宇崎使節団は、半年間のベスティエの調査を終え、無事に帰国したそうだ。
いや、俺は別に、国際情勢とかまるで興味ないんだが。
なんとなくニュースを見ているだけだ。TLに流れてくるんだよ。
最低限のニュースくらいは目を通している。
今、日本のテレビでは、帰国した宇崎使節団の話題でもちきりだ。
亜人国家があまりにも先進的な国家であることが、映像付きで証明され、一部のキチガイ国家以外は警戒心を高めると同時に、利益を見出していた。
反応は様々だ。
どことは言わないが、頭の悪い国や団体は、亜人国家の技術力を認めずに笑っていた。
それなりに賢い団体は、利益と脅威を天秤にかけて唸る。
そして、心底頭の悪い連中は、亜人国家から利益を吸い上げることだけを考え始めた。
心底賢い連中?そんな人間は少数派過ぎてなんもできねーよ。
人類の過半数はアホだからな。
いかに賢い人間が頑張ったところで、世界の大多数であるアホに潰される。
実に素晴らしい民主主義だな!
さて、そんな素晴らしい地球国家群は地域によって全く違う反応を見せている。
まず、アメリカだが、チェス大統領のアメリカ第一の政策により、「世界の警察」のような立ち回りは控えられ、亜人国家との友好関係を内外にアピールすることに必死になっている。
チェス大統領は、違法移民やイスラム教徒を迫害している癖に、得体の知れない亜人は差別しないのかと、そのダブルスタンダードな姿勢に対して、アメリカ民主党を中心に、敵対派閥が大きく批判してきた。
だが、チェス大統領が、「違法移民はアメリカ人から雇用を奪って、イスラム教徒はアメリカ人をテロで殺すけど、亜人はなんもやってないから差別する必要なくね?」みたいなことを言うと、まあ、「尤もだ」と受け入れられた。
チェス大統領は、違法移民やイスラム教徒に厳しいが、それによって、純粋なアメリカ人からの人気は高い。
まあ、違法な手段で国に住み着く奴や、移民の癖にアメリカのやり方に反発する奴とか、アメリカからすれば普通に邪魔なんだよな。
綺麗事を言い続けて国を食い潰されるか、シビアに切り捨てるかのどちらかという時代な訳だ。
これからの時代、綺麗事を言い続けて壊死するか、後ろ指指されようとも発展するかの二択しかない。
事実、中国などは、後ろ指を指されまくっているが、なりふり構わないやり方で発展を続けている。
チェス大統領も、それを見習って、という事ではないのだが、多少の批判は承知の上で、なりふり構わない発展を選んだ。
そうして、チェス大統領は、亜人国家との交易は莫大な利益をもたらすことを力説し、国民を説得。
そして、その説得材料に、魔法素材を使って作った、冷却不要の超伝導送電線を発表し、この送電網の新設を公共事業として決行し、雇用を確保。
国債をがっつり発行して、魔法素材の購入と新技術の開発に資本をぶち込むことを決定。
更に、宇宙開発にも大きく力を入れて、将来的には魔法によるテラフォーミングでの宇宙移民なども考えていると発表。
その他にも、魔法薬を保険の適応外だが、少量輸入して、不治の病や肉体の欠損、生まれつきの障害すら治せることを、全力で公表。
チェス大統領は、自ら、私財の一億ドルで魔法薬を購入して使用して、五十歳ほど若返った上で、肥満と糖尿を治療して、その健康で若々しい姿を国民に見せつけた。
チェス大統領は、自らの体重や血液検査の結果のビフォーアフターをツブヤイターに投稿して、「亜人国家の技術を吸収すれば、若返りすら可能だ」と訴えかけた。
これは、マスメディアがどれだけ偏向放送を繰り返そうと覆らない事実として、人々に認知された。
そのように、アメリカは徹底的に動いた。
この出来事により、若返りの魔法薬は、アメリカのセレブ達の間で、膨大な金額のオークションにかけられ、売った政府側は莫大な利益を得た。
何せ、亜人国家の若返りの薬なんて、大体数億円もあれば買えるのに、セレブ達は何十億何百億円という値段で買うからな。
数億円で買った魔法薬が数百億円に化けるなら、最高の投資だろう。
何十億円分買ったってバカ売れだ。
