まあうん、うちのメイドを差し向けたのは、一応だ。
一応、礼儀正しいですよとアピールする為に過ぎない。
地球にはプライバシーの保護というものがあるからな。
秋葉原の冒険者ギルドを俺が遠隔で見てますよと伝える為に、うちのメイドを派遣した訳だ。
ホムンクルスはまだ地球に流していない技術だから、ホムンクルスを見れば、俺が遠隔で見ていると言うことに気がつくはずだろう。
さて、冒険者ギルド。
見た目は、駅と一体化した役所のようなもの。
ある種、職業斡旋所のような風態もあるが、近隣にフードコートなども併設されており、その賑わいはショッピングモール的とも言えるだろう。
そこに、何人ものオタク君がやって来る……。
「フヒヒ、いやあ、儲かりますなあ」
「ほんそれ。ゴーレム如きをプチプチ潰してるだけで月給五十マソは貰いスギィ!!!」
「これで嫁のアルカたそに新しいお洋服を買ってあげられるンゴねぇ……」
うーん、もう喋り方の段階からしてキッツいなあ。
だが、あんなんでも金は馬鹿ほど稼いでる納税者だし、問題はないんだよな。
しかも、さっき、「ゴーレム如き」と言ったか?
ゴーレムは、初期の自衛隊が苦戦して撤退したほどの相手だぞ。
それを軽く処理するとは、まあそこそこに強いんじゃなかろうか?
顔はまあお察しだが、オタクなのに小綺麗で、体格もしっかりしている。
これは、恐らくはリビングドールの仕業と、魔力覚醒による肉体の活性化だろう。
リビングドールに身嗜みを整えてもらっている訳だ。子供みたいに。
人形のように美しい、なんだかよく分からんアニメキャラクターの姿を模して作られたリビングドール達が、風呂に入らないオタク君達を宥めすかして入浴させているということだな。
絵面は最悪だが、まあ、うん、本人が幸せなら良いんじゃないかな。
そして、魔力覚醒だが……。
「いやぁ、『魔力覚醒処置』を受けた当初は、強化倍率1.22で絶望したでち!けど、レベル上げはやっぱり偉大なんやなぁ……」
生物は魔力覚醒をすると、肉体が精神に引っ張られていく。
まず、魔力とはそれすなわち、精神、内なる神、神秘の力である。
魔力が高まれば、存在の拠り所……、「根源」がより神秘側に近付いて、肉体はそれの付属物に過ぎない、単なる物理的な器に成り下がっていくのだ。
そして、器に過ぎない肉体は、魔力、すなわち心の望む姿に作り変えられる。
もちろん、いきなりオタク君が銀幕俳優になったりはしないのだが……。
魔力が増えるに従って、無駄な脂肪が減り、筋肉が増え、肌荒れが治り、髪が生えてと、細かいところが修復され全盛期に近づいていくので、結果的には美しくなると言っても過言ではない。
こちらのオタク君達も、それらのプラス要素があり、まあ普通の人くらいのランクにはなれている。
ぱっと見では、体育会系の好青年に見えるくらいには。
だが、その装いは、全くもって好青年のそれではない。
ある者は、モンスターの革でできた鎧を纏い。
またある者は、フルプレートアーマーを着込み。
その手には刃物や杖、弓などが握られている……。
秋葉原だからコスプレか?
否、コスプレのリアリティではない。
つまり、本当に武装しているのだ。
……まあ、冒険者だからな。そりゃそうか。
いや、それでも、武装の質は軍隊並みだぞ。
民間に流すモデルと軍に流すモデル、両方同じものだからな。
俺が知る限りでは、あれは、うちの会社の最新モデルだ。
ここにいる冒険者はトップクラスなのか?と言われると、そうでもない。
他の冒険者も、ちらほらとこのレベルがいる。
つまり、全体的にレベルが高いということになるな。
素晴らしい。
実際に戦っているところはどうだ?
