リアス・グレモリーとその眷属達が、学校を休んでまで山に篭り、必死に特訓をしている頃。対戦者のライザー・フェニックスは……、
「打てやー!!!打てや、打てやー!!!打て、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」
「ライザー様、お気を確かに!!」
冥界の球場にて、雄叫びを上げていた。
「あそこで打てんとかまぢむり……」
「わ、分かりましたから!立って下さいライザー様!ほら、近くのパチンコ屋寄って帰りましょう!ねっ!」
ライザーをあやしている、もとい、管理しているのは、ライザーの眷属、女王のユーベルーナだった。
二メートル近い身長の大男を引き摺り、パチンコ屋に向かうユーベルーナ。「爆炎の魔女」とまで称される彼女だが、その強大な魔力はライザーの機嫌をとることには使えないのだ。残念ながら。
「無理だわー、中日ドラグーンズ負けたもんよー。今日は勝負運ねーわー」
「じゃあ競馬場に……」
「無理無理、今日はどうせ勝てんわー」
「えーと、えーと、じゃあ食事にしましょう!」
「次郎ラーメンならええんやけど……」
「うっ、じ、次郎ですか……。わ、分かりました!行きましょう!」
「わぁい次郎。ライザー次郎だいすき」
「うう、麺半分、野菜半分ね……。豚とニンニクと背脂も抜いてもらわなきゃ……」
……因みに、次郎ラーメンとは、冥界で密かに流行中のラーメン店である。太麺とコッテリスープ、ニンニクに濃いめの味とたっぷりの油分、そして肉厚なチャーシューと山盛り野菜が売り。通称豚の餌。
「はー、最近はもうクソクソアンドクソで困るわー。結婚しなきゃ勘当っておかしいよなそれよぉ?」
「……お気持ちは分かります。けれど……」
大人の都合、というものだ。ライザーが遊んで回っているから無理矢理結婚を、と言う訳では決してない。
単に、運が悪かったのだ。他にも純血の悪魔はいた。もっと遊んで回っている悪魔はいた。ただ、運悪く、格式高いフェニックス家の三男坊で、運悪く、放蕩息子だった、と言うだけの話だ。
「フェニックス家の看板背負ってるつってもなあ。嫌なもんは嫌やし。俺TUEEEEEEだけでは生きていけないんやなって」
「それはそうですよ。個人的な強さは社会には何の関係もありませんから。いかに強くても私達は所詮一悪魔に過ぎませんもの……」
そう、ライザー・フェニックスは強かった。それはもう、魔王に匹敵、いや、それ以上と言って良いほどに。
しかしそれだけだ。
一人の悪魔に過ぎないライザーは、現在の悪魔の社会に疑問はあれど、それを変えようとは思わなかったし、事実、如何程に強かろうと個人の力だけでは革命は成し得ないと理解していた。
……むしろ、悪魔社会で生きる上で、その強さは無用の長物だった。
故にライザーは、無用な争いを避ける為、リミッター……、『エンチャントドラグノフ』で自らの力を制限してまでいる。
よって本人は、力づくでどうこう、と言う気はなく、
「どうせなら政治力TUEEEEEEにしときゃ良かった。悲劇なんやな」
「それなら、今からでも領地運営のお勉強でもしますか?お勉強のお手伝いならいくらでも……」
「そんなことしなくて良いから……(良心)」
また、搦め手でどうこう、と言うこともなかった。
流されてナンボ。言われた通りにすれば、今までのように気楽な生活ができる。ならば、全てを変える力を持っていても、使わなくてよくない?と言う、駄目人間の思考回路であった。
「んっはー、嫌だわー、結婚とかないわー。ユーベルーナ、結婚して」
「はいはい、お気持ちだけ受け取っておきます」
と、最早やり尽くしたやり取りを再度行う。ライザーとユーベルーナ、長年一緒にやってきたこの二人。まるで熟年夫婦のような関係だ。
「お ま た せ(王者の風格)」
「ただいまー」
ライザーを存分にあやして、フェニックス家の館に帰還したユーベルーナ。無論ライザーも一緒だ。
「んー、腹一杯やんけ。寝よ」
食う寝る遊ぶの大三元を揃え続けるこのライザー・フェニックスの辞書に自重の文字はない。
腹一杯食べたら、あとは寝る。起きたら遊ぶ、遊んでお腹が空いたら腹一杯食べる。その繰り返しなのだ。
