僕は加藤悠馬。
日本に名だたる御立化成株式会社に新設された、ダンジョン材料回収課の下請けだ。
本社にはもっと、体育会系のデカいやつとかいそうなものだけど、命の危険がある仕事は、もっと替えの利く底辺に任せた方が得ってことだろう。
実際、御立本社は体育会系の雰囲気で、僕なんかよりもっと背の高くてがっしりした奴が多いのに。
まあ、そんなことで、御立本社からの命令でダンジョンの攻略を始めることとなったのだ。
やれやれ、低学歴は辛いね。
とは言え、給料面はかなり優遇されている。
一般的な会社と同じような社会保険の類に守られつつも、怪我や病気の際に貰える保険金は普通の仕事よりも多額。
休日も多く、残業も本当にない。何せ、本当の意味で命がかかっている仕事だから。無理させて死人続出!などとなれば、本社の評判も傷つくってことだろう。
その上で、賃金は、ある程度の基本給に上乗せする形の出来高制だ。
頑張れば頑張るほど稼げる訳だね。
でもまあもちろん、最初のうちは、僕にやる気はなかった。
命がけなんて冗談じゃない。
会社の経費で魔力覚醒の施術を受けられたのは良いとしても、だからといって会社のために命をかけるほどの給料はもらってないのだ。
だから、まずは極低階層で労せずに狩れる雑魚モンスターを狩り、老いで身体が動かなくなるまでには異動するか昇進するかして、こんなところからはオサラバしてやる、と。
そう思っていたはずなんだけど……。
「オラァァァーーー!!!!死ィイねぇっ!!!!」
『グオオオオッ!!!!』
何の因果か、難関である十階層のオークと全力で殺し合いをしている。
何の因果か、じゃないんだよなあ。
僕が進んで戦いに行ったんだもんなあ。
だって仕方ないよね、嫁の為なんだもん。
説明をさせてもらおう。
今、ダンジョンの攻略は、手っ取り早く稼ぐ手段として大人気だ。
何故、手っ取り早く稼ぐ手段が大人気になるかと言えば……。
フレステMが全ての原因だった。
フレステMで、ゲームキャラをリアル嫁にできる。
嫁の現世での肉体を作るには、メイデンハーツに頼むしかない。
メイデンハーツに頼むには、新車が軽く買えるくらいの金を積まなきゃいけない……。
つまりそういうことだ。
世の中には、惚れた女に何もしないサイコパスもいるにはいるが、僕達凡人は、美人にお願いされると断れないのだ。
いや、お願いすらされていない。
僕達はただ、メイデンハーツに金を積むと嫁の現世での肉体を作ってもらえると聞いただけで、嫁はそうしろなんて言ってない。
むしろ、負担になるからやらなくていいとまで言われている。
けどまあ、まともな奴ならさ。
いや、まともじゃなくてもさ。
こんな僕みたいなクズにも優しくしてくれる良い子に、現世での肉体くらい、プレゼントしたくなるだろ。
出会ったのがゲームの中で、ゲームキャラとして僕を嫌わない設定にされていたとしても、人生で唯一僕のことを好きになってくれた女の子なんだぞ!
「……ユーマ、最近疲れてるね。ゲームも全然やってないよ?」
「あ、うん、でも、大丈夫。大丈夫だから。全部、全部ミーシャの為だから」
「私、ユーマに会えなくなるくらいなら、身体なんで要らないよ……。私は、ユーマがいてくれればそれで良いの……!」
「でも、ミーシャ」
「お願い、もうちょっと休んで?買ってくれるのは確かに嬉しいよ、それは否定しない。でも!来年でも、再来年でも良いの……。もっと自分を労って?」
マイホームで、デーモンハンターVRの僕専属受付嬢であるミーシャがそう言った。
自分を労ってくれだなんて言葉、親にも言われたことがない。
「あ、あの、その……、ありがとう。ミーシャ、だ、大好きだよ!」
「ユーマ……」
ミーシャの為だ。
ミーシャの為なら頑張れる。
「……分かった。けどお願い、休みの日は私と一緒にゲームしましょ?休日出勤なんて嫌だってあれほど言ってたじゃない?」
「で、でも、ミーシャ」
「でもじゃないわ!お休みの日くらい、ユーマとずっと一緒にいたいの!」
ミーシャ……。
親にも見捨てられ、周りからは見下され、上司からは使い捨ての駒扱いされるこんな僕を。
こんなに、こんなに愛してくれる。
好きでいてくれる。
これが、人を好きになるってことなんだ。
人を好きになるって、熱いな……。
命をかけても良いって、本気になれることって、初めてだ。
こうして、およそ半年後に、ミーシャの肉体を買うことができた。
けどそれからは、ミーシャの為にもっと稼ぎたいと言う気持ちが強くなった。
ミーシャに綺麗な服を買ってあげたい。
ミーシャに美味しいものを食べさせてあげたい。
ミーシャを大きい家に住ませたい。
僕はこれからも、ミーシャの為に生きる。
ワアッ……!
書き溜め終わり!次は屋台マンの続きを投げます。
ラムセス二世の来日……、の前に、日本の冒険者事情を書きたくもある。
気になるでしょ、日本の魔法大学の一期生とか。
前に書いた、土井中村出身の男三人メンバーいたじゃん?ほら、炎の魔法使いと、ルーンの剣士と、回復魔法使いの三人。あの三人を軸にちょっと書きたい。あ、でも、主人公が空気になってしまう……。