六月六日、マルハチマルマル。
「作戦開始!」
「「「「了解ッ!!!」」」」
我々は、日本各地の精鋭兵を集められた部隊、『迷宮探索部隊』だ。人数は自衛官三十名の小隊、それと、民間協力者三名ないし四名である。
本日のマルハチマルマル(朝8時)から、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、広島、仙台にある大型ダンジョンを、七つの小隊で一斉に攻略していく。
本日から一週間かけて、各地のダンジョンを調査、マッピングし、可能であれば有用な資源を発見することが、本作戦の目的だ。
しかし……、民間人を三人も庇うとなると、難しい任務になるだろうな……。
だが、ダンジョンという全く未知の領域で、有識者の意見が聞けるのは助かる。
私は、荒巻国綱。
この小隊の小隊長である。
我々、迷宮探索部隊の武装は、自衛隊のそれとは大きくかけ離れている。
まず、鋼鉄のボディーアーマー。
チェーンメイルを下地に、頬まで覆う鉄兜と、つるりとした鉄の胴、右肩のみに肩当てがあり、手甲と、膝まで覆う脛当てに、鉄板を繋いだ佩楯。
そのどれもが、ヴェスタ鋼製である。
ヴェスタ鋼の堅牢さについては既に理解しているが、このような装備で戦闘行動をするとは、思ってもいなかった。
その他にも、肩当てを外してより身軽にした軽装バージョンや、肩当てを両肩につけ、面頬や腕鎧などを増量した重装バージョンもある。
そして武器は、ヴェスタ鋼製第一号中型刀を中心に、第一号大型剣、第一号中型斧と第一号中型盾、第一号中型槍と第一号大型盾などを装備した者がいる。
それと、魔導具の、試作型第一号魔法拳銃を全員所持。
分隊長には、特記第一号魔法中型刀『荒魂』、『和魂』、『幸魂』、『奇魂』の四種のうちいずれかを配布。それぞれが、火、水、風、土の魔法剣になっている。
私も『荒魂』を装備して、いざダンジョンへ。
陣形は、ダンジョンの入り口は狭かったが内側はそこそこに広いので、一分隊を前に出して、一分隊が休憩、もう一分隊が民間人の護衛と後方の警戒をする。
ダンジョンは薄暗いが、ヒカリゴケのようなものがあちこちにあり、ぼんやりとした光があった。
それだけの光があれば、夜間のサバイバル訓練をしてきた我々からすれば充分だ。
にしても……、この狭い洞窟にこの人数はどう考えても過剰ではないだろうか?
民間人のダンジョン攻略者が言うには、この人数がベストとのことだが……?
「敵発見!!!」
む、来たか!
『ピキー』
……スライム?
「あ、それは雑魚なんで、適当に踏み潰してください」
民間人の市川君が言った。民間人は、この小隊には、市川君、海老名君、山岡君がいる。
バスケットボールほどの水色のスライムがピョコピョコと跳ねている。
「そりゃ」
言われた通りに、前衛の分隊の隊員がスライムを踏みつけると、ぷちっと潰されて死んだ。
こ、こんなに弱いのか?
いや、しかし、油断してはならないな。
「一応言っておきますけど、顔に張り付かれたら普通に死にますから、顔を近づけないようにしてください」
市川君が言った。
そうだ、油断はいかん。
しかし、そんな私達の気持ちに反して、あっさりと階段を降りて二階層へ。
曲がることのない一本道で、長さはおよそ400mほどか。
一階層はスライムしか現れなかった。
スライムからは、青いぷよぷよの拳大のゼリーが取れた。
「これはスライムコアですね。色んなことに使えます。水に入れると水の汚れを吸い取ったり、スライム系人造魔物の核に使ったり……、食べれもしますよ」
とは言え、作戦中にそんな怪しいものは食べられない。
この階層の魔法物質であれば、誰でも手に入れられるとのことなので、破棄した。
それと、朱色のひし形で、小指の爪ほどの大きさの石も出た。
「あ、それは魔石です。魔力の結晶で、色んなもののエネルギー源になります。ポーションの材料にもなりますよ」
しかし、市川君によると、スライムから取れる程度の魔石に価値はないらしい。
なお、魔石は全モンスターに存在するらしく、大きくて質のいい魔石は高値で取引されるそうだ。
二階層からは、スライムに加えて、バレーボールほどの大きさのコウモリが現れた。
『キキー!』
飛びかかってくるが、前衛の隊員が腕を叩きつけると、短い断末魔をあげて地に堕ちた。
弱いな……。
「ケイブバットですね。美味しいですよ」
食べれるのか……。
だが、作戦中なので。
二階層も一本道の500mほどか。しかし、ダンジョンらしく、少し複雑な道に。
三階層はそれに加えて、ツノの生えたウサギも出た。
『ヂュチュ』
「踏み殺してください、ホーンラビットです。食べれます。美味いですよ」
作戦中なので……。
三階層は、道のりにして600m程の行き止まりありの迷宮だった。
まあ、それでも、子供向けのやさしい迷路だが。
四階層は……、おお、小型のイノシシだ!
「落ち着いてください、単なるレッドボアです。蹴り殺すか、殴り殺すかしてください。美味しいそうですよ」
作戦中なので。
よし。
四階層はそこそこ迷う行き止まりありの迷宮。道のりにして700mほどか。
そして、五階層だが……。
「おお……!」
五階層からは、どうやら、草原らしい。
ここまでで、2kmと少し歩ったな。
戦闘らしい戦闘もなく、楽に進軍できた。
「はー、五層から草原って当たりですねえ」
「市川君、当たり、とは?」
「この目黒ダンジョンは資源が多いってことですよ。ダンジョンにも色々タイプがあって、さっきみたいな洞窟が続くダンジョン、毒沼や火山、寒冷地や水中……、みたいなダンジョンもありますからね。いや、ダンジョンは深くまで行けば大抵は過酷になるんですけど、この浅い位置に草原があるのはラッキーってことです」
「そ、そうなのかね?」
「ほら、例えばここの草……、この、ススキみたいな葉っぱ、あるじゃないですか。これ、ヒール草って言う薬草なんですよ」
「この、雑草のような草がかね?」
「ええ、低級のポーションの材料になります。その他にも、この辺の草花や虫は全部、亜人国家のものと同じなんで、研究したら何かしらあるかもしれませんよ」
「ふむ……」
「まあアレですよね、薬草摘みでもバイトにはなりますよね」
なるほど、雇用が増えることは良いことだな。
「敵発見!」
む。
「あー、ゴブリンですね。ゴブリンの筋力じゃ、ヴェスタ鋼の鎧を貫けませんけど、ナイフで目とか抉られないように気をつけてください」
ゴブリン……、緑色の醜い顔の小人。
力も弱くのろまで、脆い。
だが、最低限の知能はあるらしく、仲間を盾にしたり、勝てないと見るや逃げ出したりするようだ。
そして、五階層の草原を索敵しつつ進むと……。
「ボスですね、ホブゴブリンです。大して強くないんでさっさとやっちゃってください」
『ゴギャ、ゲギャア!』
ゴブリンが小学生並みなら、ホブゴブリンは中学生くらいだろうか?
ゴブリン五体の群れを率いて現れた。
が、まあ、鎧袖一触だ。
そして、五層を越えると……。
「お、セーフエリアですね」
「セーフエリア?」
「モンスターが出ない階層です」
「そんなものがあるのか……」
五階層は草原を1.5kmほど歩くことになった。
ここまでは順調だ。
少し休憩して、先に進もう。
ラブのないラブコメ、新ヒロインのドラゴン娘と、安心のグロシーンあります。