さあて、旅の醍醐味、ランダム異次元ジャンプですが。
「今回はハズレを引いてしまったようです!」
はい残念!
まあたまにはこんなこともあるよねっ!
うーん、この感じは戦争かな?遠くから火薬の香りと焼けた鉄の匂いがする。
「滅んじゃってるみたいねー」
悲しいなあ。
俺の旅はほら、自然との触れ合いと、文化の見聞、人との出会いの三つを大切にしているんだが……、そのどれも望めそうにないな。
「そして涼しいな。これ、外は雪か」
俺で涼しいくらいだから、常人なら全身防寒着着ないと凍死するレベルか。
マイナス何十度ってところか。
俺?俺は寒いのも暑いのも慣れてるから。寒さはマイナス二百度以上、暑さはマグマくらいまでなら何とか耐えられるよ。
八寒地獄と焦熱地獄体験済みだからね俺。
「しかもどこだここは。地下?」
薄暗い地下でひとりぼっち。
さっみしぃー。
「こんな時には歌を歌おう」
寂しい時にはー、歌を歌おうー。
虚空からギターを取り出す。
「聞いてください、オレンジ色の夕焼け空」
誰もいないけど。
×××××××××××××××
私達を育ててくれたおじいさんと別れて、どれくらい経っただろうか。
随分長い間移動したと思う。
長い道を、暗い地下を乗り物に乗って、長い間。
……おじいさんは、ただ、上を目指せって言ってた。
きっと、上には何かがあるんだろう。私達の役に立つ何かが。
それが食べ物とかなら助かるんだけどな。
「……!、ねえ、ちーちゃん、何か聞こえる」
「はぁ?何が?」
『………………ァ』
「しーっ、静かに!……これは、歌、かな?」
「こんなところで歌なんて聞こえてくる訳ないでしょ。ユーの耳がおかしいんじゃないの?」
「酷い」
「ごめん」
「良いよ」
うーん、ユーの耳がおかしくないとしたら……?
「どっちから聞こえる?」
「んー、あっち!」
「りょーかい」
「え?行くの?」
「生きてる人がいるかもしれないでしょ」
「会ってどうするの?」
「それは……、分からないけど」
兎に角、行ってみよう。
『フラッシュ!バン!アラカザム!アンドグッバーーーイ!!!』
「あ、本当だ……。男の人の声がする」
それと楽器の音。
「聞いたことない言葉……、でも何となく、明るくて好きな音楽だね」
そうだね。
さて、音も近くなってきたし、そろそろ……。
「続いて、ロック黎明期の名曲、ロックアラウンドザクロックを……、おや」
ケッテンクラートのライトに照らされたのは。
白髪で、整った顔つきの男の人だった。
正直、おじいさん以外の男の人はあまり見たことがないけれど、そんな私にもとってもカッコいい人だと分かる顔だ。
それだけじゃない。こんな寒い中にシャツを一枚だけだなんておかしい。普通なら凍って死ぬ筈だ。
それに楽器。楽器を首から下げている。楽器なんて初めて見た。価値のあるものなんじゃないのか。
私がごちゃごちゃと色々考えていると、男の人は話しかけてきた。
「んん、привет там?かな、この辺りなら」
「え、あ?」
え?なんて言ったんだろう?
「違う?なら、Hello?」
「そ、その」
「まさか你好?Bonjour?Hallo?◾︎◾︎◾︎◾︎?◯◯◯◯?」
何言ってるんだろう……?
「えっと、言葉、分かる?」
「ああ、日本語かよ。こんにちは!可愛いお嬢さん達!」
「う、うん、こんにちは」
「こんにちはー!あのー、お兄さんはだあれ?」
ユーが話しかける。
「お兄さんは旅人だよー!いろんな世界を旅して回っているんだ!」
「色んな世界……?あの、私達、上を目指してるんだけど、何か知らない?」
「ごめんね、さっき来たばっかりだから」
知らないのか……。
「そっか……」
「君達は上に向かっているのかい?」
「うん、そうだよ」
「んー、俺もついてっていいかな?」
「どうする、ちーちゃん?」
「あの、私達、食料も燃料も心許ないし……」
私達は色々とカツカツだから……。
「ああ、大丈夫。食料も燃料も乗り物も持ってるからね」
「え?そんなものどこに……」
「ほら、ここに」
男の人の目の前の空間が歪む。
すると、乗り物が出てきた。
見たことがある、これは、バイクだ。
でも、どこから?
