ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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一個前を中編に修正しました。


19話 デビルサマナー研修 後編

ここは銀座。

 

フジヤマゲイシャの銀座町だ。

 

表の世界では、日本有数の商店街として、日本国内外にも知られる町だが、さりげなくデビルサマナー達、裏社会の連中とも関わりが深いことはあまり知られていない。

 

人の欲望、恨みつらみ、絶望と怒り……、そう言った負の感情にこそ、悪魔が寄り付く。

 

であるとすれば、日本屈指の、人口が集まる首都圏の銀座とは、如何程の感情が渦巻くものか、考えずとも分かるだろう。

 

つまりこの銀座、少し裏路地を歩けば異界に繋がるようなある種の魔境である。

 

まあ、年に八万人くらいは行方不明になってるんだ、裏路地を歩いた一般人がいなくなる可能性も……。

 

それに、自殺しようだとか、そういう、悩みを抱えている人間こそ、悪魔は積極的に狙うのだ。

 

関東大震災も、超力超神なるものが暴れたことを隠すカバーストーリー、富士の樹海に行く人間も八割は悪魔に食われている。

 

末法だな。

 

 

 

北欧出身のデイブは言う。

 

「日本は悪魔のバリエーションがあまりにも多過ぎる」と。

 

話によると、デイブのいた北欧では、北欧で信じられる悪魔のみがでるらしい。

 

しかし、日本では、多種多様な妖怪変化の類の他に、諸外国で信仰されるはずの悪魔まで幅広く出現するらしい。

 

ヤタガラスの記録によれば、大正頃も大体同じようなノリで、日本なのにその辺にピクシーやらアルプやらジャックフロストやらがサラッと出てきていたらしい。

 

外国の文化を受け入れて同化するという独特の文化を持つ日本だからこそ、本来現れないはずの悪魔が現れるのかもしれない。

 

つまり何が言いたいのか。

 

「お兄ちゃん、ザントマン!」

 

「えーと、火炎と衝撃!火炎弾を喰らえ!」

 

「ちょっ待っ!火炎はやめ、ギイィヤアアアア!!!!」

 

デビルサマナー、結構難しいぞこの仕事!!!

 

 

 

そう、さっきも言ったが、日本は魔境。

 

日本の悪魔以外にも、海外の悪魔も出る。

 

だから、敵の弱点も強みもバラバラで、何をどうすればいいのか、対応について考える必要がある。

 

RPGゲームのように、「これさえやっときゃOK」みたいな、決まった攻略方法がないのだ。

 

日本では、異界によって出る悪魔が全く違う。

 

前情報がなければ即死も有り得る。比喩ではなく。

 

異界はちょこちょこその辺にできたり、デビルサマナーに消されたりする。だから、異界を調査する依頼をヤタガラスが出してくるんですね。

 

まあ、調査依頼はこれでもまだ即死率は低いのよ。

 

だって、最初から逃げるつもりで異界に入るんだから。

 

即死魔法持ちの悪魔が出れば一大事だし、異界に入ってちょっと見回りして、地理や、どんな悪魔が出るかを調査して帰るだけ。

 

これはしかも、出来高じゃなくって金額は一万円そこらの軽い定額の依頼であるからして、そんなに難しいことを要求されない。

 

一万円分の偵察をすれば帰ってヨシ!ってんだから楽な仕事だ。

 

まあ……、普通のデビルサマナーは割に合わないからやらないんだけどね……。

 

現れる悪魔五体と大まかな周辺地理のチェックリストを埋めて提出ってのがヤタガラスの偵察依頼なんだけど、やるとしたら戦闘の可能性ありの一日仕事だ。

 

DDSnetで一般的な回復アイテムである魔石が五十万円。

 

まあ……、うん……。

 

ヤタガラスは経営面が火の車らしいけど、もっと金出してくれなきゃ調査依頼は割に合わないんだよな……。

 

な、の、で。

 

俺は、うちの医療担当である魔神:ミアハと協力して、魔石と妖樹:マンドレイクをすり潰して作った『傷薬』と、魔石と牛黄を中心にした生薬を使って作った『牛黄丹』を、フロント企業のドラックストア『歯車堂』にて販売開始!

 

値段は数万円から十万円程の、出血大特価である。

 

魔石や宝玉と違って、傷の治るスピードは遅いのだが、数値にして100以上のHPを回復することを確認している。

 

はぁ?薬事法????

