ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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あ"ー!

ユミル石集めだりー!


130話 カナダと骨と、あと淫魔

「カタカタカタ……、ここがカナダの国かね?」

 

「そうじゃな」

 

私……、『スカル・ソウルヘル・デズ・チェイン・レークヴィエム・ドゥシア・カザベル・ムエルス・ドトモルテ・アネモネ・ワーズワース』は、妻のネロスと共にカナダの国なるところへ来ている。

 

「十一月だね…….、とても肌寒いよ。まあ骨なんだけどね私」

 

「相変わらずくだらぬことばかりを言いおるのう……」

 

「ええと……、まずは入国管理だね。まあ、僕は骨だし、荷物扱いでどうにか……」

 

「ならぬわ、愚か者」

 

「あーれー」

 

ネロスに掴まれて、そのまま入国管理へ。

 

僕は賢いので、あらかじめ色々と調整しておいた。

 

いきなり、政府中枢に転移するような無作法はしないさ。

 

まあ……、人の世の政治に疎い森人族なんかはやりそうだけどね。

 

私はその辺り、しっかり勉強しておいたので、今は政府のエージェントを名乗る黒服に会っている。

 

「いやどうも、どうも!」

 

入国管理は、長い行列に並ぶ必要があるのだが、政府とあらかじめ前交渉してあったので、スムーズに入国できた。

 

「おや」

 

ジュリアン・トルーマン君だったかな?

 

この国の首相だったね。

 

「Mr.ワーズワース!お会いできて光栄です!」

 

「わざわざ首相閣下がお迎えとは!そのような多大な配慮をしていただき……、汗顔の至りでございます!」

 

「ははは、いえいえ、我が国の発展に力を貸してくださる高名な魔導師の方ですから、こちらも礼儀を尽くします」

 

「まあ、私は汗をかかないんですがね」

 

「は?はあ……」

 

おや?私の鉄板不死者ギャグが通じない。

 

人間はユーモアが足りないようだ。

 

ふむ……、確か、このカナダの国では、男女平等、人種や嗜好で差別されない国だと聞くね。

 

「では、握手をしましょう、閣下」

 

「は……、うわ!」

 

私の手足は骨で、関節からは黒い炎のように魔力が揺らめいている。

 

人間からすれば、まさにそう、『バケモノ』だ。

 

バケモノに触れるかね、閣下?

 

「わ、分かりました……」

 

「んー、良い判断ですね。ほぉら、どうです?動く骨の感触は?不気味ですか?身の毛もよだつ?」

 

「ひいっ?!いっ、いえ、は、ははは……」

 

「やめんか」

 

「痛いじゃないか」

 

ネロスにぶたれた。

 

「あまり若人をいじめるでない、愚か者めが」

 

「いやー、だってしょうがないじゃないか!お化けは怖がられるのが仕事だろう?」

 

と、閣下の手を離す。

 

「いやあ、申し訳ない。カナダの国では、性別や人種によって差別されないと聞いたのでね、少し試したくなったのですよ、カタカタカタ!」

 

「え、ええ、その通りです。このカナダでは、性別も人種も、同性愛も差別されません」

 

ふうん?

 

「でも、それって当たり前のことじゃないかな?普通のことだよね?」

 

「いや……、他の国では、同性で結婚したり、男と女以外の性別が認められなかったりするらしいぞ?」

 

とネロスが言った。

 

「そんなことを言われると困るじゃないか。私は無性で、君はふたなりだ」

 

そう、私には性別がない。

 

そして、妻のネロスは両性だ。

 

具体的に言えば、私には性器が存在しないのだ。

 

ネロスは、両方ある。まあ、ベースは女性だが。

 

性自認的にも、私はどちらでもないし、ネロスはどちらでもある。

 

因みに、亜人国家では肉体の性別と性自認が異なる人は、公衆浴場やトイレなどは好きな方に入って良いとされている。

 

割とその辺りはおおらかで、肉体は男性だが精神的には女性だからと女湯に入るような人も多く、また、周囲の理解もあるので、それで問題が起きたりしたことはほぼない。

 

まあ、遠い昔は事件もあったのだろうが、今はもうないと言うことだね。

 

