「おっと……、首席だったのか。そこまで自信があった訳じゃないんだが……」
僕はオズワルド。
オズワルド・ロレンツォーニだ。
年齢は十八歳。
今年、ナポリに新しくできた魔法大学に入学する予定だ。
マンマと離れるのは心苦しいんだが……、いや本当に辛いんだが……、魔法大学は面白そうだった。
幸い、勉強はそこそこに得意だからね。まあ、合格は間違いないだろうと思っていたんだけど……、まさか首席とは。
となると……、ここはカッコよく首席らしいスピーチをして、魔法大学に入学した才女達にアプローチしようかな?
やはり、僕の伴侶となる女性は、マンマのような才女が良いねえ。
理知的な女性は素晴らしいよ。その上、美味しいラザニアを作れる女性ならもう最高さ。そんな女性がいたら僕は、即座に愛の言葉を囁くね。
「私が学園長のヴィルザ=ガズリィ・ペインフローよ〜!みんなよろしくね〜!」
うーん!
幼女!
……流石にロリータはちょっと。
どうやらセイレーンらしいが……、あそこまで幼いと食指が動かないなあ。
ぱっと見、十歳くらいじゃないか。
だがまあ、他のセイレーン達はとても美しいね。
大きく膨らんだ豊かな母性の象徴に、それに反するかのようなスマートな肢体。
特に、白魚のような手指が良い。手先が綺麗な女性は心の中も美しいものさ。
僕のマンマも、とても綺麗な手をした人でね。指先の、爪の一枚一枚も隅々まで美しく手入れしているかどうかで、その人間の美意識が分かるものなんだ。
さあさあ、早速、勉強していこうか。
大学に合格したからには、真面目に勉強しようじゃないか。
遊んでばかりではいられない。
マンマも応援してくれていることだし、全力で頑張ろうか。
内容は……、うーん……、難しいね。
けど、分からない訳じゃない。
教授達は、聞けば教えてくれるしね。
何故か、あのロリータな学園長に気に入られて絡まれるようになったが、それは置いておこう。
ああ、因みに、学園長の指導は微塵も理解できなかったね。高度過ぎる。
けど……、僕はほら、昔から要領は良いからね。
多くの教授と知り合って、言い方は悪いんだが教授達を上手く使って、知識を蓄えることにしたよ。
「リンドヴィン教授、よろしいですか?」
「良いぜ、何でも聞いてくれよ」
「まず、固有魔法というものについて知りたいのですが」
「固有魔法?ああ、異名持ちについて気になったのか?」
「ええ、恩師の経歴に興味を持つのはおかしいですかね?」
「いや、良いんじゃねぇか?下を見るよか上見た方が良いぜ。とは言え、お頭はマジでスゲェけど、アタシはそんなんでもないぞ」
「そうですか?資料では、『神がかり的な強さを持つ、伝説の傭兵ヴィルザの右腕』とありますが?」
図書館に置いてあった資料にそう書いてあったんだよね。
その、新聞記事を見せる。
「うぇっ?!そんな小っ恥ずかしいこと、誰が言ってたんだ?!……デルファン社!!!あのクソゴシップめ!!!」
おや、怒らせたかな?
「はあ……、まあ良い。けどな、アタシは初代じゃない。四代目だ。お頭の本当の右腕は初代『爪研ぎ』だってことは忘れんなよ」
「はあ……。初代はどうなさったので?」
「とっくの昔に死んでらぁ」
「ああ、それは……、申し訳ない」
「はっ、ガキが気ィ遣うんじゃねぇよ。初代『爪研ぎ』はアタシの曾祖母さんだけど、殆ど会ったことはねぇからな」
あー、と一声上げるリンドヴィン教授。
「で、固有魔法だったか?まあ、異名持ちの魔導師の使う固有の魔法だ」
「それは知っていますが、具体的に何が凄いのでしょうか?随分と持て囃されていますが……」
「そりゃそうだ。固有魔法ってぇのは、選び抜かれた魔導師のみが持てる奥義だからな。と言っても、三万人はいるんだがな」
「亜人国家の総人口が三億人ほどと聞きますが、三万人も?」
「勘違いすんなよ?亜人国家の、百万年の歴史の中で、今現存しているのが三万人って話だ。けどな、アタシらは、お前ら人間と違って何十万年も生きるんだ」
ふむ……。
百万年の歴史の中で、現在三万人しかいない伝統技能の後継者、となると……。
「それは、かなり稀少な存在ですね」
「そうだ、異名持ちは少ねぇ。だから基本的には、軍隊の要職だとか、貴族階級だとかだ。まあ、とにかく偉いんだ。アタシらみたいに傭兵やってんのなんて少数派だ。でも……、なんだかんだ言っても、アタシらはほぼ正規軍みたいなもんだけどな」
ふむ……?
フランスの外人部隊のようなものかな?
生憎、その手の話には詳しくないが、フランスの外人部隊は、決められた任期の軍務を終えれば、外国人でもフランスの市民権が得られる……、と言った話を聞いたことがあるね。
つまり、教授らも、市民権を得るまで戦い抜いた歴戦の勇士……、ということかな?
「なるほど……。ですが、一つ気になることが」
「何だ?」
「固有魔法……、内容を知られていれば、対策が立てられてしまうのではないでしょうか?」
この新聞記事にも、爪研ぎリンドヴィンの『鋭尖爪(ザミアメンス)』と書かれてしまっている。
軍人が、己の武器をひけらかすような真似をして良いのだろうか?
「ハッ……、異名持ちを舐めんなよ。固有魔法ってのは、『分かっていても防げない』のが基本だ」
「……と仰いますと?」
「……例えば、お前。今ここでアタシにマシンガンを向けられて、一秒後に撃つと私が宣言したとしよう。で、お前は生きて帰る自信はあるか?」
……なるほど。
「理解しました。マシンガンを持った相手には、こちらがより強いマシンガンを持つしかない……。固有魔法の使い手には、相手と同じくらい強くなるしかない、と」
「そうだ。戦場で異名持ちと出会ったら、脇目も振らずに逃げろよ〜?ちょっと魔法をかじった程度の人間なんて、余波だけで紙屑みたいに吹っ飛ぶからな〜」
「それは恐ろしい」
おっと……、そんな話をしていたら、鐘が鳴ったね。
「お、授業か。お前も次の講義を取ってたよな?」
「ええ、はい」
「よし、行くぞ」
授業は……。
「あのね〜、ここはこうするといいのよ〜!」
「お頭ー、邪魔だからそこで遊んでてくれなー」
ロリータ学長に邪魔されながらも、封印術を中心に色々と学ぶ。
封印術は、軍隊の戦闘技術から民間の護身術まで、幅広く使われている技術体系だそうだね。
また、話によると、マジックアイテムの中にある電子回路の魔法版、『魔法回路』においても、魔力の流れを調整する素子として、封印術が使われているとか。
普通の魔法を使うときにも、封印術に要求される綿密な魔力操作を活用すれば、大いに役に立つとも。
つまり、封印術は基礎技術だね。そして応用にも使える。
これから、どんどん世界に魔法使いが増えていくんだろうな。
護身のためにも、封印術は覚えておこう。
いっつも有能イケオジばっかり書いてるから、たまには凡人ニキとか書くか?
転生特典で不老不死を選んだ凡人おじさんが、数百年間生きて頑張って色々な技能を得ていく話。
……既にありそうだな。