「もしもし?こちらゾラよ!バインとゼーベックもいるわ!教導隊も全員いる!ええ、うん、はい、分かったわ、しばらく出張ね!はいはい、どうも!」
マクドネル少将から指示を受けて、バイン中佐とゼーベック中佐と一緒にドイツ国に向かうわ。それと、第四教導小隊も一緒よ。
ベスティエにも空港ができたのよー、日本の羽田空港とガワは全く同じだけどね。だって、ベスティエにはもう空港なんて古い施設はないから。
……数年前のミサイル攻撃の件で、亜人国家空域と地球を断絶させる超大規模時空断層結界『アルカナム・ノーブルスフィア』を解除したのは記憶に新しいわ。
あの大結界は、亜人国家の防衛よりむしろ、亜人国家の大気中のウイルスの類(亜人国家の空気が汚い訳ではないけれど、当時はまだこの世界の人間に亜人国家の空気が安全なのか分からなかった)や、滞空魔力が地球に拡散しないように配慮してのことだったんだけど、喧嘩を売られたら仕方ないわよねえ。
所詮国家なんて獣の縄張りヤクザのシマ。舐められたら永遠に虐められるのは、地球だけじゃなく、亜人国家の歴史でもそれを証明している訳よ。
舐められるくらいなら殴り返すのは当然。国家を守るためには「殴り返さなきゃいけない」のよね。
むしろ、ミサイルを撃ってきた国を更地どころかクレーターにしてしまえ、なんて過激な意見もあったのだけれど、そこはもう、六王の高度な政治的な判断で結界解除となったそうよ。
もう、逆に、国内にダンジョンを生まれさせて、亜人国家と同じものをくれてやろうって判断ね。
直接攻撃魔法をぶち込むのは流石にやり過ぎ、でも、適度に殴っておきたい。
そして、どの道、魔法や魔法技術について探ってくるのだから、相手国内にダンジョンを生まれさせて、生まれたダンジョンにかかりきりになってほしいって策略ね。
喚く子供のような国々にダンジョンというおもちゃを与えて、それで疲弊させるって寸法よ。
今現在も、反亜人国家は、国内にできたダンジョンから溢れるモンスターに貴重な資材や人員を浪費させているのね。でも、ダンジョンからは、新素材や様々な資源も出るから、旨味もあって「撤去しろ!」とは言えないの。麻薬のようなものね。国体を蝕むのに、利益があるなんて恐ろしいわよねえ。
因みに、各国にできたダンジョンは少数であり、質もそこまで高くないので、亜人国家の脅威にはならないって判断されたそうよ。
まあ、そんな訳で最近は、航空機がベスティエに来るようになったの。
最近はジャンボジェット?とかいう乗り物がたくさん来るのよ!空を音速以下のゆっくりしたスピードで飛ぶの!
亜人国家では航空機なんて博物館にしかないから珍しいわねー。こっちでは魔導列車と転移装置、モンスター車が基本よ。
そんな訳で、上司と、戦友であるレイジの要請で、ドイツ国にレッツゴー!
「わー!本当に飛んでるわ!」
「スッゲェ揺れるな!」
「おもしれー!」
私、ゾラと、バイン、ゼーベックの三人の中佐と、そして、ジャン大尉率いる第四教導小隊の三十名で、『ヴィルヘルム王記念大学』なるところへ行くわ。
何でも、ドイツ国はそこまで国土が広くなくて、新設の大学都市を作る余裕がなかったんだって。もちろん、メンツとかプライドとか、そういう話もあるんじゃないかしら。
日本はその辺が寛容だし、アメリカ国やカナダ国は移民の国だからあまり気にならないのかもしれないけれど、ドイツ国はドイツ国の民の国だからね。
まあそんな訳で、国内最高峰の学園に、学部を三つ追加して、そこで教鞭をとって欲しいとお願いされたわ。
ヴィルヘルム王記念大学は、ドイツの西側にある歴史ある大学よ。
と言っても、亜人国家の大学のように、万年単位で続いているような訳じゃないわ。
ほんの二百年間の歴史。でも、この世界の人類史の短さを鑑みれば、長い歴史を持つと言って良いわね。
ベスティエなんてもう五十万年くらいあるから、四十万年前から存在する大学とかあるのだけれど、この世界の人間は、文明を興してから六千年くらいだったかしら?
六千年の歴史で二百年間続いている大学って、結構大きいんじゃない?
ここに、魔法学部、魔法工学部、魔法科学部の三つの学部を新設して、私達が教鞭をとることになるわ。
でも、何を教えれば良いかサッパリなのよねえ。
私の二つ名は『払暁』だけど、先代の『払暁』にはあまりちゃんと教えてもらってないし……。
周りの人は先代を超えたって言ってくれるけど……、よく分からないわ。
もちろん、『払暁』の奥義たる最終魔法は修めたけれど、師匠はもう、十万年生きて魂も磨耗したから、もう良いと言い残して亡くなっちゃったし……。
まあ、私が行き詰まったところをアドバイスしてあげれば良いかな?
