バラジュエナの港から徒歩で一時間、バラジュエナ駅に到着する。
しかし、おかしいのは、駅と銘打っている割に、線路がないことだ。
「あの、線路は……?」
私、宇崎使節団の特務大使である宇崎春雄は、狼人間のテンペスタ男爵に質問する。
「線路?いつの話してんだよ、そんなもんは何十万年も前になくなってるっつーの!」
線路がない?
それは列車なのか……?
「時刻表によると、あと五分だな」
時刻表は、掲示板の上で文字が動いている。
電光掲示ではなく、木版にインクで書かれた文字がうねって、電車のように次の列車がいつ来るのかを示している。
パンタジア語で、あと五分後に列車が来ることを示しているが……?
五分待つと、列車が……。
『バラジュエナー、バラジュエナに止まりまーす』
「そ、空から……?!」
空から列車が降りてきた。
最早、常識の範囲外だ。
確かに、私はあまり詳しくはないが、空飛ぶ列車はファンタジーの定番のように思える。
しかし、プロペラも、ジェットエンジンもないのに、空を飛んでくるとは……。
「乗れ」
「は、はい」
『出発しますー』
「あの、これ、料金とかは?」
「ナシナから引かれてるに決まってんだろ」
電子マネーか……。
「しかし、簡単にアクセスできるなら、不正アクセスされて、ナシナ内のドグラマを操られてしまうのでは?」
「はぁ?そんなことが出来るような大魔導師なら、最初から普通に稼いだ方が儲かるぜ?」
ハッキングもほぼ不可能、と。
「この列車はどのようにして飛んでいるのですか?」
「魔法だ」
また、魔法か……。
「どのような魔法ですか?風を吹かせているのでしょうか?」
「いや、空中に一時的に仮想の線路を生み出して、それの上を走ってんだよ」
斜め上だ……。
「安全面などは……?」
「事故なんざ一度もねえよ」
全く揺れずに、快適な気温で、安全さも保障されている。
我が国の電車も、世界に誇る技術だが、この列車が本当に今まで無事故だったならば、我が国の電車に匹敵、いや、上回るだろう。
空を飛ぶ列車ならば、踏切も線路も必要ない。
この国の物流網の凄まじさが伺える。
ん……?
他に列車はないのだろうか?
「列車は一日にどれくらい本数があるのですか?」
「さあ……?少なくとも、バラジュエナには一日百本くらいあるだろうな」
ふむ……?
「他の列車が見えませんね」
「そりゃあ、列車によって、飛ぶルートも高さも違うからな。この列車は低い位置を走るから、他の列車とすれ違ったりはしねえよ」
位置関係的に見えないだけか。
「あとは景観の問題から、貨物列車は『ステルス』の魔法で見えないようになってるな」
光学迷彩まで……。
もう驚かないぞ。
王都レーベリオン。
ベスティエの首都である。
内陸地の巨大な城塞都市であり、常識外れの白亜の巨城がランドマークだ。
「ここが、レーベリオン……」
「おお……」
「凄い……」
我々、宇崎使節団は、レーベリオンを興味深そうに眺める。
『レーベリオンー、レーベリオンに到着でーす』
列車から降りて、駅を出る。
ナシナを確認すると、二千ドグラマ程引かれていた。
因みに、列車内で聞いたが、ナシナを持たずに、または、ドグラマの残高が足りない状態で乗車すると、データベースに記録され、あとで倍額の運賃を支払うことになるそうだ。
さて……。
予定通りに、国王陛下に親書をお渡しして、我々は、わざわざ作っていただいた日本の大使館に案内された。
日本の大使館は、電力や上下水道の仕組みが全くの謎であること以外は、全て正常に動作している。
ただ……。
「何故武家屋敷なんだ……?」
何故か建物は武家屋敷だった。
因みに、諸外国の大使館も近くにあるが、どこもおふざけのような出来だった。
アメリカ大使館は、まるで西部劇の酒場のような木造建築。
ロシア大使館は、ホテルモスクワの小さい版のような出来。
イギリス大使館は、ゴシック調の美術館のような石造り。
各国は、それとなく、馬鹿にされているのだろうかと問い合わせたが、ベスティエの主張によると、各国の文化を調べて、それぞれの国の代表的な建築物を真似たらしい。
ああ……、なんというか、忍者が実在すると思い込む外国人のような思考回路だ……。
とはいえ、無償で建築してもらい、管理維持費も完全にベスティエが持ってくれるとなると、建て替えろなどとは口が裂けても言えない……!
幸い、応接室はしっかりとソファーやテーブルのある洋室だし、外装はアレだが、内装に問題はない。
因みに、この諸外国の大使館前には、ベスティエの亜人達が珍しがって見にくる。
どうやら、「ブルノック」なる、SNSのようなものが存在するらしく、各国の大使館の前で、ナシナで自撮りを撮って、ブルノックに掲載する亜人が沢山いる。
やっていることが女子高生と同じだ……。
さて、昼時。
我々は空腹を感じ、テンペスタ男爵に飲食店について尋ねる。
「あの、男爵?この辺りで飲食店は?」
「ナシナに聞け」
「ええと、『この辺りの飲食店は?』と」
『地図を表示します』
立体的なマップに矢印が表示され、飲食店が表示される。
種類ごとにソートできるようだ。
ん……?
「この、店舗情報の右上にある犬の顔のマークは何ですか?」
「ああ、そりゃ肉食獣人向けメニューのある印だ。お前らは食えねえだろうから、この森人族の横顔のマークがある店にしろ」
「参考までに、肉食獣人向けメニューとは……?」
「骨つき生肉をハーブ塩漬けしたものとか、内臓を血液ソース漬けにしたもの、砕き骨のスープ、生肉ミンチに生卵を乗せたものとか……。まあ、肉食獣人以外は食わねえな。食えないことはないだろうけどな」
な、生肉……。
それは無理だ。
「森人族のマークは、森人族、鉱人族、多腕族、仙人族のような超人系亜人を示すマークだ。超人系亜人は、人間と味覚が殆ど変わらねえからな、お前らでも食えるもんが出てくるだろうよ」
「成る程」
「行くんなら……、ここのボノボーノが良いと思うぜ。ここは値段も手頃な割に美味いし、亜人国家全国にあるチェーン店だ」
フランチャイズ店舗も存在するのか!
我が国でも、フランチャイズ店舗は多数存在する。ファミレスと言うものだな。
もし、このボノボーノがファミレスであれば、亜人の基本的な食文化を知れるかもしれない!
「このボノボーノは、どんな特徴が?亜人国家の家庭料理のようなポピュラーなものがあるのでしょうか?」
「ん、ああ、そうだな、亜人国家共通で食べられてる基本的なメニューが出るぜ。あんたらは亜人国家について調べてんだろ?なら、ここが良いだろうぜ」
「分かりました、ここにしましょう。あ、ですが、人数的に大丈夫でしょうか?」
「んー?ボノボーノは二百人くらい入れるから行けるだろ」
そんなに広いとは、インドの大衆食堂のようだ……。
帰還勇者、書き溜めがもう残り5話くらいだぞ!
次に何をぶち込むか各自考えておくようにー!
メガテンかな?ポストアポカリプスダンジョンかな?それとも別のやつ?