香港。
かつてのイギリスの植民地であったこの地は、共産主義の中国本国とは違って、ここだけは2047年まで資本主義を掲げられる唯一の地だ。
クソッタレな共産主義者のロクデナシ共と比べると、資本主義のなんと素晴らしいことか。
共産主義など所詮、みんなで一緒に貧乏になりましょうという無理心中に過ぎない。
資本主義こそ、努力した者達皆が幸せになれるシステムなのだ。
……ということにしておく。
ぶっちゃけ、俺に思想がどうこうみたいな話はない。
全てがどうでも良い。
どうでも良いんだが、少なくとも、俺は嘘をつく奴が嫌いだ。それも、他人を守る為の嘘ならまだしも、自分の地位を守る為の薄汚い嘘はヘドが出るほどに嫌いだ。
共産主義者は皆口を揃えて、「みんな平等に」と理想を謳う。
その癖に、そのみんな平等にと口にする奴らは、自らの見栄や金の為にしか動かない。
本気で「みんな平等に」という理想を目指し、身銭を切り、弱き人々に手を差し伸べる。これならば良いだろう。俺は、そんな善人がいるならば認めるし、敬意も払おう。
だが、口では「みんな平等に」という癖に、自分だけ贅沢をして、弱き人々に鞭打つような奴ら。
そう言うクズ共は大嫌いだ。
それならまだ、「世界は平等じゃない」と言い切って、富を独占しようと努力する奴の方がずっと好感が持てる。
共産主義者の言う「みんな平等に」と言うのは、つまるところ、自分を良い人に見せる為の嘘であって、本当にみんな平等になどとはこれっぽっちも考えていない。
俺は、そう言った欺瞞が大嫌いで大嫌いで仕方がないんだよ。
何でそんな話をしたかと言うと、だ。
魔導具店香港支部への視察に行った俺は、今現在、その大嫌いな共産主義者達のせいで帰国できない状態にあるからだ。
順を追って説明しよう。
まず最初は、つつがなく香港へ到着し、視察も終わらせて、香港の観光をして、美味い中華を食べ歩きしていた。
ここまでは良い、いつものことだ、何の問題もない。
しかし、ここからが駄目だ。
俺が香港に来ている日に、まるで狙いすましたかのように、香港政府が発表したのは、「特例法」と言うものだった。
これは、簡単に言えば、香港や台湾にいる人でも捕まえて、「中国が」裁くことができるようになる、と言うもの。
民主主義の香港にいても捕まって引っ張られて、あの共産主義の中国の裁きを受けさせられると言うことだ。
則ち、ちょっとしたことでいいががりのように絡まれて逮捕、そして拷問される。こんな中国の法律が、香港でもまかり通るようになってしまうと言うこと。
恐らくは俺が香港に来たと聞いて、即座にこの法案を通すことで、俺を適当な罪状で中国に呼び出して利益を搾り取ろうと言う意図があるのだろう。
と言うより、調べたら香港の親中派議員がそんな話を中国側としているのを聞いた。
どうやって?
俺くらい魔法に習熟すると、世界の裏側にいる人間の会話を聞くこともできる。
魔法的に防御されていない議事堂で電話なんざしたら百パーセント俺に内容がバレるぞ。
中国共産党の「素晴らしい計画」によると、俺の荷物だとでっち上げた麻薬の詰まったアタッシュケースを、優秀な治安当局が見つけて、俺を逮捕して死刑。
しかし、人民に優しい中国様は「恩赦」を出してやるから死ぬまで中国でタダ働きすれば死刑は勘弁してやる、とのこと。
うーん、舐め腐ってるなー。
そして、この法案について、香港の人々は大いに怒り、デモを始めた。
当たり前だ、民主主義の下に生きる香港の人々がいきなり野蛮な共産主義になれと強要されて抵抗しない訳がない。
香港では特大のデモが始まった。
香港の住民は七百万人。
その内百万人が参加するデモだ。
それを受けた中国の治安当局は、暴徒鎮圧用の銃やシールドを持って現れ、デモ隊の人々を無力化していった。
俺には関係ない話だ、帰りたい。
しかし、空港は閉鎖されている。
うーん?
もし、香港が本当に共産主義に飲み込まれたら、香港支店も何だかんだ理由をつけて壊されるだろう。
それは別にどうでも良いんだが……、俺に喧嘩を売った以上、やり返す義務が俺にはあるからな。
殴られてヘラヘラしてると舐められる。
攻撃されたらやり返す。
当たり前のことだ。
さあ、やろうか。
まずは、メイド部隊のマンパワーを使って、先程の香港政府と中国共産党のやり取りを録画して、あらゆるネットワークに流す。
また、中国共産党当局は九万人のデモだと偽っているし、報道もまるでしていないので、百万人規模のデモであることをネットで放映。
デモ隊がどのような扱いを受けているのか、中国共産党と中華マフィアのつながり、デモ隊のふりをした工作員が悪行をしているところ。
その全てをあらゆるネットワークに流す。
もちろん、中国のネットワークは即座に遮断されているが、こんなこともあろうかと買っておいたスパコンを十台フル稼働させているので、遮断した端からIPを変えてネットに放流しまくっている。
そんなことをしていると、慌てた中国政府は、この特例法を取り下げた。
無かったことにしようとも、既に世界中で大騒ぎになっていて、揉み消しは不可能だ。
一旦取り下げて再考すると言葉を濁した中国政府。
だが、デモ隊は手を緩めない。
中国政府は軍隊を派遣するが、軍隊は全て、道中に謎の機材の不調により立ち往生し、デモ隊は香港の議事堂前で昼夜問わず声を上げ続けた。
何で軍隊が駄目になったのか?いやー、俺はよくわかんないなー、ほら、中国製品はよく爆発するらしいしなー。
そして、香港政府はデモ隊に降参して、特例法を完全に取り下げた。
一方そのころ、俺はチベットのダイラ・ヤマ氏と面会して、チベットに千億円程募金し、チベットは独立した国だと認めますと言って、それをネットに公開する。
中国に対しては最高の挑発だ。
そうやって、煽るだけ煽ったら、日本へ帰国。
以降、中国は、魔導具を邪教の禁制品として、中国国内で魔導具を持つものは逮捕されるようになった。
香港支店?
香港支店は空港のすぐ側にあるから、おみあげとして買って行く外国人が多い。中国人からの売り上げが減っても困らないよ。
さあ、帰ろう。
具合悪いんで、旅人提督はお休み。
こっちは書き溜めを放出。