ルシアの実家に向かった。
銀狼族の里は、ウルフェンロアにある。
昔はベスティエに有ったらしいのだが、戦火などから逃れる為にウルフェンロアに移転したらしい。何万年も前の話だ。
そんな銀狼族の里は、ウルフェンロアの島の端っこにある。
まあ、ぶっちゃけた話、日本にある中華街みたいなノリで、銀狼族街がある感じだ。
基本的にウルフェンロアはそんな風に種族ごとの街が集まってできている感じだ。
街の様子は中華街とは全然違うのだが。
『銀狼族の里』と言う名の街は、石のタイル張りの地面と、黒と銀色の幾何学的な模様が溢れる街だ。
黒と銀色は銀狼族に好まれるらしく、街の各所に黒を基調にして銀を取り入れるスタイルの建物がある。
うん……。
そうだね、サイバーパンクだね。
黒い街を、青や赤のVR広告が照らし、青白い街灯の下で無機質なゴーレムが謎の肉料理を売りさばいている。
ちなみに、銀狼族はみんな、カードゲームアニメのキャラクターのようなパンクなファッションをしている。
何だこの国……。
ルシアも、いつも黒いチョーカーと、ノースリーブの黒い革ジャン、ベルトで留められた手甲、赤い短パンに銀のブーツ、そして銀色の鎖がジャラジャラ。
俺はいつ、「デュエルスタンバイ!」とか言いださないかとハラハラしていたのだが……。
「召喚!銀河龍フリューゲル!!!」
「なんの!トラップカード、破城槌!!!」
悲報、嫁の地元でカードバトルが流行る。
まあ……、亜人国家はVR技術が人間とは比べものにならないくらいに発達しているからな。
マジでカードゲームのモンスターが実体化するくらいの技術力はあるし、モンスターの攻撃でぶっ飛ばされるくらいはできる。
だからと言ってマジでやるアホがどこにいるんだ?ここにいたな。
「フゥーハハハー!!!そんなもので俺のドラゴンデッキに敵うと思ったかー!!!」
「あ、お兄ちゃん」
うわ……、街中でカードゲームやってるアホ銀狼族、あいつ、よく見たらルシアの兄貴のグランスじゃん……。
「お?おおお!ルシア!ルシアじゃないか!やっと俺の嫁に……」
「あはは、殺すよ?」
「ヒェッ」
まあ……、基本的に、亜人は近親相姦とか、特に禁止されてないから……。
それに寿命もアホ程長いから、近親相姦は割とよくあるんだよなあ……。
ルシアは、実兄に狙われていて、それが嫌で逃げ出して家出、なんだかんだで人間に捕まったところを俺が救出してなんだかんだで結婚……、みたいな流れだ。
なんだかんだの部分については、いずれ語ることもあるかもしれないし、ないかもしれない。
「ぐ、ぬぬぬ!勇者め!俺のルシアを返せ!」
「奪い取ってみろ」
欲しけりゃ奪い取ってみろよ。
まあ、本気で抵抗するがな。
「できるか!お前に勝てる亜人など、六王くらいのものだろうが!」
確かに、亜人の六王なら、俺に匹敵する……、いや、まともに戦えば俺が負けるだろう。
だが、それぞれの亜人の小王でも、充分に俺と戦えるはずだ。
小王とは……、亜人国家はそもそも、小さな亜人の国家群の塊で、その中でも特に優れた六人の王を六王と呼び、種族ごとに存在する王を小王と呼ぶ。
大抵の小王は、六王に爵位を貰って、国家運営の要職に就いている。
このグランスも、銀狼族の小王子と言える存在であるからして、俺と戦えば……、いや、まあ、グランスなら普通に俺が勝てるな。
グランスとルシアの父親であるアルギオンが相手なら、俺でもかなり危ないだろうが。
まあ、亜人の六王も小王も、デモンズギアを引っ張り出せば殺せるから、極論を言えば怖くない。
一撃で殺されない限り、デモンズギアを即時召喚して全てを蹴散らせば何も怖くないからな。
逆を言えば、俺は短期決戦に弱いんだよ。
亜人の六王レベルの奴が自爆魔法をいきなり使ってきたら一撃死の恐れがある。
亜人の六王レベルの奴がそうホイホイいるとは思えないがな。
「で、お兄ちゃんは何やってるの?」
「デュエルだ!」
「えーと、カードゲーム?」
「そうだぞ!いやー、これは面白いなー!」
「………………」
あっ、ルシアが可哀想なものを見る目をしている!