最初は半信半疑でも、話題作りにと買った老いたハリウッドスター辺りが、次々と、かつて最も輝いていた頃の姿に戻って、再び映画界に返り咲いたのだから、人々の熱狂っぷりと言ったら異常だった。
そうして、金満のアメリカ政府は、その金を魔法素材の研究に回す、と。
ロシアは、アメリカと似たように、独自路線で活動を開始。
魔法素材の買取と、それの研究をなりふり構わずやり始めて、利益を上げている。
主に、軍事転用を想定して、新兵器の開発に乗り出しているようだ。
亜人国家の征服も視野に入れており、技術開発に余念がない。
また、宇宙開発にも力を入れ、宇宙に領土を広げようと考えている。
若返りの薬も、悪名高いプチロフ大統領が購入して使用。
若さを取り戻したプチロフ大統領は、精力的に活動を再開して、亜人国家の兵器の購入を決定した。
そして、亜人国家から送り届けられる、型落ちの戦闘機兵。
亜人国家も馬鹿じゃないので、ロシアが危険な侵略国家であることは理解しているから、骨董品レベルの旧式を高値で売りつけたそうだ。
だが、亜人国家の骨董品兵器は、この地球世界において、千年先の科学力がなければ再現できないような魔導兵器であるからして、ロシアは狂ったように魔導兵器の解析と、魔法についての情報集めを始めている。
今回ロシアに送られた兵器は、単なるカスタムゴーレムだ。亜人国家にとっては、レシプロ機どころか投石機レベルのもの。
今のロシアは、それを必死にリバースエンジニアリングしている。
中韓は……。
駄目だな。
各国の使節団が発表した内容について、全てデタラメだと、中国共産党が公式発表。
中国韓国共に、自国のネットワーク上から、亜人国家に対するあらゆる情報を検閲し、削除した。
しかし、「若返りの秘薬」……。
秦の始皇帝が求めたアレだよね。
中国人は若返りの秘薬を求めてやまない。
権力者が最終的に行き着くのは「永遠の命」だからな。
表向きには、反亜人国家を強固に示しているが、中国共産党は、裏ではなりふり構わずに若返りの秘薬を求めて行動している。
まあ……、正規ルートの取引窓口を自分で閉じてしまっているから、裏ルートでの取引をしようとしているな。
お陰で詐欺が物凄いことに。中国共産党の決まりで、魔道具などの異世界由来の製品、素材は全て違法とされているから、表立って「若返りの秘薬」を買おうとして詐欺られました!と通報することもできず、たくさんの人が詐欺被害に遭っているそうだ。
欧州は、キリスト教の亜人の扱いについて議論が巻き起こり、面白いこと(他人事)になっている。
まあ、都合が悪い時に使っていた文言である「悪魔」が実在したとなれば、大騒ぎにもなるわな。
キリスト教は、都合の悪い存在に対し、「悪魔」や「魔女」などと言って弾圧をしてきた連中だ。
本物の悪魔と魔女への対応についてどうするか、キリスト教圏の欧州は荒れに荒れている。
みんな大好きネオナチは、亜人種を認めない方針。基本的に極右極左両方駄目。中道の政党が受け入れる方針を示している。
カトリックの息がかかった保守派政党は、亜人との交流を拒んでいる。アブラハムの宗教はこれだから……。
まあ、別に俺は一切困らないから構わないんだけど。
バチカンは、「亜人が来たのは神の思し召しかどうかは今後の亜人の行動によって分かる」みたいな玉虫色の結論を出してきた。
キリスト教にとって良い結果であれば、「神の思し召しだった!」と言い張り、悪い結果であれば「悪魔の使いだ!」と騒げば良い。
狡猾なドイツは、積極的な亜人国家との交流を目指しているらしい。
そして、日本……。
日本は、何というか……、混沌としていた。
つまり、いつも通りである。
具体的には、例の売国政党が暴れ回り、まともな政党がひいこら言って働く。管原官房長官も、大好物のパンケーキを食べる暇のないくらいにフル稼働しているらしい。
KAROUSHIの国ニッポン、面目躍如である。
さて、世界はそんな調子だ。
まあ、俺には関係ないな。
だが……、亜人国家がこっちに来たならば、嫁を里帰りさせてやろうか。
地球文化もそこそこ入ってきているらしいし、亜人が地球文化をどのようにして楽しんでいるかに興味がある。
さーて、帰還勇者の書き溜めがなくなった訳ですが。