ルシファー!あのクソ野郎!生かしておけん!必ず滅ぼす!キエエエエエエッ!!!
……ふう。
激しい怒りはグッと飲み込む。
辛いことがあった日は、美味い飯を食って、ゆっくり湯船に浸かって、良い女を抱いてからぐっすり寝る。
そうすると、明日には怒りも鎮まり、冷静に考えられるようになっている。
あ、駄目だ、そんなこと全然ねぇや。あいつぶっ殺してえ!
ふーっ、落ち着け……。
よし。
「こうなったら仕方ない。とりあえず、箱舟を強化だ」
俺は、我々DDSnetが管理する異世界、『箱舟』を強化する……。
箱舟。
世界が滅びそうな時に、無作為に抽出した人類を逃げ込ませて、滅ぶ世界と隔離し、人類種を存亡させるための異世界。
広さ的には北海道ほど、数多の悪魔を設置して、多彩な自然環境を作ってある。
ここには、何らかの理由で表社会に住めなくなった人……、いや、犯罪者とかではなく、悪魔被害者だな。それと、DDSnetの職員の家族なんかを収容している。
だが、こんなんじゃ足りない。
あのクソゴミボケカスが、悪魔召喚プログラムをインターネット上にばら撒くとかいうクソムーブメントしなさったせいで、ここに入居せざるを得なくなる人はかなり多くなるはずだ。
世界が滅ぶ確率も上がった訳だしな。
こうなれば、キャパを増やすほかない。
うう……、マグネタイトが……。
いかに、次元の狭間からマグネタイトを吸い取るシステムを持っていようと、枯渇してしまう……。
この、マグネタイトを吸い上げる装置もなあ……。
次元の狭間から吸い上げたマグネタイトは、濁りが多過ぎて、そのままじゃ使えないからフィルターに通さなきゃならんのだ。
その手間があるから、マグネタイトは実質無限!とはいかないんだよなぁ。
そんなこんなで、貯蓄しておいたマグネタイトを大量に使って、『箱舟』の広さを三倍に広げる。
そして、それだけじゃなく、色々と手を加える……。
「召喚……、『地母神:イズン』『地母神:デメテル』『地母神:セイオウボ』『地母神:オオゲツヒメ』『地母神:アスタルト』」
え?こんなに地母神を召喚してどうするのか、だって?
食料を増産させるんだよ!!!
それだけじゃなく、多数の神を召喚し放流することにより、質を格上げ。
例えば、『鍛治神:ヘパイトス』とかな。
まあ、生産のための側面を強く出して召喚したから、戦闘能力は低めだな。
はい、では、幹部を集めて、と。
「ようお前ら。美味い林檎が届いたんだが、食うか?」
「……何を言ってる?この忙しい時に?」
ルーファスが怪訝な目をした。
全員、困惑しているようだ。
「いや、簡単な話だ。お前らが死ぬと非常に困るってことだな」
俺は、籠いっぱいの林檎を机の上に出す。
ただし、林檎の色は赤ではなく……、金色だ。
「はあっ?!こ、これって……!!」
透が愕然とする。
「わあ……!金色の林檎ですか、御伽噺みたいですね」
と真由子。
「真由子さん……、知らないんですか?」
と透。
「はい?」
「黄金の林檎は、あらゆる神話における、『不滅』の象徴……。つまり、食べたら不老不死になるんですよ」
「え?えええっ?!ふ、不老不死ですか?!!」
驚く真由子。
いやあ、さっき、地母神:イズンを召喚したじゃないっすか?
イズンって、黄金の林檎の果樹園の管理人なんすよ。
「そう言う訳だ。悪いが、食ってもらうぞ」
俺は、全員の目の前で黄金の林檎を思い切り齧った。
「はぁ……、退職金はなし。リタイア後のライフプランも吹っ飛んだ、か」
そう言って、林檎を齧るルーファス。
それを皮切りに、全員が林檎を齧った。
全員、なんだかんだ言って組織への忠誠心は高いからな……。
「悪いが、存在が滅ぶまで付き合ってもらうぞ。……とは言え、ライドウ辺りなら『不死貫通』して存在を消滅させられるだろうから、こんなもん気休めだがな!!!」
さて、異世界『箱舟』の強化、幹部の不老不死化と最低限の仕事を済ませた俺。
次は、表の仕事をすることにした。
えー……。
うん。
今、世界中でこんな感じになっている。
馬鹿1「悪魔召喚プログラムwww厨二乙www」
馬鹿2「DLしたったwww」
馬鹿1「画像うp」
馬鹿2「ヤベ、マジモンじゃんwww可愛い悪魔を召喚するわwww」
馬鹿1「ファーwww」
馬鹿2「(召喚した悪魔に襲われて即死)」
馬鹿1「うわあああ!!!け、警察!警察を呼べ!!!」
悪魔「ヒーーーホーーー!!!」
まあ、うん。
遊び半分で悪魔を召喚したアホが悪魔に襲われて大パニックだね!