四人パーティ。
フルプレートアーマーにタワーシールドと大型メイスを持った背の高い男。
ヴェリタ鋼製の全身鎧に、鎧下にスライムラバーを仕込んだバロメッツの綿服を着込み、ガチガチに防御力を上げている。
これならば、ストーンゴーレムに思い切り殴られても、ほぼダメージはないだろう。
革鎧にサーベルを二本持った男。
サーベルは魔剣と通常のライガス鋼製のもの二種類。その他にもメテオライト製の投げナイフも持っている。
瞬間火力なら、四十階層でも通用するかもしれないな。
ローブに魔法の杖の小男。
ローブはルバリオン流体鋼を編み込み、並みの鎧よりも丈夫だし、魔法の杖はマギアル輝石を嵌め込まれており、魔力を倍ほどに増幅する高品質なもの。
魔力の巡りから見て、かなりバリエーション豊かな術を使うオールラウンダーだろうな。
中量鎧にカイトシールドと槍を持った細い男。
部分的に金属を使った鎧と、魔法の杖を兼ねるパルチザン、カイトシールドは任意発動型の魔具。
一人で独立した魔法戦士型か。
ここは秋葉原三十階層。
どうやら、岩場の領域らしく、モンスターは初心者卒業の壁たるオーガのようだ。
オーガといえば、赤肌有角の巨人で、パンチ一発で電柱をへし折るし、タイヤを引き千切る腕力を持つ化け物だ。
しかも、対戦車砲を受けても一撃では死なないくらいに丈夫な上、走る速さは時速80kmを優に超える。
更に、金属製の棍棒を巧みに操り、少しの攻撃では怯まない強靭さをも兼ね備える強敵だな。
詳しくはないが、特撮ヒーローの怪人くらいは強いんじゃないだろうか?
それを。
「オラオラオラオラ!!!」
「堕ちろ!堕ちたな……」
「死ね!」
「ピャーッ!」
奇声を発しながらも、危なげなく処理していくオタク君達。
具体的には。
「『レッサー・ストレングス』『マッスル・アクティベート』『アンチ・フィジカルアタック』!!!」
肉体機能を向上させる魔法や。
「『キーン・エッジ』『インスタント・デクストリティ・ダブル』!」
瞬間的に大きく強化する魔法。
「『マジック・ブースト』『マジック・ミサイル』」
魔力矢を放つ魔法。
「『プロビデンス・フィクス』『プロビデンス・フィクス』……、『フル・ペネトレイション』!!!」
力を溜めて一撃必殺の魔法。
魔法を上手く使って、強力な力を持つオーガにうまく対処していた。
「いやぁ、やっぱ物理強化は安定ですなあ」
「ゆうて、これ、バフ切れたら死ゾ〜?むしろワイは瞬間倍化とか言うキチ魔法使う方が怖E!」
「しかしね、君、瞬間倍化は特にデメリットはないのだから……。むしろ、摂理固定化重ねがけして、貫通魔法で一撃必殺の方が狂っとるよ」
「貫通魔法はきもちがよいので……。実際、遠距離攻撃魔法の使い手の方が誰とでも連携できるから食いっぱぐれないんだよなあ」
元オタク君と言えども、なんでも言うことを聞いてくれるカキタレを持ち、更には、魔力覚醒で健全な肉体を持つ彼らは。
言動は確かに気持ち悪いオタクだが、気力に満ち、自己肯定感が高まり自信ある堂々とした態度をするようになったので、気持ち悪さは半減と言って良いだろう。
ぱっと見は体育会系の好青年なのだ、今はもう、女の方から寄って来るんじゃないか?
無論これは女オタクも同じ。
理想の男を再現したリビングドールに身嗜みを整えられ、きっちりとメイクをして、スタイルも魔力覚醒で整えられた今、オタク女さん達もそこそこの美人になっていた。
まあ、うん。
気持ち悪い奴が減るのは世界の得だな。
最近オリジナル作品ばかりなので、たまには二次創作やりたい。
やる夫スレのメガテンものみたいな……。