「うわっ?!凄いよ!今の見たちーちゃん!乗り物がこう、ぐわわーってなったところからぬるんって出てきたよ!旅人さん今のどうやったの?!」
「魔法をちょっとね」
「魔法?!!すごーい!!」
目をキラキラさせるユー。
なんだ、これは、おかしい、こんがらがってきた。
「その、ごめん、私混乱して……。質問して良い?」
「ああ、いいとも」
「まず、貴方は?」
「旅人さ」
端的過ぎる……。
「具体的に、何をやってきた人?」
「教師、傭兵、パイロット、料理人、音楽家、絵描き、その他諸々、なんでもやった。ここには旅しに来たよ」
遠い国から来た、ってことかな。
「寒くない?シャツ一枚で……」
「うん?寒くはないけど……、ああそうか、見てると寒くなるよね。今コートを着るよ」
すると、旅人さんの姿は一瞬で変わり、長いカーキーのコートを着ていた。
「その、今のとか、バイクを出したのとか、どうやったの?」
「魔法だよ」
魔法……。
魔法とはあれだろうか。
先っちょに星がついた棒を振るうとキラキラ光ってかぼちゃが馬車になる、みたいな。おとぎ話の本を読んだことがある。
「魔法、って……」
「あれ?魔法の概念がないのかな、この世界。簡単に言えばマナとかオドとか使って自然現象を起こしたり干渉したりする技術なんだけど、知らない?」
「その、ちょっと分からないかな」
「そっか、この世界に魔法はないのか。意味は分かる?」
「あ、はい。かぼちゃを馬車に変えたりできる、んだよね?」
「いや、逆にそれは無理だけど……、火を起こしたり、水を出したり、物を四次元に仕舞ったりはできるよ」
え?何それすごく便利。
燃料要らずに水要らずで荷物の削減もできるの?そんな都合がいい技術……。
「ほら」
すると、旅人さんの手元に拳大の炎が。
「わー!すごーい!」
ユーはただ喜んでいるだけだけど、これは本当に凄い。
これを使いこなせたら、物資の節約になる!
「あのっ、それって私にも使えるかな?!」
「うん?……ああ、使えるんじゃない?中々の魔力量を感じるし。磨けば光るってやつだね」
「教えてくれる?」
「良いよー。あ、それで結局、ついて行っても良いかな?」
多少食料を渡しても、この技術を学べるならお釣りがくる……。
「うん、ついてきて良いよ」
「そっか、いや、ありがとね、一人旅もいいけど、どうせなら可愛い連れが欲しくてさ」
可愛い、か……。
おじいさんに言ってもらったことは何度かあるけど、おじいさんに言ってもらった時とはなんか違う嬉しさ……。
カッコいい男の人に言われると嬉しい。
男の人は何となくあんまり得意じゃないけど、この人は不思議と大丈夫だ。
「っと、取り敢えずそろそろ飯の時間にしない?何か食べたいものは?」
食べたいもの……?
「……パン?」
配給で貰ったものの中では一番美味しかった。固いけど、ちょっと甘くて美味しい。
レーションはボソボソで変な味だけど、生きていくためには仕方ない。
「パン?それだけじゃ味気ないな、ビーフシチューも作っていい?」
「ビーフシチュー……?」
何だろう、それは。異国の食べ物かな?
「あれ?知らない?トマトとデミグラスソースで牛肉と野菜を煮たものなんだけどさ」
トマト?デミグラスソース?
野菜を煮るの?
それは美味しいのだろうか?
「ねーねー、それってどんな味?どんなの?」
ユーが聞いた。
「ほのかな酸味があって野菜と肉の旨味が染み込んでいて美味しいよ。一種の煮物と言えば分かるかな?」
酸味……?
どんな味か見当もつかない。
「まあ、今回は時短レシピね。妥協してデミグラスソース缶とトマト缶を使う。本気の時はフォンドボーから作ります。さてまずは野菜の皮むき、そして切る」
いきなり目の前に現れた大きなキッチンに驚き、そして圧倒的な手際に更に驚く。
「あ、芋だ!芋は知ってる!芋が入っているってことは、食べれるね!」
ユーはそんな感じ。
「さて、肉は下味つけて表面を焼いて」
肉……、牛肉って何だろう。
でも、すごくいい匂いが漂ってきている。
「野菜を入れて炒めて」
今まで嗅いだことのないようないい匂い……!
