年末。
チャンネル登録者数は五百万人を突破。
最も短い期間で登録者数を増やしている最速記録らしく、ユウチューブから記念盾をもらった。
既に日本ではトップクラスらしく、動画の再生数も平均して五、六百万、調子がいいと五千万を超える。
土井中村の子供達も俺のファンらしく、キラキラした目で見てくる。
幸い、どこの事務所にもグループにも属していないので、人間関係のしがらみはなく、パンプーキンさんとたまにコラボするくらいで、他のユウチューバーとは、普通のユウチューバーと比べると、あまりコラボはしていない。
俺がかなりの独自路線だから、他のユウチューバーは俺についてこれないのだ。
また、俺の動画は、テレビでも紹介されて、話題になっている。
しかし、非ネットユーザーの殆どは、俺のことを信じていない。
今も、テレビのコメンテーターが、こんなものはあり得ないと鼻息を荒くして言っている。
一部のテレビ局は、嘘を暴いて馬鹿にしようという魂胆が丸見えで、土井中村の住民達は、それを見て憤っていた。
柳英社は、桐山が頑張っているらしく、全面的に好意的だが、昼日新聞などはあることないこと書きまくっているし、週刊文秋は、俺の居住地を探して取材し、悪意ある記事を書こうとしている。
まあ、マスコミなんざそんなもんだ。
放っておこう。
さて、今日は、漫画家の十勝ビープ先生との会談だ。
十勝ビープ……、代表作『モン娘学園!』『モンスター×ぐりーど』を中心に、多くの人外系同人誌に寄稿。
この人は、モンスター娘専門の漫画家だ。
現在連載中のモン娘学園は、現代を舞台に、何の変哲も無い高校生の元に、様々なモンスター娘が現れるハーレムもののラブコメディ。
現代社会の中に、実は昔からモンスター娘などの亜人が存在していて、その亜人達が文化交流の為に、主人公のいる高校に転入してきた……、というところから物語は始まる。
モンスター娘について作り込まれた設定に定評があり、主に内容は、モンスター娘と人間の習性の違いから様々な事件が起きるが、主人公はそれを偏見の目で見ずに優しくフォローして、モンスター娘が惚れる、みたいな感じだ。
海外での評価も極めて高く、国内では三百万部売れたらしい。
モンスター×ぐりーどは、現在、並行して連載しているモンスター娘異世界バトルもの。
強大な人間の帝国に迫害される亜人に、勇者として召喚された現代日本人の青年が戦う話。
こちらもかなり売れているそうだ。
他にも、同人誌も多数売れていて、モンスター娘界のパイオニア的存在らしい。
そんな十勝ビープ先生が、どうしても俺と嫁にインタビューしたいとのことなので、東京の五十人が収容できるほどの巨大な貸しスペースを確保し、会談をすることに。
嫁も全員呼んだ。
「どっ、どうもっ、十勝ビープですぅ!」
「どうも、レイレイと嫁です」
十勝ビープ先生は、痩せ型で色白の、三十代前半くらいの男だった。
「ふ、ふひひ、そ、その、今日はよろしくお願いします」
不気味に笑う先生に、インタビューを受ける。
くしゃくしゃのメモ帳を取り出した先生は、挨拶もそこそこに、色々なこと、特に亜人について、様々な質問をしてきた。
「まず、亜人とは、モンスターから進化した人類の近縁種ということです、ね?」
「ええ」
「では、進化元のモンスターは、滅んだのですか?」
「いえ?進化元のモンスターも存在してます。モンスターのゴブリンもいれば、亜人のゴブリンもいる訳ですね」
「そ、れは、そうなると、差別とか」
「されますね。亜人は亜人を差別しませんが、人間は亜人をモンスター扱いして殺します」
「成る程……。亜人の国は六つあるそうですが、それぞれ、どのような国ですか?」
そうだな。
「まず、獣王ライオネルが支配する、人口一億五千程の国、『ベスティエ』が挙げられるでしょう」
「ベスティエ……」
「ベスティエとは、獣人の古い言葉で、獣という意味を持ちます。ベスティエは、白獅族……、こちらで言うならばナラシンハの、ライオネル王が支配しています」
「ナラシンハと言うと、ライオンの獣人ですね」
「ええ。そして、亜人の国では最も大きく、人数も多いですね。主な住民は獣人で、あまり稀少ではないありふれた種族の亜人が多い感じですかね」
「ふむふむ」
「広さはオーストラリア程の半島と周辺の島々ですかね。戦力はかなり多くて、五千万以上は戦います」
「えっ、多くないですか?」
「いや、獣人は老若男女問わずバリバリ戦うんで。全体的に、勇猛な者ほど尊ばれる風潮があります」
「アマゾネスみたいな?」
「うーん、ちょっと違いますね。獣人は、勝ち負けとかじゃなくって、勇気があること、心が強いことが大事なんですよ。例え戦えない奴でも、みんなの為に頑張れる奴が好かれるってことです」
「成る程……」
