東富士演習場……。
広さ8809haを誇る、本州最大の演習場である。
集まったのは、錚々たる顔ぶれ。
織田陸将は当然として、源陸将、島津陸将。
海自からも、上杉海将、平海将、北条海将。
空自からも、武田空将、長宗我部空将、毛利空将。
そして空陸海の幕僚長である、伊達、徳川、藤原の三人に、トドメに足利統幕長までもがいる。
今回は、ここで、市川達三人の能力を徹底的に調査する。
まず、調査対象になったのは海老名俊輔だ。
海老名俊輔は、強力な回復能力を持つとして、怪我で退役した自衛官や警官などが集められた。
中には、角膜を欠損していたり、四肢を失っている者もいる。
海老名はそれを一瞥すると、手元に白亜の真っ直ぐな杖を取り出した。もちろんそれは、『特記魔法道具類』であるからして、厳重に梱包されていた。
すると海老名は、白亜の杖をかざして、何事か、呪文を唱える。
その呪文はおかしなもので、どう発音しているのか、ビデオテープの早送りのように聞こえる。
シュルシュ、ワジュマシュ、ルルシュ。
言葉として聞こえない言葉が早巻きで響く。
それも、ほんの短い、3秒ほどの詠唱だった。
次の瞬間には、杖が光り。
「『マルチプルヒールシリアスウーンズ』」
「おい……、マジか……」
その光に触れた怪我人の傷が一瞬で再生したのだ。
その場にいた軍医が再生箇所を確認するが、結果として問題は何一つなかった。
角膜、胃腸、四肢欠損など、現代医学においては、移植などをしない限り元には戻らない大怪我を治療したのだ。
「なあ、海老名君よぉ……、お前さん、どこまでできる?」
織田が問うた。
「そうですね……、外傷、毒物、呪いの類ならば、死体さえ残っていれば蘇生も可能です」
「ーーーッ!!!蘇生だと?!」
「ああ、でも、僕じゃ寿命や病気なんかでの死は覆せませんね」
それにしたって、あまりにもふざけている。
尉官レベルの魔法使いは、死者蘇生が可能であるという事実は、驚くべきことだ。
怪我や死を恐れる必要がないとなると、戦力としてあまりにも大き過ぎる。
本来、戦えない負傷兵なんてものは、本音を言えば邪魔なものだ。
しかし、人道的な観点から、負傷兵も護衛して後退させたり、負傷した分の手当てを出したりしなければならない。
非情だが、戦えない兵士に金を渡すなど、無駄なのだ。
だが、蘇生魔法があれば違う。
兵の負傷や死亡を気にしなくてもよくなるのだ。
その利点は計り知れない。
「失礼……、先程の、ビデオテープの早送りのような声はなんですか?」
上杉海将が尋ねる。
「呪文です」
海老名が答える。
「呪文ですか……、やはり、呪文を唱えることで、魔法が発動する、と?」
「はい」
将官達は何事かを話し合った。
そして、上杉がもう一つ質問をする。
「しかし、3秒ほどの呪文で、複数人の大怪我を治せるものなのですか?」
「ああ、高速詠唱を使っていますから。本当は30秒くらいの呪文を唱えています」
「おい、どうするよ」「また訳の分からんことを……」「いや、語感で理解しようぜ?要するに、30秒の呪文を3秒に短縮したってんだろ?」
「その、高速詠唱?と言うのはどう言うものですか?」
「戦闘中などの即応性を求められる場合に使われる手法で、魔力で声帯付近を強化して、呪文を素早く唱える技術です。呪文についてはオリジナルの再生力強化型ですね」
「つまり、細胞分裂を促しているということですか?」
「はい、回復魔法にも様々な形式があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。例えば、神話を再現して傷を治す、魔力で作った新たな肉体を移植する、時間を巻き戻して傷をなかったことにする、とかですね」
「その、細胞分裂を促す再生魔法には、どんな利点が?」
「そうですね、一番自然な治療法なので、後遺症が少なく、すぐに回復した対象が戦線復帰できます。しかし、他人の魔力に干渉するので扱いが難しく、魔力消費も多いのが難点ですね」
「ふむ……」
次に、山岡孝太郎の検証に移る。
「行きます」
山岡は、おもむろに両腕の赤い包帯を外す。
するとそこには、金色に煌めくルーンの文字列が、両腕に蛇のように絡みついていた。
ルーン文字は有機的に動き、うねっている。
「『オシラ』!」
山岡の右手の甲に財産を表すルーンが浮かぶ。
そして、光の粒子が集まって、『特記魔法道具類』専用の収納ケースを象った。
