二月。
俺も二十七歳になった。
まあ、魔導式ナノマシンの効果で、老化しないんだが。
折角なので、デモンズネストで盛大にお祝いしてみた。
もちろん、動画に撮った。
内容は、カエデと一緒に「結婚式かよ」みたいなサイズの巨大ケーキを作って、記念撮影して、みんなで食べると言うものだった。
めっちゃ美味かった。
なんでカエデがケーキを作れるか?
俺が作りかたを教えたからだよ。
俺はサヴァン脳の持ち主で、特に覚えることはめちゃくちゃ得意だ。だから、ガキの頃から国立の大図書館に通っては、たくさんの本を読んだんだ。それこそ、各国の料理本から畜産の本、経済論文、銃の仕組みの本、外国語の文学、なんでも読んだ。
俺自身、料理は、レシピ通りに作ることしかできないが、カエデは、美味しくなるように適切なアレンジができる。そこが違う。
守破離という言葉の通りだな。
俺はレシピと言う規範を守ることしかできないが、カエデはそれを破り、離れ、より良いものにできる。
料理という一点においては、心底敵わないと思っている。
カエデは現在、日本食に関心を持ち、寿司とか握っている。
何がしたいんだお前は。
だがまあ、隠居生活を楽しんでいるようで、俺は安心したよ。
しかし、ついに。
懸念していたことが、現実になった。
クソマスゴミ、昼日新聞のエントリーである。
あれほど言ったにも拘らず、日本中を駆け巡って調査して、ついに、ここ、土井中村までやってきたのだ。
はい、じゃあ、と言う訳で。
撮影開始だ。
「どうも、レイレイです。警告を無視して昼日新聞の記者がやってきました。こちらの、相手の心の声が聞こえるマイクの魔導具で、心の声を聞いてみましょう!」
読心の魔法で心を読む。
「『さっき、この村のボケ老人共に聞いたが、ここにあの魔法使い野郎がいるらしいな。公平な報道の為に、昼日新聞の記者である、この矢澤雷太様が嘘を暴いてやらなきゃならないな!』」
「はい、こんな感じですねー。いやー、クソマスゴミですね、昼日新聞。では、断罪しましょうか!」
俺は、クソマスゴミに歩み寄る。
「ああっ!こんにちは!昼日新聞です!やっと見つけました!自称魔法使いのユウチューバーは北海道土井中村にいました!早速、インタビューを」
「なあ、お前さ、警告動画は見たか?」
「け、警告ですか?えっと、見て、ないですね?」
どれ、マイクを向けると。
「『見たけど、あんなもん虚仮威しだろ?どうせ魔法なんてありゃしないんだからな!』」
「だ、そうですよ、皆さん。舐められてますねこれ。処す?処す?」
「は、あ?ええ?な、何で、俺はそんなこと言ってない……」
「いや、このマイク、心の声が聞こえる魔法のマイクなんだよね。さっき、お前が、この矢澤雷太様が嘘を暴いてやるぜー、とか思ってたのも筒抜けだから」
「なっ?!!!な、何故俺の名前を?!!!」
「じゃあ、警告通りにやらせてもらう。ああ、あくまでもこれは不幸な事故だ。何せ、魔法は嘘なんだろ?ははははは!!!」
「い、いや、その!」
「まずはカメラ」
カメラが焼き切れる。
「ああっ、カメラが?!」
「財布」
「あっ、あっ」
「携帯」
「あっ」
「メモ帳とペン」
「あっ」
「最後に服」
「あああああ!!!」
全裸になり、股間を隠す記者。
「おおーっと?どうしましたかー?偶然にもカメラと財布と携帯とメモ帳とペンと服が吹っ飛んじゃったみたいですけどー?寒そうですねえ!」
「あ、ぶるぶるぶる、お、お前が、やったのか!!!」
「この辺の降雪量、180cmくらい行きますからねえ!いやあ大変だ!あ、交番はあっちですよ!死なないようにどうぞ頑張って下さいね!」
「ま、待て、は、は、はーっくしょん!!!」
いやー、面白い動画が撮れた。
はい、投稿。
今回は三千万再生だった。
コメントは、と。
『矢澤雷太様(キリッ』
『バッカでー。レイレイが本物の勇者なのはもう証明されてんだろ』
『レイレイ最高!!!』
『good movie :->』
『うわあ……。あんまりやり過ぎないようにしてくださいね?』
『良いぞ!やれやれ!偏向報道のクソ昼日なんて潰しちまえ!』
『昼日新聞の人が可哀想だろ!実名を出すな!』
『↑何言ってんだこいつ?』
『昼日に同情とか無理だわ。残当』
『The media should be destroyed!!!』
『日本のマスコミだめ。、ちゃんとしてない、イタイ目あう方が良い!!!。』
『わーい!断罪だー!』
『貴様の罪を数えろ!』
『公然わいせつ罪、罰金三十万以下』
『ってか、レイレイ、土井中村にいるのか。あそこ、マジで何にもねえぞ』
コメント欄は大盛況だ!
盛り上がってきたな!
今後も、ちょこちょこ現れるマスゴミ共をあしらっていると、昼日新聞と週刊文秋は批判の記事を書いた。
曰く、記者が攻撃されただとか、公平な報道を妨げているだとか。
もちろん、ネットユーザーである若者達の殆どは「何を馬鹿なことを」くらいに思っていたが、ネットの使えない老人は「けしからん」とわめき立てた。
ガキの頃、出前の野菜炒めが好きでさ。
しんなりしてしょっぱい野菜炒めを、うちで炊いたご飯でかき込んで、最後に残した肉を食って終わり、みたいな。あのチープな野菜炒めが大好きだった。
でも、大人になった今、色々と出前を頼んだが、あまり美味いとは感じられなかった。
どうしてだろうな。