「はぁ……、これだけはやりたくなかったんだけどな……。コロンゾン!やるぞ!」
『了解致しました、旦那様』
「『状況開始』」
コロンゾンのプログラムが走る。
電脳世界に存在する『電霊』たるコロンゾンは、インターネット……、『電子世界』においては、ほぼ全能の神に等しい。
『電子世界』と言う異世界の主神なのだ。
コロンゾンは、分霊を数百数千万体創り出す。
普通の悪魔がそんなことをすれば、マグネタイトが枯渇して存在消滅は免れない。
だがしかし、コロンゾンは、マグネタイトをほぼ使わない電霊だ。
マグネタイトって言うのは、言ってしまえば存在の力で、このマグネタイトにより、悪魔は仮初の肉体を得て現界する。コロンゾンは、この仮初の肉体を、プログラムで代替可能なのだ。
故に、電子世界におけるコロンゾンは、ほぼ無限に増殖できる。
頭数を増やしたコロンゾンは、分霊を各地に散らせて、悪魔召喚プログラムを最近ダウンロードし、現在悪魔を暴走させている人間の端末に潜り込み、プログラムを破壊した。
すると……。
「ヒーーーホーーー!ホ?ホ、ホ……、ああああああああ」
召喚された悪魔達は、プログラムを破壊され、存在が崩壊。
何の能力もない、Lv1の外道:スライムになった。
あとは、適切に通報を繰り返して、現地警察にスライムを確保してもらう。
今回の、悪魔召喚プログラム流出事件による被害は、日本国内で五千人近くの死傷者を出した。
世界では、十八万人の死傷者が出たそうだ。
それだけじゃなく、悪魔召喚プログラムの流出という最悪の事象が発生した。
コロンゾンがいかに凄いプログラムであれ、オフラインの機器やハッカーに隠されたプログラムはどうにもならない。いや、俺とコロンゾンが力を合わせてハッキングすればいけるとは思うが、こちらの頭数が足りない。
まあ、とにかく、とりあえず今流出しているプログラムは全て差し押さえた。だがそれでも、一度流出した以上、誰かがコピーして手元に持っていたりはするだろう。
それに、ガイアーズのルシファーの信奉者共が、積極的に悪魔召喚プログラムを流出させているみたいで、消去しても消去してもいたちごっこってやつだ。
……そして、何よりもヤバいのは、『一般社会に悪魔の存在が露見した』ことだよ!!!
一般社会に悪魔の存在が露見すると何が不味いのか?
……一からか?一から説明しないと駄目か?
常識的に考えて分かると思うが、この世界は、思ったほど善人が多くないってことだな。
日本人は、銃刀法云々を抜きにしても、事なかれ主義な気質であるからして、大事には至りにくいのかもしれない。
だが、世界を見ろ。
悪魔……、銃器がなくとも人を傷つけられる存在。
それらを、狂人やテロリスト、犯罪者が認知したってことだ。
するとどうなる?
ネット上では既に、悪魔召喚プログラムの受け渡しや売買が始まっているぞ?
まあ、大半は詐欺だが、中には本物もある。
そんな本物を手に取った奴が犯罪者ならどうする?
変態レイプ魔がインキュバスを呼び出したら?その辺のレベル0の一般人に『マリンカリン(魅了魔法)』を使ってレイプするよな?
放火魔がジャックランタンを呼び出したら?『アギ(火炎魔法)』なら証拠は一切残らないぞ?
殺人鬼がピアレイを呼び出したら?人口密集地で『毒ガスブレス』なんて吐かれたらどうなる?
考えなくても分かるよな?
それだけじゃない、そうやって馬鹿共がこの世界でポンポン悪魔を召喚すると、ゲートパワーが高まるってこともまたヤバい。
ゲートパワーが高まれば、現世と魔界との境界線が曖昧になり、異界がたくさん生まれて、より強い悪魔が現界するようになるのだ。
そうなれば、最も避けるべき事象である、世界終焉が近づいてしまう……。
それだけは……、それだけは、なんとしても避けなければならない……!
えぉなのモバイル版、やってる人いますか?