それを開いて、大剣を取り出す山岡。
その剣は、両刃の黒い金属でできたバスタードソードであり、金の末広がりの十字架型の鍔と、刀身に金のルーン文字が刻まれていることが特徴であった。
また、その長さは、バスタードソードらしく両手でも片手でも扱いやすく、刃の厚みや太さは大きい、ずんぐりむっくりとした印象を与える。
しかしその太さは、質実剛健さの表れのようにも思える。
「『ウルズ』!『テイワズ』!『ライド』!!!」
剛力、戦士、導きのルーンを叫ぶ。
対応する黄金のルーン文字が、山岡の眼前に現れ煌めくと、山岡の身体に三つの魔法的な強化がなされた。
一つ、高倍率の身体強化。
二つ、武装の強化。
三つ、空を駆ける脚。
この三つを以ってして、山岡は、三十を超える標的である鉄の塊に吶喊した。
一つ数える頃には、十の鉄塊標的を破断しているが故、三つ数えた頃には、両断された鉄塊がそこらに転がっていた。
この時の山岡の速度は音速をゆうに超えており、弾丸の速さで空を駆ける人間という質量の塊は、戦車砲のそれよりもはるかに重い。
則ち、その威力も、戦車砲をはるかに凌いだと言える。
自衛隊員達は、山岡が、音の壁を突き破る轟音と共に空を駆けたことを辛うじて視認するが、見えたのは、金色の影が流星のように光の尾を引いて空を駆ける姿のみであった。
金色の流星雨が止むと、三十のクレーターと六十の鉄塊がそこに残っていた。
更にそこに、追撃を仕掛ける。
「『ハガラズ』!『テイワズ』!『ライド』!!!」
天災、戦士、導きのルーンを叫ぶ。
天災は雹、氷の小剣。
戦士は氷の小剣の強化。
導きはホーミング。
則ち、数千もの氷の小剣が、弾丸よりも速く鋭く射出され、しかも対象を追尾する。
宙に浮かんだ小剣が、ガトリングガンのように連射され、その全てが両断された鉄塊に、音速を超える速度で突き刺さる。
今度こそ、鉄塊は原型をとどめない程に破壊された。
「なんじゃあ、そりゃあ……」
自衛隊員達は唖然としている。
まさに人間戦車……、山岡のその戦いぶりに。
戦闘機以上の速度で動き、ヘリコプターよりも小回りが利く、火力は爆撃並。
武田空将が尋ねた。
「その……、空を飛べるのかね?」
「いえ、大気中に魔力で足場を作って、空を走っているだけです」
「随分素早いようだが」
「身体強化の倍率は平常時が三十倍で、魔法を使えば百倍くらいですね」
「百倍……」
「自分の基本的なパンチ力は大体500kgくらいですね、これでもかなり鍛えてるんで」
「パンチ力50tか……、速度は?」
「えーと、素の身体能力で、百メートル走を12秒くらいですから、秒速8.3mで、つまり時速30kmくらいですかね」
「……時速30kmの百倍ということかね?」
音速がおよそ、時速1200kmくらいだと考えると……。
「……マッハ2.5だと?!戦闘機並だぞ?!」
それはまさに、ぞっとする話だった。
見たところ、山岡の体重は80kgはある。
80kgの意思を持った砲弾がマッハ2.5で飛んでくる、全く笑えない話だった。
少なくとも、ただ体当たりするだけで、旧海軍の駆逐艦の主砲並みの威力があるということ。
しかも、そのスピードで空を走っても、傷一つないことから、頑丈さも恐ろしいことになっていると簡単に予測できる。
それだけではなく、氷の剣らしきものを、ガトリング砲が如くの勢いで、面制圧するかのように広域に発射する魔法、あれは良くない。
あれを街中で、人口密集地などで放たれたら、一体どれほどの被害が出るのか、予想もつかない。
「ええと……、僕の魔法は『ルーン』です。ルーン文字と言う、魔法的に力がある文字を使います。戦闘中にルーンを選択して発動するものです」
「呪文は唱えなかったようだが……、海老名君の魔法とは違うのかね?」
「ルーンの利点は即応性です。例えば……、『カノ』!」
その一言と共に、ルーンが輝き、山岡の手のひらに拳大の炎の球が現れた。
「その一言で魔法が出せるのか……、速いな……」
銃を抜くよりも、魔法を唱える方が速い。
「ルーンは、重ねれば重ねるほど強くなります。僕は、セクスタプル・ロードまで可能です」
「さっきのは、三重だったと言うことかね?!」
「はい」
三重であれならば、六重に重ねればどれほどか……。
「ルーンの利点は即応性。欠点は応用力のなさですかね」
そして、最後は市川春人の……。
偏見だけど、感想欄の変な奴率が高そうだよね、なろうって。