ドイツ国にとうちゃーく!
えーと、そう、まずは入国管理!
「すみません、ゾラ・アインザックスさんでしょうか?」
あら、私の名前を知っている、ってことは。
「ええ、私が、『八代目払暁』のゾラ・アインザックス中佐よ。そっちは、政府の人かしら?」
「はい、政府のエージェントのドミニクです」
え?
「……えっと?どうして嘘をつくの?スウェン君?」
「な……、何故、私の名前を?!」
何故って……、真名看破の魔法だけれども。
「あ、えっと、何かまずいことしちゃった?上司からの命令で、スパイとかが近づいてきたら分かるようにしておけって言われてるんだけど……」
「……いえ、問題ありません。こちらへ」
人間って難しいわねー……。
スウェン君に案内されて、首都ベルリンに到着。
そこの、政府の用意した建物に行く。
「首相のオリバー・シェーレンベルクです」
「『八代目払暁』のゾラ・アインザックス中佐よ」
「『九代目木枯』のバイン・バンカーバック中佐だ」
「『十二代目海嘯』のゼーベック・タイダル中佐だ」
「は……?払暁とは?」
「二つ名だけど?」
「あー……、それは、我が国にかつていた軍人のように『砂漠の狐』などと名乗るのが慣例なのですか?」
うーん?
うーん……?
そう言われると……。
「そうなの、かな?」
「どうなんだろうな?」
「半分は当たりじゃねえか?」
ちょっと悩むわね、その質問は。
「ええと……、つまり、亜人国家の方々の二つ名とは、ジャパンで例えるなら剣術の流派のようなものだと?」
「そんな感じかしらねえ?」
「はあ……、となると、払暁、木枯、海嘯とは、自然現象のことですが、それをできると?」
「えっと、それはまあ、できると言えばできるけど、払暁だからと言って夜明けを早めるとかそういうことじゃないのよ」
具体的に説明するならば……。
「私は、『仮想太陽の創造及び操作』によって朝日を作るから、『払暁』なの。とは言え、本物の太陽ほど規模が大きい訳じゃなくって、最大でも月の半分くらいの大きさの太陽しか創造できないけどね」
「俺は、『触れたものを概念的に枯渇させる仮想気体の創造及び操作』をもって、『木枯』の魔導師を名乗っている。簡単に言えば、触れたものの水分や熱量、魔力などを吸う風を吹かすってことだ」
「俺は、『指向性を持つあらゆるものを倍の力で逆方向に跳ね返す』ってだけのチャチな魔導師だぜ。ゾラとバインと比べると無駄に代を重ねちまっているし、格は下だなぁ」
「………………は?」
はい?
「その……、それは……、悪用すれば国家が破壊……、されるのでは?」
「できるけど……?」
「危険……、では、ないでしょうか?」
「やらなければ良いじゃない」
「で、ですが、その、やろうと思えば、地球が破壊されます、よね?」
んー?
「私の場合、最大規模の仮想太陽をぶつければ良いだけだし。掌サイズまで圧縮した仮想太陽でマントルを打ち抜いても良いわね」
「俺なら、空飛びながら木枯らしを吹かせていれば、いずれ滅ぶだろうな」
「俺は……、まあ、自転のベクトルを反転させりゃ良いだけだしな」
「………………」
あ、首相君がすごい顔してる。
「もー、大丈夫よ!地球を滅ぼそうとしたら私の上司がすっ飛んできて、速攻で逮捕されるから!」
そんなこんなで前交渉終了。
この大学は、使っていない教室が多いから、増築は少しで済んだそうよ。
大学の離れに研究棟を建ててもらったわ。
寝泊りについては、近隣のマンションを借りたわ。
狭いけど、品があって良い部屋ね。
さあ、早速授業を始めていくわよ!
「まず、魔力というものは……」
うんうん、ここの生徒さんはクソ真面目ねー。
私が休憩してても、ノート片手に質問してくるから大変よ。熱意は認めるけどね。
「ゾラ教授、よろしいですか?」
「よろしくなくても来るじゃないの、ヨアヒム君は」
「よろしくないようでしたら出直しますが?」
「ごはん食べながらでも良いなら答えるわよ」
「では……、この魔法陣の……」
ああ、本当に聞いちゃうんだ。ごはん食べてるのに……。
ほんっとに、熱意が凄いわね。
皮肉とかじゃないけど、感心するわ。
何と言うかこう、「国を背負ってます!」って顔してるわー。
もっと肩の力を抜いていきましょうよー。
魔法でも何でも、義務感じゃなくって好奇心を持って楽しくやらないと。
まあ、良いわ。
そう言う性分の人もいるでしょうし。
仕事はこんなものね。
帰還勇者、この調子でしばらく、各国の様子を書きます。
退屈でしょうが付き合ってくださいよ。