現実はクソ。
アンドレ・ペレイラ。
国連事務総長。
57歳、ポルトガル人、男性。
そいつは、流暢な英語で、マイクに言い放った。
『では、魔法使い、レイジ・ヨロイ氏の答弁を始めます』
そう、ここはニューヨークのマンハッタン。
国連の総会。
不遜にも出頭命令を出してきた国連の馬鹿共に付き合ってやろう、という訳だ。
事務総長は、俺を、総会議事堂の壇上に立たせて、各国から質問を募った。
すると、中国の国連大使が、これまた流暢なアメリカ英語で、俺に「勧告」する。
『我々、国際連合は、地球平和の為に、テロ予備軍は国際的に管理されるべきだと考えています』
ふーん。
『鎧嶺二氏には、魔法の国際管理の為、国連への従属を求め、また、魔法使いは全員、国連の管理下に置かれるべきだと提案します』
成る程成る程。
『嫌だね、バァカ』
静まり返る議事堂。
『正直に言えよ、魔法を使って世界を手に入れたいってよ。北伐じゃあ飽き足らず、世界を狙ってるんだろ?』
『ば、馬鹿な!侮辱だ!我々は平和を愛する民主的な国家であり、世界の覇権などとは考えていない!』
『またまた、謙遜するなよ。日本のどこを燃やしたいんだ?チベットの寺みたいに、金閣寺でも焼いてみるか?ハハハハハ!!!』
『大変に不適切な発言です!レイジ・ヨロイ氏は発言を直ちに取り消して下さい!』
慌てた事務総長が言った。
『ははは、馬鹿言うんじゃねえよ!どこの国も、何だかんだ理由をつけて、魔法という利益を独り占めしようって魂胆だろ?ハイエナが国連の議員になれるとは、国連は凄いなー!動物園にしてはレパートリーが少ないようだが』
『レイジ・ヨロイ氏!!!』
『何だ?俺は何か間違ったことを言ったか?』
『中国どころか、世界中の国々対して、酷い侮辱をしました!』
事務総長が声を荒げる。
ふむ。
『そうか。で、どうする?軍隊を呼ぶか?核ミサイルで日本を吹っ飛ばすか?そりゃいいな!二個目の原爆ドーム建てようぜ!ハハハハハ!!!』
今度は騒つく議事堂。
『なんて奴だ!』
『外道め!』
『最低だ!』
木っ端みてえな小国の皆様が野次を飛ばしてくる。
『いやあ、アレだろ?ぶっちゃけた話、今回のこれって、常任理事国のワガママだろ?』
『レイジ・ヨロイ氏!』
『平和の為に?嘘吐くなよ。本当は、弱そうな日本を脅して、魔法を取り上げてやろうってことだろ?正直に言った方が好感が持てるんだがな。無様に犬の真似でもしたら、金塊でも恵んでやるよ!』
野次は更に大きくなる。
『せ、静粛に!静粛にして下さい!静粛にー!!!』
事務総長が叫ぶ。
騒乱が鎮まるのに、たっぷり五分はかかった。
嫌味な学校の先生なら、それをネチネチと責めてくるだろう。
全く、いい大人がなんて様だ。
そして再び、中国の代表が「勧告」してきた。
『貴方はあまりにも野蛮だ。国連軍の派遣はより確実なものになったと言える!』
『で?やれば良いんじゃねえの?但し、俺に攻撃してきた場合、その国は石器時代どころか細菌一つない先カンブリア時代以前に戻してやるが』
国土を地球誕生当初のマグマ溜まりに変えてやるぞ。
『それはテロの宣言だと認識するぞ!』
『はあ?お前らが攻撃するって言うから、やり返すって答えただけだろうが。大人しく殴られろとでも言うのか?』
『やはりテロリストだ!会議はもう必要ない!国連軍の派遣を!』
いきり立つ中国。
さて、世界大戦でもやるか?