「ん、何だ?寝るのか、主人よ?ふふ、しょうがないな、私の膝を貸してやろう」
そう言ってライザーを出迎えたのは、カーラマイン。ライザーに騎士の駒を授けられた女騎士だ。
鍛え込まれたシャープな肉体は背丈も高く、一切の無駄がない。
手にした剣はジッポライターのような機構が見える、肉厚な大剣。それを携える姿は、女らしさより厳つさが前に出る。
因みに、好きなバンドはQueenらしい。
「いやー、キツイっす。ゴリッゴリのメスゴリラの膝とかないわー」
「だ、だれがメスゴリラだ!」
キレるカーラマイン。
「あら、カーラマインが駄目なら私はどうかしら?脚には自信があるのよ?」
そう言って話しかけてきたのは雪蘭。戦車のピースを宿す女格闘家だ。
青のチャイナドレスにシニョン、棘のついた鉄の腕輪が特徴的。
中国拳法の使い手で、特に、気功の扱いには一家言あると言う。
「お前の脚太過ぎィ!筋肉やんけ!ワイはふわふわの女の子がええの!!分かる?!」
「もう、酷いわ!」
頬を膨らませる雪蘭を無視して、ライザーは館の中を進む。
「「なになに?ライザー様膝枕して欲しいの?!」」
次に現れたのは道着を着た子供二人。いや、ライザー的にはロリっ子とカウントすべきか。
名前はそれぞれ、白い道着の方をイル、赤い道着の方をネルという。
見た目で侮ることなかれ、この二人、並ではない格闘の腕がある。特に波動と呼ばれる気の力は並の上級悪魔を軽くひねり潰せる程だ。
「膝枕すんにはちょっとロリ過ぎんよー」
「「ちくしょーめー!!」」
「はいはい、しっしっ、後で相手したるから」
すると、近くにいた、カーラマインと同じく騎士の駒を授けられた剣士、シーリスと、たまたま出会う。
シーリスは魔剣リベリオンを背中にかけたまま、ピザを食べている。
今は美味しそうにピザを頬張るだけの女だが、いざ戦いとなると一流で、数多くの魔具や銃器を扱う有能なハンターである。
「んえ?」
「油でベタベタの女とか論外よ」
「えっ、えっ、ライザー様待って」
「いやもう良いから。ミラー、ミラは、おらんな」
ライザーの兵士、大鎌に紫衣の女、ミラは不在だった。
「イザベラは?」
「庭で俳句詠んでるよ」
シーリスが答える。
「そっか……」
イザベラは戦車の駒を持つ女で、モノクルが特徴的。趣味は俳句、否、HAIKUである。
女性ながらもロマンとダンディズムに溢れる傑物で、必殺技のマッパハンチはあらゆるものを粉砕する、らしい。
「邪魔すっと悪りぃしなー。マリオン、ビュレントは?」
「「はーい、お部屋のお掃除やってまーす」」
部屋の掃除をするこの二人も勿論、ただの悪魔ではない。マリオンは北斗神拳、ビュレントは南斗聖拳と言う拳法の使い手だ。
特にビュレントのその強さは、精密機械とあだ名されている。
「シュリヤーは?」
「あ、買い物に行きましたよ」
ビュレントが答える。
シュリヤーもまた、ライザーの眷属の一人で、常日頃から、「愛は絶対勝つんだよ」などと、愛に満ち溢れた美女である。
愛を謳いながら敵をぶん殴るとは、これいかに。
「「じゃあ、私達が遊んであげるね、ライザー様!」」
現れたのはニィとリィ。これまた、例によって、格闘技を修めている。ニィは草薙流、リィは八神流の古武術の達人だ。
因みに、悪魔に転生する前は猫又と言う猫の妖怪で、二人の頭にはぴこぴこと動く猫耳がある。
「遊ばん、遊ばん、しっしっ」
「「んにゃー!」」
手を振って二人を追い払うライザー。
この男、中身はおっさんであるからして、子供特有のノリの良さには時々ついていけない節がある。
「美南風ー、美南風はどこじゃー」
「買い物行ったって、ライザー様」
ニィが答える。
美南風……。彼女もまた、ライザーの眷属である。所有する駒は僧侶だが、その実、得意なのは格闘戦。三島流空手の使い手であるそうだ。
「おらんのかー、おらんかー、そっかー」
諦めたライザーは、
「しゃーない。ユーベルーナ」
「はい、ライザー様」
「膝、貸してくれや」
「ええ、勿論です!」
女王、ユーベルーナの膝で眠りについた。
フェニックス家のいつもの日常が、そこにある。
SNKゲームと鉄拳は殆どやってないってイワナ、書かなかった?