箱舟計画が成功して、万一の時の保険ができた。
これで心置きなく戦えるな。
さて……、早速だが、またもや問題発生だ。早速だが問題発生だってなんだよ意味不明だな。なんで早速だがってペースで問題が起きるんだ?どうしてかな?おかしいね!
……俺達が箱舟計画にかかりきりになっていた頃、ガイアーズに『悪魔人間』の作り方が一般公開されてしまっていたのだ。
そう、もちろん、ルシファーの仕業である。
流石に、俺のような人修羅レベルの完成度はないが、まあそこそこに強い悪魔人間が作られているそうだ。
レベルは、1で一般人、10もあれば一人前、20で一流、30で組織の幹部並、40で組織のトップ並……、と言ったところ。そんな中、悪魔人間の平均レベルは驚きの25だ。
DDSnet職員の平均レベルが20くらいなので、それを超えている。
もちろん、悪魔人間になれば、力を得る代わりに定期的に人間を殺してMAGを得る必要があり、そして当然、人間もやめることになる。
だが、過激派ガイアーズにとって、それはデメリットたりえないそうだ。
過激派ガイアーズとなると、人間をやめることに忌避感がないのだ。
例えば、ガイアーズの阿修羅会。阿修羅会は、ヤクザ組織のくせに、ガイアーズの中では穏健派だ。
ヤクザってのは社会に寄生して生きるものであるからして、社会規範や秩序を大きく壊しては商売にならない。
そんな阿修羅会からすれば、悪魔人間になってしまっては人間社会で生きられなくなりマイナスだ。
だが……、過激派ガイアーズ組織。
ガイアーズ故にまとまりはなく、少数の組織なんだろうが、それが少数精鋭と化す。
それは非常に困る。
過激派ガイアーズってのは、本当に何をしてくるか分からない。
「社会規範を壊したい」「とにかく人を殺したい」「女を犯したい」「強い奴と戦いたい」……と言った行動原理で動く故、何をしてくるか分からないのだ。
極論を言えば、いきなり街中で刀を振り回して銃を乱射するくらいはやってくるということ。
実際、ネットなどで見る集団自殺サークルや、集まって女性をレイプしよう!などと言っている連中の半分くらいは過激派ガイアーズの息がかかっているそうだ。
良いか、問題なのは、レベル10そこそこの人間が街中で銃乱射したところで、機動隊に囲まれれば制圧されるのだが、レベル20を超える悪魔人間が街中で暴れ始めたら、機動隊ですら対処できないってことだ。
対処するには、アサルトライフルや重火器を装備した自衛隊なんかを出す必要があるが、それをやるのか?街中で自衛隊がアサルトライフルをぶっ放してOKだと思うか?って話だ。
まとめると、『普通の人間じゃ止められないくらい強い悪魔人間が、街中でいきなり暴れ出すかもしれない』ということだ。
……うん、まあ。
「クソヤベーじゃん」
『そうでございますな』
「えっ、どうすんのこれ」
『どうしましょうか』
「あーーー!!!!クソクソクソクソクソクソ!!!!マジで死んでくれあのクソ豚野郎!!!!マジのマジで抹殺してえ!!!!」
ひとしきり暴れてストレスを発散した俺は、行動を開始した。
俺は、『顔無し』に変装して、ヤタガラスの本部に乗り込んだ。
あ、もちろん、アポは取ってあるぞ。ライドウ経由でな。
「スイマセェェェン!ジャマはしないですけどオジャマしますぅ!どうもっ!ワテクシはDDSnetの営業部長の『顔無し』ですっ!」
「ふむ……、よくいらっしゃった、顔無し殿。私は、土御門幸綱です」
そう言って手を差し出してきた男は、五十代、白髪まじりの黒髪をした、醤油顔のいかにもな日本人男性だった。
賢そうな顔をしていて、意志の強そうな瞳をこちらに向けてくる。その視線には、隠されてはいるが、こちらを探るような色も確かにある。
「ハイッ!友好のあーくーしゅー!ですねっ!地球のみんなが手と手を繋げば平和な世界!ってやつですね!」
そう言って俺は、被っている麻袋から周囲を見回した。
土御門の隣に、なんとも言えない顔をしたライドウがいる。
ライドウだけで護衛は充分と見ているようだ。
俺がその気になれば、土御門だけを殺して逃げることくらいはできるから無意味だが。まあ、ライドウには勝てないが。
もちろん、そんなつもりはないがね。