「農作や畜産も盛んで、特産品は武器や鎧ですかね。特に鉱人族、ドワーフの作る武器は高値で取引されます。名物は大闘技場でしょうかね。あ、飯が結構美味いですよ」
「分かりました」
「次に、狼王ロボが支配する『ウルフェンロア』ですかね」
「ウルフェンロア……」
「人口は千万程、神狼族のロボ王が緩く支配している国です」
「人口は少なめですね」
「ええ、何せ、ウルフェンロアに住むのは稀少種族ばかりですから。数は少ないですが、質は一番良いですよ」
「稀少種族とは?」
「まあ、例を挙げると、神狼族、銀狼族、九尾族、臨星族、精龍族、淵蜘族……。稀少種族が多いです。けど、稀少だから偉いとかは別にないですね。まあ、大抵の稀少種族はやたらと強いですけど」
「稀少種族は、数が少ないんですか?」
「少ないですねえ、神狼族なんて五千人しかいませんよ。でもまあ、割と結構な頻度で、普通の亜人が突然変異的に稀少種族を産むこともあるんで、滅んだりはしませんね」
「うーん、神様がバランス調整をしているんでしょうか?」
「さあ?神様なんざ信じてないんで、何とも。そんな感じで、稀少種族の駆け込み寺として機能しているウルフェンロアですが、戦力的には一番強いです」
「何故ですか?」
「稀少種族の中でも、特に強い奴らが、組織的に動くからです。その中でも特に、神狼族のみで構成される神狼隊がね……」
「神狼隊とは?」
「人数はたったの五百人だけなんですけど、めちゃくちゃ強いんですよ。しかも全員キチガイ」
「はあ……」
「全員が、ロボ王の親衛隊であり、特殊部隊なんですよ。狩人と騎士を合わせたような連中で、サバイバル能力、戦闘能力、魔法の扱いが極めて高いレベルで、隊員一人一人がそれぞれ百年ほど修行してから、マジキチな三つの試練をクリアしてやっと神狼隊に入隊できるんですよ」
「試練とは?」
「まず第一に、ランダム転移で国外に飛ばされるので、そこから戻ってくることです」
「簡単では?」
「んな訳ないでしょ。持ち物はなし、全裸で、上空三千メートルから深海、森の中、人間の国のど真ん中まで、どこに飛ばされるか分からないんですよ?」
「えぇ……」
「その上、これは後で説明しますが、ウルフェンロアは移動している国なので、探すのは困難なんですよ」
「それは、何とも……」
「まあ、神狼族はキチガイなので、大半はクリアします。第二に、一人で、武器装備あり、しかし食料と薬品はなしで、百階層のダンジョンを攻略し、ダンジョンボスのフェンリルの牙を持ってくること、です」
「うわあ……」
「武器と鎧だけでダンジョンに放り込まれるので、ダンジョンのモンスターの生き血を啜り、肉を喰らいつつ、数万キロもの道のりを歩き、ダンジョンの最下層まで行って、ラスボスのフェンリルを倒して戻ってくるんです」
「なんか、こう、ローグライクですね」
「ええ、まあ、それくらいできないと駄目らしいですよ。ここで半分くらい死にます。最後の試練は、本気で殺しにかかってくるフル装備の神狼隊全員から一日、生き残ることです」
「無理では?」
「意外といけますよ。まあ、更に半分は死にますが。そうして、神狼隊になった神狼族は、めっちゃモテます。憧れの的です」
「成る程」
「でも、神狼隊は精神面も化け物なので、鋼メンタル過ぎてヤバいです。必要とあらば同族や家族、赤ん坊だって殺すし、一度狙われたら文字通り死ぬまで追いかけられます。仮に、敵に捕らわれたら、魔法で盛大に自爆して、周りを吹っ飛ばして自殺します」
「うわぁ……」
「しかも全員、頭もめちゃくちゃ良いので、拷問の知識とかもありますし、魔法もかなりのハイレベルですね」
「うわぁ……」
「最大の特徴は、ゾヌル銀という液体金属を使った可変武装と、ゾヌル銀製の黒色の鎧ですかね」
「じゃあ、やっぱり、神狼隊は人間に恐れられていたんですか?」
「いえ?」
「え?」
「だって、神狼隊の姿を見た人間なんて皆殺しにされてるんですから、怖がるも何も、存在すら知りませんよ。それに、基本的に、神狼隊はウルフェンロアの防衛が任務ですし」
「は、はあ」
「そう、そして、ウルフェンロアがなぜ動いているか、と言うと、ウルフェンロアはザラタンと呼ばれる巨大な亀型モンスターの背中の上に街を作って住んでいるからですね」
「へえ!それはまたファンタジーですね」
「主な特産品はダンジョン産のアイテムや、モンスターの素材ですかね。基本的に狩猟民族です。他の亜人の国の依頼を受けて、モンスターの討伐やダンジョンの攻略を代行したりもしています。名物は沢山のダンジョンですかねえ。ウルフェンロア国内には10種類のダンジョンがあります。街の雰囲気は大体サイバーパンクかロマネスク調ですね」
「成る程……」
インタビューは続く。
オンラインゲームはこれだから。