ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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はあーーー。

だるい。

永遠に夏休みであって欲しかった。


41話 民宿『勇者』 後編

俺、南裕太は、妻の涼子と、北海道土井中村に旅行に来ている。

 

地元定食屋の海鮮丼は、安いのに新鮮で美味しかった。

 

「どうする?山に行く?」

 

「いや、北海道の山は危険だ」

 

「ああ、クマ?」

 

「そうだ。北海道のヒグマは、本州のツキノワグマと違って、百キロを超える体重を持つ化け物だ。人間なんて簡単に殺されちゃうよ」

 

「そうね、あんまり山の方には行かないでおきましょう」

 

「定食屋のおばさんは、商店街が結構充実していると言っていたから、行ってみない?俺もタバコ買いたいし」

 

「良いわよ」

 

 

 

と言う訳で、商店街へ。

 

もう三月なのに、まだ北海道は寒いんだな、雪もある。そんなことをふと思いつつ、コートの襟を直す。

 

涼子の温かい手を握って歩く。

 

タバコ屋の気難しそうなおばあさんから、愛飲しているメピウスを買い、その場で一服して、商店街を見て回ることに。

 

「田舎の商店街にしては結構広いね」

 

「そうね、人も結構いるし」

 

洋服屋と魚屋、肉屋、八百屋、弁当屋、豆腐屋、酒屋、模型屋なんかもある。

 

土井中村の人口が三千人くらいで、村の中で色々と賄うとすると、商店街が大きめなのも理解できる、かな?

 

「おじさんおはよー!」

 

「はいよ、ルシアちゃん!コロッケパンあげるよ!」

 

「わーい!ありがとー!」

 

ん……?

 

平日の昼間に子供……?

 

おかしいな、見てみよう。

 

「美味しー」

 

「な、あれは?!」

 

コスプレ、だろうか?

 

獣のような特徴を持つ少女がいた。

 

「貴方、写真!」

 

「あ、でも、一声かけなきゃ撮っちゃ駄目なんだ。カメラマンとして、マナーは守らなきゃ」

 

「じゃあ、早く声をかけてきなさいよ!スクープよ!」

 

「い、いや、俺の専門は風景だし」

 

「撮った方が良いわよ!未知との遭遇なのよ?」

 

うーん、じゃあ、頼んでみるか。

 

「あの、君、写真を撮っても良いかな?」

 

「良いけど?」

 

「ありがとう、それじゃあ一枚……」

 

うーん、人物を撮るのは苦手だ。

 

そもそも、人物を綺麗に撮るには、ストロボやレフ版を使って、光の位置にも気を遣い、時間をかけて撮る必要がある。

 

俺は、一期一会の風景を、ありのままの姿で撮るスタイルなので、人物を綺麗に撮れる自信はあまりない。

 

それでも、この狼少女の美貌は損なわれないが、どうせなら、もっと腕の良いカメラマンに撮ってもらうべきなんじゃないかと思ってしまった。

 

 

 

写真を撮りつつ、村を回る。

 

アンティークな雰囲気の商店街を写した写真は、風情があって、そこそこの値段になるだろう。

 

途中、狼少女と同じような、異形の女性に会うことが多かったことには驚いた。

 

とは言え、人物の写真を売るのは避けたい。俺が書いているアフェリエイトブログに写真を公開する許可はもらったので、ブログで公開するだけにしておこう。

 

そして、宿には早めに戻る。

 

冬は、陽が落ちるのも早いし、このような雪深い田舎で迷子になったら危険だ。

 

それに、妻も仕事をしたいだろうし、宿の中で休もう。

 

自分のブログに今日のことを書きたかったし、早めに休んでおこう。

 

二泊三日で、明日も観光する予定だし。

 

晩ご飯は午後の六時から十時までに食堂に行けば良いらしいので、八時頃に行こう。

 

妻も、机の上でペンタブレットを操作して、デザイン画を描いている。

 

そのようにして、部屋で数時間の間、くつろぎながら仕事をする。

 

あっ、何だこのティーポット?!無限に紅茶が出るぞ?!

 

そして、俺がブログを書き終わった頃には、八時を過ぎていた。

 

お腹も空いてきたことだし、妻と食堂へ向かう。

 

メニューは、鹿肉のローストとミネストローネ、サラダと副菜をいくつか、ロールパンとバターライスが選べる。

 

昼が米だったので、ロールパンを選び、注文。

 

まるで機械のように精密に動き回るメイドさんが、料理を持ってきた。

 

「「いただきます」」

 

料理は……、素晴らしいの一言だった。

 

高級なレストランに匹敵する程の美味しい料理だった。

 

デザートまでまさに完璧の一言だ。

 

やはり、魔法を使って作ったのだろうか?

 

 

 

そのあと、少し時間をおいて、浴場へ。

 

「……うわ、何だこれ。大理石?」

 

ローマ的な浴場だった。

 

かなり広めの風呂で、入浴した後は不自然な程に身体の調子が良くなり、驚いた。

 

「まあ、良い湯だったな。メガネメガネ……、あれ?」

 

おかしい。

 

メガネをかけると、逆に視界が歪む。

 

「あれ?どういうことだ?」

 

メガネを外す。

 

……ものが鮮明に見える。

 

「……え?あれ、これは、あれか?」

 

視力が回復している……?