「いやーいやーいやー!コワーイライドウすゎんの前でおふざけをしたら、首と胴体がサヨナラバイバイ?!それは怖いので、おふざけ抜きで、単刀直入一直線でヨロシイですかっ?!!!」
「ええ、そうですね」
「実はっ!最近巷で、『悪魔人間』なる存在が現れているのは……、ご存知ですかねっ?!」
「はい、知っていますよ」
「おォー!さっすがはヤタガラス様っ!話が早くて大変ケッコーコケコッコ〜!我々、DDSnetは、悪魔人間を大変にアブナイっ!と思っているのです!」
「こちらもそう思いますね」
「おおッ!両想いですね!ラブが芽生えるッ!!!とまあ、それで、我々DDSnetは、ヤタガラス様と、ひいてはこの日本という国家と手を組んで、この悪魔人間騒ぎに対処していきたいと思っているのです!!!」
「ふむ……」
考え込む様子を見せる土御門。
「まず……、正直に言わせてもらうが、DDSnetは信用できないんだよ」
「オオオッ!悲しいっ!何故ですかっ!」
「まあ、君のふざけた態度は良いとしよう。しかし、世界秩序の維持を謳う割に、世界中に『悪魔召喚プログラム』を配布しているじゃないか」
ん?ああ、それはな……。
「誤解がありますねっ!悪魔召喚プログラムの出所は我々ではありませぇぇぇん!!!」
「証拠は?」
「やっていないことの証明は、悪魔の証明ってやつですヨ!!ですが仮に我々が悪魔召喚プログラムを配布するとしたら、警察官、自衛隊などに優先配布するでしょうネッ!!!」
「……まあ、良いよ。で、それをやってそっちになんのメリットが?」
「弱酸性メリット!メリットはそうですねェ、仕事が減ることですかねェ!DDSnetの職務はあくまでも、デビルサマナー業界の支援ッ!!!それが今では、悪魔人間を退治する仕事ばかりっ!!!こんなんじゃ、ワテクシ、地球を守りたくなくなっちまうデスよ……っ!!!」
「なるほど、本来の仕事である、デビルサマナー業界の支援という業務の邪魔だから排除したい、と。それは理解できるな。だが、何故我々に手を貸すんだね?」
何でって、そりゃあ決まってんだろ。
「では、逆に聞きますが、ヤクザ屋さんやマフィア屋さんのいるガイアーズや、そもそも外国の勢力であり、力をつけると何をするか分からないメシアンを手助けした方がいいと思いますか?アナタ?」
「……道理だな。消去法でうちってことか」
「それだけじゃなくっ!イザ!という時のために、日本国の公的な団体……、ケーサツやジエイタイに力をつけて欲しいんですねっ!」
「いざという時、とは?」
「世界の滅亡ですね」
俺はきっぱりと言った。
「正直な話、悪魔召喚プログラムを拡散しているSTEVEN氏にも、我々は反対していません。世界の滅亡を防ぐことが組織の第一目標です。その為であれば、多少の犠牲は許容しますし、世界の滅亡が避けられなくなれば、ノアの箱舟のように、人間を集めて『保存』する計画もあります」
この辺は真面目な口調ではっきりと伝えておきたい。
このふざけた顔無しでも、ここだけは本気になる部分なのだと言外に伝えるのだ。
「む……」
「確かに、悪魔召喚プログラムの無差別配布による悪魔犯罪の増加については我々も憂慮しておりますが、それ以上に、一般市民がデビルサマナーと化して自衛の力を得る方が重要であるとすら考えています。しかしそれは時期早々であるとも理解しておりますので、こちらとしては最低限、警察官や自衛隊員のデビルサマナー化をしたいと考えております」
「ふむ……」
「異能者や悪魔の犯罪に対して対抗できるのもまた、異能者やデビルサマナーのみ。国防組織を強化するのは急務でしょう。違いますか?」
「……そちらの言い分は分かった。議題に挙げてみよう」
「デハデハ!本日はこれでオイトマンしますねっ!!!バイバイバーイ!でございますよー!!!」
こんなものか……。
さて、どうなるか……。
顔無しは、基本的に、DDSnetの窓口ですが、大事な会談などには幹部を向かわせます。
今回は軽い話し合い程度のものだったので、顔無しが行きました。
まあ、そもそも、DDSnetは武闘派デビルサマナー組織なので、交渉などができるのは元社会人の顔無し=天津しかいないってだけの話なんですが……。
天津の企業は割とブラックだったので、天津はSE以外にも営業の真似事をやったりしていました。