私は便宜上、男湯に入る。ネロスは女湯に入る。

 

「だが、世界的には、同性婚などはおかしなことらしい。国によっては『矯正治療』されるそうだぞ」

 

「それは怖い。やっぱりアレかな?古典映画のように、脳に電極を刺されたり?」

 

「ううむ、フレッシュゴーレムが生まれそうだな」

 

「こっちの世界じゃフランケンシュタインなる存在がいるらしいね」

 

「よみがえるのだ!この電撃でぇーっ!」

 

「「アハハハハハハ!!!」」

 

そんな話をしつつ、我々は、案内された政府の建物に出向いた。

 

ここで、教育に関する大臣とやりとりをして、モントリオールなる土地を頂戴したよ。

 

そこに建物を作って、人員を集めることになったね。

 

 

 

まあ、特に困ることはなかったね。組織運営なんて簡単さ。

 

足りない人員も、ほらこの通り!

 

「黄泉路の旅路を流離う者どもよ。昏き道、禍時の者どもよ。刮げた肉を拾う黒い鳥、灰の髄液を啜る蛆、墳墓よ開け、『コール・アンデッド』」

 

『ォ』

 

『ォオ』

 

『オオオオオオオッ』

 

『『『『オオオオオオオッ!!!!』』』』

 

大量の意思なきスケルトンが大地から生まれる。軽めに百体ほど呼んだよ。

 

「「「「うぎゃあああああっ!!!!!」」」」

 

大学の見物人や、集まった職員達が悲鳴を上げた。

 

「いやいや、待ちたまえよ。私の姿を見ても平気だと言っていたのに、単なるスケルトンでこんなに驚くものかい?」

 

 

 

その後、交渉の結果、アンデッドを労働力として使うことは禁じられてしまった。

 

自由の国とはなんだったのか。

 

食事も睡眠もせずに、忠実に永遠に働くアンデッドは優秀な労働力だと言うのに……。

 

まあ、掃除婦一人であれ、雇用は重要であると諭されてしまっては仕方ない。

 

資本主義国家においては、雇用の確保は大切なのだろう。

 

この世界の人間は、我々のように働かずとも暮らしていけるお気楽な存在ではないのだそうだ。

 

そんなアクシデントもありつつ、開校。

 

私は学長として、鉄板不死者ジョークを連発したのだが、誰も笑ってくれなかった……。

 

かなしいなあ。

 

 

 

ふむ……。

 

悲しいニュースがもう一つ。

 

カナダ国の子供達には、死霊術の適性があまりないようだ、ということ。

 

どうやら、『死』に触れる経験が少なく、『あちら側』に上手く触れられる人が少ないようだねえ。

 

処刑人や、臨死体験を何度かした人なんかは、『あちら側』に近付いた経験からコツを掴みやすいのだけれど……。

 

まあ、良いさ。

 

この世界の人間も、どうやら、死霊術を外法か何かだと考えているようだし、望まないなら教える必要はないだろう。

 

私はあの親切でお気楽な森人のように、自らの術を他人に広く知らしめようなどとは思わないからね。

 

あくまでも仕事。

 

それと、戦友たるレイジ君の依頼と言うだけさ。

 

死霊術とは哲学だからね、実用だとかそういうことを考えている人間に教えるのは酷だろう。

 

私も普通の魔法をいくらか使えるので、そちらに注力させてもらうとしようか。

 

まあ、普通の魔法ならば、才能があるのは数人だけだがいるにはいる。

 

そして……、ただ一人だけだが、死霊術師志望で、見所がある子もいた。

 

「アビゲイル君だったかな?君は中々に才能があるね。やる気があるなら特別課題を追加しようと思うが、どうかな?」

 

「はい……、やります……」

 

「元気がないね?死体の私よりも元気がない」

 

「あ……、すいません……」

 

「いやいや、悩みがあるなら聞くよ?」

 

「いえ……、単に……、昔から、テンションを上げるのが……、苦手で……。やる気は、ちゃんとあります……」

 

「そうかね?ならば、課題を出そうか」

 




最寄りの家系ラーメン屋、自宅から歩いて三十分もする。

俺は本当に神奈川に住んでいるのだろうか。

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