ダンジョン法の成立……。
それに伴い、武具や薬品の輸入も許可された。
今日、五月四日から、自衛隊精鋭部隊と現役の魔法大卒ダンジョン攻略者に、『phantasia』製の武装を配布し、その操作の習熟のための緊急訓練を行うこととなった。
我々、『phantasia』からお送りする武具の初期ロット第一弾は、ヴェスタ鋼製の武具だ。
ヴェスタ鋼……。
ベスティエに存在するヴェスタ山から始めに発見された金属で、極めて堅牢でそこそこ軽く、耐腐食性も高く、そして何より熱に強い性質を持つ。
例えば、このヴェスタ鋼で厚さ1センチの鉄板を作れば、表に溶岩を垂らしても、裏側は冷たいままと言う、極めて優れた耐熱性を持つ金属なのだ。
その耐熱性から、金属加工の道具として使われたり、耐火服や宇宙服の材料の一つになったりしている。
しかし、今回注目したのはその丈夫さだ。
もちろん、ダンジョンには、報告によると、火を吹くようなモンスターもいるらしいから耐熱性にも注目しているが、今回見たのはその堅牢さ。
特別なエンチャントをせずとも、地球上のどんな金属よりもはるかに丈夫である、と言うところが都合が良かった。
亜人国家でも、遠い昔はこのヴェスタ鋼で武器を作っていたらしい。鉄器を使う民族に対して、ヴェスタ鋼を使う民族が侵略し、蹂躙したという記録がある。
厚さが一ミリもあれば、大口径の狩猟用ライフル弾でも傷一つつかない。
RPGで例えるなら『はがねのつるぎ』ってところか。
このヴェスタ鋼製の武具を初期ロットとする。
そして、ファイアライト鉱石、アクアライト鉱石、ウィンドライト鉱石、アースライト鉱石をそれぞれ使った魔導具。
それぞれが、魔力を流すと激しく、火、水、風、土の力を発生させる金属だ。
これを使って魔剣を作る。
魔剣は、『魔法武具輸入法案』における、『特記魔法道具類』に指定される道具で、銃器以上に取り扱いに注意されることになっている。
猟銃と同じように所有するには許可が必要で、許可がないものは触った時点で違法。
年に一回、正しく管理されているか検査される。
所持する前に素行調査もされる。
まあ、とにかく、そんな感じで四属性の魔導具を販売することになった。
ここは、矢臼別演習場。
北海道最大の演習場だ。
今日はここで、自衛隊精鋭部隊と魔法大卒ダンジョン攻略者を集めて、武具の説明をしている。
「……と言う訳です。ご質問は?」
俺は、さっきの通りに説明をした。
すると、自衛隊精鋭部隊から手が上がる。
「自衛隊、特殊作戦群の荒巻国綱です。そのヴェスタ鋼製の武具が優れていることは理解しましたが、わざわざ肉弾武器を使わなければならないのでしょうか。必要性がなければ、我々は銃器を扱うつもりです」
ふむ……。
「オイ、市川」
「は、はいっ?!」
弟子の、魔法大卒ダンジョン攻略者、市川に声をかける。
「市川、特戦群の荒巻さんはこう仰っているが、この発言についてどう思う?」
「はい、問題あり、ですね」
自衛隊の荒巻がピクリと反応する。
「どう問題があるのか、前に出て説明してみろ」
「はい!」
市川を前に連れてくる。
「何故、ダンジョンで銃が役に立たないのか、理由は二つあります」
市川は、一度言葉を切って、再び声を出す。
「まず第一に、補給線の問題です。銃弾のような重いものを、長いダンジョンの道に運び込むことはできません。『銃弾は重くて嵩張る』んです。また、ダンジョン内にいる限り、一部の安全地帯以外では、モンスターを倒したところでも、モンスターが再発生します。補給線が伸びれば、そこを叩かれますね」
市川は、もう一度口を開く。
「第二に、銃弾程度ではモンスターに有効打を与えられません。『対人用の銃器では火力不足』です」
ついでに、市川は更に口を開く。
「例えば、大体、十階層ほどになると、オークと言うモンスターが現れ始めます。オークです、ご存知ですか?」
「ええと……、ドラゴンクレストの、巨体の武器を持った人型のイノシシのようなモンスターですか?」