 

………………これは薬ではなく健康食品の類です。

 

このように格安回復アイテムを拵えた後は、初心者のデビルサマナーにヤタガラスの調査依頼をお試しに斡旋!

 

低レベルのデビルサマナーの研修用依頼として活用することに。

 

つまり……、今、初心者低レベルデビルサマナーに扮した俺とありすはこの新しい異界の調査をしているのだ。

 

「この辺はザントマン、オバリヲン、オンモラキ、ガキってところか」

 

カスだが、オンモラキでも一般人は普通に殺せる。

 

人修羅である俺からすればカスだが。

 

カス悪魔でも、カス以下である人間には脅威だ。

 

人間を見下す訳ではないが、頼むからもうちょっと頑張ってくれよとは思う。

 

特に日本人は危機意識が足りない。

 

身を守るためにライフルくらい持ち歩いて欲しいところだ。

 

「雑魚悪魔ばっかりだね。でも……、これでも、普通の人間からすれば怖い悪魔なんだね」

 

「ああ、そうだな」

 

まあ、さっきも言ったが、薄利多売の傷薬と牛黄丹のおかげで、回復手段を得たデビルサマナー達は経費を削減できて、色々な依頼にチャレンジできるという良い循環が始まっている。

 

因みに、傷薬は100gくらいの軟膏、牛黄丹は10粒入りの丸薬だ。

 

質感と見た目はそれぞれ、オロナイン軟膏と正露丸だな。

 

まあ、効能は段違いで、傷薬を傷口に塗ると、煙を出しながらゆっくりと体組織が再生して、牛黄丹は、飲めば肉体が活性化して一時的に再生し続けるんだよ。

 

副作用?ミアハは特にないって言ってる。医神ミアハが平気ってんなら平気なんだろう。正味な話、俺はコンピュータや機械いじりならその辺の悪魔にでも負けない自信はあるが、医学はからきしだ。

 

そもそも原材料が魔石な時点で俺は口を挟めない。一応、ミアハから教わって最低限の魔法の心得的なものは知ったが、ミアハの傷薬と牛黄丹は俺の見た限りでは問題ない。

 

実際に使っているデビルサマナーも、文句は言ってないみたいだしいいんじゃないかな?俺も今、かすり傷ができたから、傷薬を塗ってみる。

 

「お、治った」

 

じゅわ、と音と煙を出しながら、傷が塞がる。

 

特に副作用っぽいものはないな。

 

「それ、ミアハさんの傷薬?」

 

「おう、ありすは怪我してないか?」

 

「うん、私は後ろにいたし」

 

「そうか」

 

お?

 

「ん……」

 

ああ、そうか。

 

「ほら」

 

本当は、悪魔を粗方倒した異界とは言え、敵地であることには変わりない。

 

けどまあ、余裕があることは確かなんだし、求められれば手を握るくらいはしてやるさ。

 

「えへへ……」

 

「全く……、結婚してないのに娘がいるみたいだ」

 

「駄目」

 

は?

 

「パパは要らない。アマツおじさんは、私のお兄ちゃん」

 

「あー……、悪いな、そうだ。お兄ちゃん、だな」

 

そういや、真由子が言うには、真由子の旦那……、ありすの父親は相当なクズで、ありすにも頻繁に手を上げていたらしい。

 

事故で死んだらしいが……、まあ、思い出したくないんだろう。

 

他人の家の事情に突っ込んで傷口を抉る趣味はねえしな。

 

うちの女幹部共は、俺のことを兄貴とか恋人とか、そんな気分で接してくる。まあ、俺がそうなるように、定期的にコミュニケーションを取っているからなんだが。

 

女の愛情ってもんは不可解だが、女ってもんは愛情を持った相手は大切にする。それこそ、命をかけてでもな。

 

だから俺は、ここぞと言う時に俺のために命をかけてもらうため、女達に愛されるように仕組んだ。

 

多少は申し訳ない気持ちもあるが……、色恋沙汰で仕事を優先しなくなったら困るからな。

 

デイブとルーファスはその辺めちゃくちゃしっかりしていて、女遊びはしても本気にはならない。その辺りがドライなんだな。

 

透も割とドライだったが、一応口説く。

 

俺は以前、会社で、他人を見下してコミュニケーションを取らなかったことでクビになった。失敗したのだ。

 

同じ失敗はしない。

 

円満に組織を運営して、世界の均衡を保つ……。

 

これは、失敗できない。

 




メガテン、やはり世界を滅ぼした方が面白いなと思ったので、そのうち滅ぼします。

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