「デミグラスソース、ブーケガルニ、トマト缶、赤ワイン投入。圧力鍋で煮詰める」
十数分、少しお話をして待つと……。
「さて、そろそろ良いかな。ブーケガルニを取り除いて、出来上がりだ。これをお皿に分けて、生クリームを一回し。アイテムボックスに放り込んであった作りたてのロールパンもつけて、召し上がれ!」
「お、おおう」
す、凄い、ちょっとくらくらするくらい良い匂いする。濃厚な香りだ。
「いただきまっ!ぱくっ!おいひぃ〜!」
我慢できないユーのやつは速攻で、警戒も何もなく、ビーフシチューを口にした。
おいおい、少しは警戒しろ。
でも、毒とか食べられないものは入ってない、みたいだし。
私も……。
「ぱくっ……?!」
口の中に広がる、濃厚な旨味とほのかな酸味。
何だこれは。
私は衝撃を受けた。
世界にこんなにも美味しい食べ物があったなんて……。
今度は芋を口に運ぶ。
「甘い……!」
スープの味が染みていて、それでいて優しい甘みがある。
オレンジ色の野菜を。
「こっちも甘い……!」
味が染みているのは同じだが、とろけるような甘さは芋よりも強い。
緑の野菜。
「ほんのり苦くて甘い……!」
独特の苦味があって、けど甘みもある。
そして肉を。
「とろけるっ……!」
独特の風味。脂の甘さ。とろける。旨味。未知の味覚が私を襲う。
気付いた時にはお皿は空になっていた。
「おかわりかい?」
「え、あ……」
「おかわりっ!!」
「ユー!少しは遠慮しろっ!」
「いや、良いんだよ、お腹いっぱい食べると良い。はい、パンもあるからね」
パン……。
私が食べたことがある配給のパンはガチガチに固かった。けどこのパンは、手で簡単に千切れるくらいふんわり柔らかい。
「………………!」
そして味は、私が食べたことのあるパンより優しい甘さで、本当に美味しい。
「デザートもあるからね」
デザートと言うのが何かは分からないが、美味しいものだと言うことは予想がつく。
「こんなに美味しいもの初めて食べた!凄い!美味しい!」
ユーが嬉しそうに言うと。
「……今まではどんなものを食べてきたんだい?」
白髪のハンサム男、旅人さんは尋ねてきた。
「配給の固いパンとか、最近ではレーションかなあ。たまに缶詰とか。レーションはボソボソで美味しくないの」
ユーが答えると、旅人さんは、一瞬、悲しそうな顔をしてから、言った。
「そっか。よし、これからは、君達の食事は俺が作るよ」
「え……?だ、駄目だよ、貴重な食料を」
「何万トンもストックしてあるから安心して」
「でも、私達、何も対価に見合うものを持ってないし……」
「気にしないの。俺はね、君達みたいに可愛い女の子が辛い思いをしてる姿を見るのが一番嫌なんだ」
「それは……」
「良いの。気にしない気にしない。さあ、おかわりをどうぞ」
あの後、デザート……、食後に食べる甘いもののことらしい、を食べさせてもらった。
プリン、と言う黄色でプルプルした甘い食べ物で、ほろ苦いソースがかかっていた。
まさにほっぺたが落ちそうな美味しさだった……。
「お腹いっぱーい!」
「よしよし、沢山食べたね、今日はもう寝ようか」
「うん!」
ユーのやつは完全に懐いてる……。食べ物もらえたからって……。危なくないとは限らないんだぞ。
……でも、危険な感じはしないんだよなこの人。
「そう言えば名前聞いてなかったね、君は?」
「ユーリだよ!」
「チト」
「そっか、素敵な名前だ」
「あの、貴方の名前は?」
「ん、マオだよ。でも、名前で呼ばれるのは女の子みたいであまり好きじゃないから、できれば旅人と呼んでほしい」
「分かった、旅人さん!」
「よしよし、ユーリちゃんは賢いなあ!」
「うきゃー!」
おおう、高い高いされてる。
旅人さん大きいから二メートル以上は持ち上げられてるぞ……。
「ほら、チトちゃんもおいで」
「い、いや、私は」
「高い高ーい」
「うわわわわ!高い!本当に高い!」
と、まあ、なんだかんだで、旅人さんが私達の旅についてくることになった……。
「君達は俺が面倒を見るから。上を目指して頑張ろうね」
「うん、頑張るー!」
「ゥウッヒャァユーリちゃんかわええ!!」
問題は、この旅人さん、大人なのにユーと同レベルってところだ……。
はあ、心労が……。
鬱フラグブレイカー、女の子絶対助けるマン、旅人の派遣。