などと考えていると。
アメリカ代表が手を挙げて、発言した。
『我々アメリカは、レイジ・ヨロイ氏が、世界の利益になるのであれば、国連軍の派遣は控えても良いかと考えています』
『何だと?!』
驚きの声を上げる中国代表。
『元々、核武装すらしていない日本に、日本の自衛隊が自由に使えない戦力がある。これは、日本とは何の関係もない話です。別に、日本が世界の覇権を握る軍事国家になったという訳ではない』
『しかし、核武装並の危険性があるのは確かなんだろう?!』
『仮に、ジャパンが核武装並の攻撃力を保有していたとして、それをみだりに使おうとは考えないでしょう』
『そんな保証がどこにある?!』
『例えば、我々アメリカも、貴国チャイナも核を保有しているし、弾道ミサイルでお互いの国全域を攻撃できます。しかし、今までの歴史で、そんなことをしたことはないでしょう?』
『……それは、日本がやらないという保証にはならない!』
『例えばの話ですよ。まず、大前提として、レイジ・ヨロイ氏は日本政府とは全く関係がない。そうですよね、Mr.ヨロイ』
ふむ。
『そうだな、俺は日本人だが、日本に住んでいるのは、日本の国籍しかないし、一番過ごしやすい国だと思っているからという理由でしかない。愛国心などこれっぽっちもなく、日本の為に軍事的、政治的、あるいは経済的に援助をしようなどという考えは一切ないと明言しておこう』
俺が答えた。
アメリカ代表は、短く礼を言うと、言葉を続けた。
『えー、このように、レイジ・ヨロイ氏は、例えるならば、そうですね、ジャパンに「間借り」しているような状態であり、国家間の戦力には含まれないと、アメリカは考えています』
それを聞いて騒めく議事堂。
『どう言うことだ……?』
『何故アメリカはレイジ・ヨロイを擁護するんだ……?』
『何か密約が……?』
アメリカ代表は、まだまだ言葉を続ける。
『先程、Mr.ヨロイから、敵対する国家は細菌一つ残らない先カンブリア時代に戻すという言葉がありましたが、それは、戦略核でも可能なことです。つまり、日本の一地域、土井中村が、バチカン並に小さな国土の核保有国になったと考えましょう』
『ふざけるな!我が国のすぐ側にそんな危険な国があってたまるか!』
中国代表がキレ散らかす。
『Mr.ヨロイ。仮に、軍事力を行使した場合、射程範囲はどれ程でしょうか?』
聞かれたなら答えてやろう。
『世界全土だ。アメリカも中国も、南極北極拘らず全部だな』
『となると、国土がどこであれ、射程範囲内という事ですね。つまり、弾道ミサイルと変わらない』
『だ、だが……』
中国代表がゴネるのを無視して、アメリカ代表は更に言葉を続けた。
『皆さん、よく考えてください。確かに、領地はありませんが、世界中が射程範囲の弾道ミサイル並の戦力を持つ個人の出現は驚くべき事です。恐怖するのも当然でしょう。しかし、そんな強大な存在に対して、無理矢理に力を取り上げようとすることは愚かだと思いませんか?』
そうか?
割と普通の反応だと思うが。
『レイジ・ヨロイ氏は、テロリストではありません。侵略の意思はないと宣言しています。それなのに、力を奪おうと強制的に介入する方が危険だと考えられませんか?そもそも、何故、新たな隣人だと認められないのでしょう?』
ふむ?
『ガジラやエンペラーコングのような明らかに交渉不可能な怪獣という訳でもないでしょう?まずは、対等な立場からの交渉をするべきだと我々は考えます』
そうなのだろうか?
『確かに、いきなり軍隊を派遣するのはやり過ぎかもしれない』
『だが、急にそのような巨大な戦力が世界に現れるのは容認できない……』
『しかし……』
様々な議論が飛び交う。
ふむ……。
まず、勘違いをしているようだから、そこを指摘するか。
今はポストアポカリプスダンジョンを書き溜めてます。
スペースオペラ書いて欲しいとの依頼があったので、そちらも書こう。