 

「……いや、おかしいだろ?!」

 

フロントに駆け寄る。

 

「あ、あの!風呂に入ったら、視力が回復したんですけど、これはどういうことですか?!」

 

メイドさんは、相変わらず、機械じみた無機質な目でこちらを見て、言った。

 

「本民宿の浴場には、微弱な回復魔法をエンチャントしており、視力回復、皮膚病、生活習慣病、その他怪我などを回復する効能があります」

 

「効能の範囲じゃなくない……?」

 

「効能です」

 

押し切られてしまった。

 

「あれ?貴方、メガネは?」

 

「いや……、なんか、風呂に入ったら視力が回復した」

 

「何それ?」

 

 

 

部屋に戻る。

 

「ルームサービスとか頼まない?ビールとか、軽食とか欲しいわ」

 

妻がそう言った。

 

「良いけど……」

 

ルームサービスねえ。

 

あ、これかな?

 

内線電話の隣に羊皮紙らしきものがある。

 

ええと、何々?

 

軽食メニュー、日振食品カップラーメン(醤油、シーフード、トマト、カレー)、枝豆、各種フライ(唐揚げ、白身魚、タマネギ、エビ、牡蠣)、野菜スティック、各種サラダ、各種ナッツ、ガルビーポテトチップス(コンソメ、うすしお、のり塩、しょうゆ、バター)、各種干物、各種漬物、その他ご要望があれば何でも?

 

酒は?

 

ビール、北海道産の日本酒、焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ジン、ワイン、テキーラ、ラム、ブランデーをそれぞれ6種類ずつくらい。カクテルを十数種類と、酎ハイも数種類。こちらも、言えばできるだけ用意するとのこと。

 

サービスは、アイロンがけ、洗濯、マッサージ……、この辺りは普通だが。

 

中には、各種戦闘術訓練、ボードゲームの相手、耳かき、紙芝居、楽器講習、腕相撲……、だいたい何でもやります、とある。

 

一体、どこの世界に、従業員のメイドがボードゲームの相手をしてくれる宿があるって言うんだ?!

 

ん?

 

これは……?

 

魔力操作訓練?

 

何だろうか、これは。

 

フロントに聞いてみよう。

 

受付時間は……、24時間営業?!

 

そもそも、この電話も黒電話っぽいのにコードレスだし!

 

ええい、兎に角電話するぞ。

 

「も、もしもし?」

 

『はい、フロントです』

 

うわ、繋がったよ?!

 

「あ、あの、夜食を」

 

『はい』

 

「値段が書いてないんですけど……」

 

『基本的に無料です』

 

無料って。

 

「あー、じゃあ、枝豆とビールを二人分。銘柄はエサヒスーパードライでお願いします」

 

『かしこまりました』

 

「その、それと、この、魔力操作訓練とはなんですか?」

 

『お客様の体内の魔力に干渉し、魔力操作のコツをお教え致します』

 

は?

 

「えーと、それをすると、何か良いことがあるんですか?」

 

『個人差はありますが、日本人の場合、身体能力と知能が三割から五割上昇するというデータがあります』

 

なんだそりゃ。

 

「それも無料なんですか?」

 

『無料でございます』

 

妻に目配せする。

 

「いいんじゃない?無料ならやってもらいましょうよ。エステみたいなものでしょ、多分」

 

「じゃあ、その、魔力操作訓練?とか言うの、お願いします。二人分で」

 

『かしこまりました。お時間は今すぐでよろしいでしょうか?』

 

「はい」

 

その瞬間、部屋がノックされる。

 

ドアを開くと、内線のメイドさんが。早くないか?

 

「魔力操作訓練に参りました。入室してもよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

何をされるんだろうか?

 

「では、楽な姿勢で動かないでいていただけますか?」

 

「「はい」」

 

その瞬間、身体の中に波が起きたような違和感が。

 

数分、違和感と格闘して、呻いていると、段々と波の動かし方が分かってきた。

 

「これが、魔力……?」

 

「凄い……!」

 

身体が軽い、頭が冴える。

 

「訓練は終了致しました。こちら、ご注文のビールと枝豆になります。では、失礼致します」

 

そう言って、音もなく消えるメイドさん。

 

これが、魔力なんだ!

 

 

 

その後は、酒を飲んで寝た。

 

ベッドも異常に寝心地が良い割に、普段より一時間早く起きてしまって、なおかつ、目は完全に醒めて、身体の調子は中高生の頃のように絶好調だ。

 

二日目は、宿から出ずに、妻と一緒に魔法の訓練を一日中やった。

 

結果、蛍光灯程の光の玉を出せるようになった。

 

ここは、単純な宿としてもトップクラスのコスパとサービスで料理も最高。

 

フロントで、記念品に、一つ三万円程の魔法がかかったペアリングを購入してから帰宅。

 

総合的に見て、ここよりも面白い体験ができる宿は、世界のどこにも存在しないと思う。

 

 

 

……と、自分のブログに書いたところ、ブログを始めて以来最高のPV数を叩き出した。

 




ゼロワン面白い。

みんな見よう!

ステマはさておき、帰還勇者の中弛みんがみんみんですわよ?

でも、中弛みしても書かなきゃならんところはしっかり書くぞい。

帰還勇者のコンセプトが、最初の方は、「自重しない異世界転生チート主人公が日本に帰ってきたら?」という問いかけであり、次に「超文明異世界国家が地球に来て、世界にダンジョンが現れたら?」という問いかけであるんですわな。

ポストアポカリプスダンジョンでは、「滅亡世界で必死に生きる人々を横目に、楽々快適生活を送るクズども」がメインテーマなので、現代にダンジョンが現れたらどうなるか?と言う点については差別化できてんじゃねーのかなー、とは思うんだけどね。

ポストアポカリプスダンジョンは、世界中に何十万ものダンジョンがボコボコできて世界がヤバイ!って世界観なんですけど、帰還勇者のダンジョンは世界が滅ばない程度にちょこちょこっとダンジョンができて、各政府がダンジョンから取れる新素材に目の色を変えている……、みたいな緩い世界観です。

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