自衛隊の荒巻が言った。
「ええ、そうです。そのオークは、人間の男の1.5倍ほどの体格に、相撲取り並みの贅肉とプロレスラー並みの筋肉を蓄え、熊並みの骨格を持ちます」
「成る程……、となると、アサルトライフルの弾丸を受けても、止まらずに突っ込んでくる訳ですね?」
「ええ、そうです。よしんば倒せたとしても、大量の弾丸を浪費する羽目になるでしょう」
「ならば、対戦車砲を持ち込めば」
「オークごときに対戦車砲なんて使ってれば、こちらが干上がりますよ。オークはいわば、ザコモンスターですからね?たくさん出るんですよ」
更に言葉を続ける市川。
「それだけではなく、レイスやゴーストなど、単純に物理攻撃が効かないモンスターもいます。以上の点から、銃器は無意味と言えます」
と、市川は言い切った。
「偉いぞ市川、パーフェクトだ。ご理解いただけましたか、自衛隊の荒巻さん?」
「いえ、その……、俄かには信じがたく……」
「ではこうしましょう、とりあえず外へ行きますよ」
自衛隊員を外まで連れて行き、銃器を持たせる。
「こちらに、オークの群れを用意しました」
「う、うわあ!き、危険はないのですか?!」
「肉体を操作する魔法で操っているので、問題はありません。さて、では、早速実戦形式で戦ってみましょうか。ああ、ちゃんと、オークには殺さないように指示していますから、安心してくださいね」
「……分かりました」
自衛隊員達は、アサルトライフルを持つ。
100m離れた地点からスタートだ。
自衛隊員もオークも十人ずつ。
「では、始め!」
『『『『ブモオオオオオッ!!!!』』』』
「撃て!」
自衛隊員達は、アサルトライフルを撃つが、十匹いるオークのうち、後方の他のオークを盾にしていた二体が弾幕を突破して、リロード中の自衛隊員を弾き飛ばした!
「ぐわっ!!」
弾き飛ばされた自衛隊員は、軽く吹っ飛ばされて銃を取り落とした。
「はい、そこまで!これがダンジョンなら、吹っ飛ばされた貴方は死んでますね。ダンジョンでのオークは武器を持ってますよ?」
「ぐっ……!」
悔しそうな顔をする自衛隊員達。
「と、このように、銃器はダンジョンでは役に立ちません。いえ、正確には、役に立つ場面が少ない、ですかね?」
「で、では、魔法的な物質を使って銃器を作れば……」
「それなんですがねえ、亜人国家には、銃という武器がないんですよ」
「は……?」
自衛隊員が唖然とする。
「そもそも、亜人国家の兵士は、銃で狙いがつけられないくらいの速さで動きますし、魔剣は射程も威力も銃器より上です。わざわざ、火薬を詰めた筒から礫を飛ばす……、みたいな、非効率で威力が弱い武器を作る必要がなかった訳ですね」
「なんと……」
「まあほら、その証拠に、この風の魔剣を見てくださいよ」
緑色の刀身の、風属性の魔剣を見せる。
そして、百メートル離れた位置にいるオークに魔剣を振り抜く!
『ブヒャ』
すると、質量を持った緑の風の刃に斬り裂かれたオークは、真っ二つになった!
「「「「お、おお……!」」」」
「と、まあ、このように、亜人は銃を持たないのです」
「なるほど……」
荒巻が納得したように頷いた。
「ですが現在、一応ですが、魔法素材による銃器の試作品もありますので、そちらをお持ちしました」
「「「「おお……!」」」」
「ただ、こちらの魔法銃は燃費が悪いです。ご自身の体力気力を弾丸に変えて撃ち出すとお思いください。正直、これを使うくらいなら、格闘武器を持って身体を魔力で強化しての肉弾戦や、魔剣の遠距離攻撃の方が燃費が良いです」
「「「「はあ……」」」」
「まあ、細かいことはここまでとして、とりあえず、十階層の見習いの壁『オーク』と、二十階層初心者の壁『ゴーレム』を標的としてお持ちしましたので、自由に使ってください」
「「「「ありがとうございます」」」」
さて、どうなるかな……?
早く愛のないハーレム作りたい。