神ではないのじゃ……」
「では、妖怪変化の類だと?」
「まあ、そんな感じじゃな」
日登志は、九本の尾があるのを見て、さぞ力の強い妖狐なのだろうと思った。
「で、では、何卒、この村を襲うことのないように伏してお願い申し上げます……!何卒……!」
そんな強い妖狐に暴れられては、この村が滅んでしまう。
そう思った日登志は、必死で頭を下げた。
「い、いや、妾は別に村を襲ったりとかはせんから……」
「で、では、何故ここに?」
「……酒の匂いがしたからじゃ」
「………………は?」
「ここにあった酒が美味そうだったからもらっただけじゃ」
「はぁ……?」
その後、詳しい説明を受けたところ、日本の神道とはなんら関係のない、狐の特徴を持つ、いわば亜人というものだった。
「では、貴女は、お供え物のお神酒を勝手に飲んだだけだと?」
「……すまんのじゃ、つい」
「いえ、ちゃんと謝ってくれるなら、私は叱ったりしません。ですが、見たところまだ子供でしょう、お酒は早いですよ」
「いや……、妾は千六百歳だし、旦那もいるぞ?この若さに変幻しているのは、旦那の好みじゃ」
「千六百歳で変幻もできるって、本当に神道関係ないんですかね?!」
「ほら、見てみい」
ピカッと光ったと思えば、歳の頃十六歳といった少女が、三十手前の妙齢の美女になった。
「ほらの?」
「お、おお……」
やはり妖狐では?と日登志は思った。
元に戻るカエデ。
「うーむ、しかし、お狐様か……。となるとやはり、妾はお主に『ご利益』をあげなければならんのじゃな。お神酒ももらっちゃった訳じゃし」
「いえ……、年齢的にも問題ないみたいなので、構いませんよ」
「いや、駄目じゃ、後で旦那に怒られる……!布団の上でなかされてしまう!二つの意味で!」
「女の子がそんなこと言ってはいけません!」
「しかし、ご利益って、具体的になんじゃ?」
「そうですね、この神社のご利益は厄除けなのですが、他にも金運上昇や無病息災などがありますし、お守りも売ってますよ」
「ふむ……、妾の魔法なら、『何となく幸運にする』とかはできるのじゃが、狙いすましたかのように金運だけを上げたりするのは面倒なのじゃ。病気は魔法で治せるし、厄除けというのはよく分からんが、アンデッド系モンスターなら消し飛ばせるのじゃ」
「はあ……」
日登志はよく分からなかった。
「まあ、試しにやってみるかの。それ、『ラックアップ』と」
カエデの手元がピカッと光った。
すると……。
『もしもし、あなた?!私よ!』
日登志の妻が、慌てた様子で電話をかけてきた。
「どうしましたか?!」
『今、街にいるんだけど、たまたま買った宝くじが大当たりで、百万円もらえるそうよ!』
「な、何だって?!」
「おお、早速効果が出たのう」
「やはりお狐様では……?」
「違うぞ。じゃが、そうさのう……、よし!妾がお狐様の振りをするのじゃ!その代わり、住民から酒を沢山もらうのじゃ!」
「うーん……、それは……」
「でも、ここに来るまでに会った老人はみんな妾を拝んでおったぞ?」
となると、あまり夢を壊すようなことはしないべきだろうか……?
「お狐様の振り、と言うのは罰当たりです。さっきの、魔法?の代わりにお酒をもらう程度なら良いと思いますよ。ただし、聞かれたらちゃんとお狐様ではないと明言することです。良いですね?」
「うむ、良いじゃろう」
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「……まあ、本人はお狐様ではないと明言しているんですけど、実際にご利益があるので、皆さん信じ切ってしまっていますね」
村の老人達からは、カエデの否定の言葉に対して、「分かってますよ、お忍びで来てるんですね」みたいな扱いをされているらしい。
「エリーゼさんも良い子だ!」
「んだな」
「明るくて元気じゃ」
村の老人達がエリーゼを褒めた。
エリーゼは由緒正しい角馬族の女王だ。
しかし、民を見下すことはなく、誇りを持って他人を守れる女である。
正直者で真っ直ぐな人格だが、女王として育てられたので、思いの他腹芸もできるし、抜け目ない。
そんなエリーゼと住民達の出会いはこんな感じである。
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加山雄造(77)、土井中村の大工の親方である。
「てやんでい!このボロトラックめ!エンストしちまった!」
雄造には、本日、仕事がある。
老朽化した木造建築の床が抜けたとのことで、床板の張り替えをしに行く予定だったのだ。
しかし、移動中、工具や材木を載せたトラックがエンストし、立ち往生してしまった。
「今日に限って、若い衆は他所で仕事をさせてるしよぅ」
仕事中の若い衆を呼び戻して手伝わせるのは忍びない。
雄蔵は、頭をかいて、どうするか悩んだ。
そこに、ぱから、ぱからと馬の蹄の音。
はて、馬なんてこの村にいただろうか?
少し遠くに牧場はあるが、馬がいるとは聞かない。
そう思って振り返るとそこには。
「お、おおおっ?!!!」
馬の身体に、角のある女の上半身が生えた、奇妙な物の怪がいた。
「な、なんだぁ?!!!」
「失礼、そこの御仁、何かお困りだろうか」
雄蔵は、その女から大きなカリスマを感じた。
物腰も柔らかく、それでいてしっかりとしている。真っ直ぐな瞳に美しい容姿。
思わず跪いてしまいそうな程だ。
「お、おう、俺ァ大工なんだが、仕事場に行くための車が動かなくなっちまったんだ」
「ふむ……、それは一大事だな。分かった、手を貸そう」
そう言うと、物の怪女は。
「『クリエイトレッサーアイテム』」
どこからともなく鎖を取り出し、それを雄蔵のトラックにくっつけた。
「大工の御仁、トラックに乗りなさい。私が牽いて行きます」
「で、できるのか?トラックは重いんだぞ?」
「こんなもの、物の数に入りませんよ」
そう言うと、物の怪女は、ゆっくりとトラックを引っ張った。
「お、おおお……!」
なんたる怪力か。
仕事の道具や材木を載せたトラックを引っ張って歩くとは。
「仕事が終わったら呼びなさい。またトラックを引っ張ります。私は角馬族のエリーゼ。ヨロイ・レイジ殿の妻の一人です。よしなに」
「わ、分かった、エリーゼさんだな」
その後も、エリーゼは、そこらで馬車を牽いて人を乗せて歩く様がよく見られるようになる。
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「エリーゼさんはええ子でぃ、普段から人力車を牽いて、金も殆ど取らねえ」
エリーゼ馬車、運賃五百円である。
なお、京都の人力車は三十分貸切で一万円はする。
エリーゼは自分が歩くついでに人を乗せているだけなので、金が欲しい訳ではないが、一応仕事なので、タダにはしない。仕事に対しては正当な報酬があるべきだと考えているのだ。ただ、エリーゼにとっては、馬車や人を乗せる程度、全く問題がないので、安値でやっているだけだ。
「兎に角、鎧さんは良い人だ!」
「末永く住んで欲しいねえ」
「だべな」
土井中村青年団は長話をした。
夢見りあむくらい病んでる。