「お兄ちゃん、あのね、カードゲームは子供の遊びなんだよ?」
「む?いや、俺達が見たアニメ?とか言う映像では、地球では世界規模でカードゲームが流行っていると……」
「あれはね、フィクションだよ」
「……まあ、良いだろう!楽しいからな!」
そうだな……、亜人はこんな感じだよな。
働かなくても生きていけるから、遊ぶことに全力なのだ。
「親父もデュエルにハマっているらしいぞ」
「お父さんまで……」
ルシアは死んだ目をしている!
「い、いや、その、ルシア?毎日遊んでいる訳じゃないぞ?俺も親父も仕事はちゃんとしているからな?!」
「本当かなあ……?」
「本当だとも!今回も、ベスティエとアクアレギスから技師を呼んで、町おこしにカードゲームをやろうと言う話になっていてだな!」
「うーん、嘘の匂いはしないけど……」
あ、獣人は汗の匂いとかで相手が嘘を言っているかどうかなどが朧げに分かるらしいぞ。
「俺も今回のデュエル普及計画で、暫く振りに母校に行って、魔導具工学を学び直してきたんだよ!それで、銀狼族の里に新しい名物を作ろうと思ってだな……」
そうなんだよなあ……。
このグランスという男は、アクアレギスのサムドラ大学を出ている高学歴だからな。
サムドラ大学?地球的に言えば……、そうだな、オックスフォード大学かな?
そこの魔導学部力学魔法科出身だそうだ。
つまり、亜人国家でもトップクラスの魔法使いってことだな。
サムドラ大学は他にも、魔導工学部、錬金術部、医学部、人文学部など多数存在するぞ。
魔導学部なら四大元素科、力学魔法科、強化魔法科などがあるそうだ。
「まあ、分かった。遊んでないでちゃんと働いているんなら、私は怒らないよ。お兄ちゃんはもう一万二千歳なんだから、いつまでも遊んでちゃ駄目なんだよ?」
「ああ!もちろんだとも!」
そんなこんなで、銀狼族の高層マンションに行く。
ここの最上階がルシアの実家だ。
マンションと言っても、どうせ空間魔法で好きに弄れるので、デカくて広い土地なんざ要らないと言うのが、亜人の共通認識である。
中は、馬鹿みたいに広い四階建ての屋敷だ。
「「「「お帰りなさいませ」」」」
亜人国家で広く使われているゴーレムメイドが出迎える。
ホムンクルスも普及しているが、ホムンクルスはゴーレムとは違って生命体なので、優しく扱うことが常識になっている。
24時間フル稼働させる労働力はゴーレムを、生き物の温かみが欲しいサービス業ではホムンクルスを、と言うのが基本だ。
俺は、プログラムで動くゴーレムより、自分で考える脳を持つホムンクルスの方が、アクシデントの際に対応できる力があると思い、デモンズネストのメイドをホムンクルスにしている。実際は、ゴーレムとホムンクルスの性能差に大差はないと言われているから、気分の問題だが。
因みに、ホムンクルスを粗末に扱う奴は、コンビニの店員さんに横領な態度で、タバコを番号ではなく銘柄で注文してくるゴミ老害みたいな目で見られる。ホムンクルスとは言え、粗末に扱う奴はクズ扱いされるのは当然だよな。
「ただいまー!」
「お邪魔します」
「あら!ルシア、お帰りなさい!レイジ君もただいまでしょう?」
ルシアの母、クリュナさんに言われた。
クリュナさんは、ルシアによく似て可愛い人だ。見た目?十八歳くらい?
「あ、はい、ただいまです」
「はい、お帰りなさい」
「お母さん!あのね、あのね!」
ルシアは今年でもう二十歳……、いや、まだ二十歳か。
銀狼族は最低でも一万年は生きるし、魔力が多ければ数万年、若返りの薬や不老薬もあるから、実質的にはほぼ死なない。
だから、ルシアはまだまだ子供なんだよな。
見た目は十六歳くらいだが。
そうして、義母さんに近況報告をして、夜に帰ってきた義父さんにも話をして、ルシアの親戚一同と集まって飲み会をして……。
まあ、普通だな。
ぶっちゃけた話、嫁の親戚とか、どう接して良いのか分からんのだが、ルシアを取られた嫉妬のあまり襲いかかってくるグランス以外との仲は良好だ。
まあ、俺は一応、魔王も魔帝王も倒したからな。
亜人からすれば、最も新しい神話って事らしく、モテモテなんだよな。
俺にくっつこうとする銀狼族を、ルシアが嫉妬して、引っぺがして一日は終わる。
えーっと、書き溜めは7話くらいかなー?
これの次は何行こうかなー。