村人にもタイプがある。
バニラでは、宝石の代わりに商品を取引できる『商人』と、パンを渡せば家畜を自動で増やしてくれる『羊飼い』、モンスター肉を持ってきてくれる『狩人』、畑仕事を代行してくれる『農民』、そして、建物の周りを巡回してモンスターを倒してくれる『剣士』がいた。
まず、無職の大人の村人がいて、それに、職業に応じた道具を渡せば、プレイヤーの仕事を代行してくれるようになっている。
最近のアプデで『炭鉱夫』と『僧侶』、そして『パン屋』、『漁師』、『吟遊詩人』などが追加されている。
その他にも、MODで追加される『錬金術師』、『竜騎士』、『剣聖』、『魔法使い』、『賢者』、『忍者』、『侍』、『銃士』、『魔法剣士』、『聖騎士』……などがある。
は?ああ、プレイヤーはクラフターだからその辺の職業に縛られることはないな。
プレイヤーはなんでもできる。魔導書によるスキル習得などで器用万能になれるタイプだ。
だが、バニラのプレイヤーは、開拓能力に全振りしてるので、戦闘や魔法はダメダメだ。敵対モンスターが強力になったMOD環境下では、初期ステータスのプレイヤーは弱い。
早く強化せねば、村人に寝首をかかれるかもしれない。
この世界はゲームと似ているが、ゲームそのものじゃないんだろう。
村人の急な裏切り!とかもあり得るな。
俺がリスポーンするかもしれんが、試そうとは思わない。
死んだら終わりだ。
死にたくはない。
自分が死ぬくらいなら他人を殺す。
村人は薄汚い……、いや、はっきりと汚いガキが六人と大人の男女が二人ずつ。二組の家族らしい。
子供三人?多くない?
……獣人は子供が多いらしい。
「まあ、戦争とやらで人口が減って口減らしになったんじゃね?良かったね!」
「「「「………………」」」」
オッ、睨んできた。
「ところで、マジで獣臭いからどうにかしてもらえる?」
「えっと……、じゃあ、川で水浴びを……」
ケイトが言った。
「申し訳ないが水質汚染はNG」
「はい?」
とは言っても仕方ない。今はまだ、浄水装置なんてもんは作れないからな。
「……しょうがねえな、風呂を作るか」
ワールドクリエイターの工業MODこと『デウスエクスマキナ』では、水質汚染度という数値があり、下水や工業廃水を川や海に流すと、水が汚れて飲めなくなる。その上、汚染水に突っ込むと確率で病気になる。水俣病とかになったら目も当てられない。
まあ、今回は急ぎだし、そもそも血やクソくらいならまあまあ平気だろう。化学物質やら水銀やらならやばいんだろうが。下水道作って川に流すしかねえな。
「よし、簡易風呂を作った。今日のところはこれで身体を洗え」
石鹸とタオルを渡して、身体を洗わせる。
マジで臭いからな……。
獣特有の、生臭くて香ばしいような臭いが……。
《りんご石鹸》を渡すと、非常に喜ばれた。
亜人は風呂にはよく入るし、上下水道もあったが、石鹸は貴重で、普段はオリーブオイルをつけているらしい。
……ローマ?
シャワー浴びて身体をよく洗ってから湯船に入れと伝えておく。
「え?まず湯船に浸かってから、オイルを塗るのでは?」
申し訳なさそうな面をした獣人の男が……、ああ、獣人と言っても、顔の作りは、軽く突き出した鼻……、いわゆるマズルのような口元と、全身の毛から表情は分かりづらいのだが、顔のパーツの配置や動きは大体人間と同じなので、表情は読み取れる。
俺個人の感想だが女の獣人はまあ、抱けるレベルだ。
まあ、とにかく、申し訳なさそうな面をした獣人の男……、多分カラカル?ってのかな?なんかよくわからんサバンナな感じのネコ科の獣人の男が、おずおずと話しかけてきた。
「湯が汚れるだろォン?」
こいつらの文化はどうやら、古代ローマや、古代ギリシアのヘレニズム時代頃のような文明らしいな。
だが、基本的には、一般市民はサウナ風呂が基本のようだ。
富裕層向けに大型の公衆浴場があり、その中でレスリングや球技をやって一汗かいた後に風呂に入る感じらしい。だからお前ら実はローマ人だろ?!
「というより、ボイラーもないのに何故風呂が……?」
「風呂MODだ」
「はあ?謎ですね……。ですが、風呂に入れるとはありがたいことです。帝国の侵略者達は、我々の立派な公衆浴場を、疫病の発生源だと言って徹底的に破壊して、下水も使わずに窓から汚物を投げ捨てるような奴らでして……」
「あーあー、いいよそういう話は。なんか知らんけど別の国に侵略されてんだろ?知ってるから喋らなくていい」
なんか知らんがスペインみたいな国家に攻められて、奴隷にされたりなんだりしているらしい。
じゃあここはアメリカなのか……?
それとも南米……?
地理関係は、地図の略図を教えてもらったが、このコの字の大陸に、亜人の連合国家であるエルダウン連合王国が存在していた。
まあ、数年前に、スペインが如き人間の帝国の侵略者達により、主要都市の殆どを落とされて、亜人は捕まって奴隷にされて、エルダウンは滅んだのだが。
敵はここから北にある大陸の南にあるカストラ帝国。
世界に覇を唱える(笑)為、皇帝の威光(笑)と法の加護(笑)を全世界にもたらし、唯一神イジャヤの教え(笑)を世界に広めることが目的らしい。
この世界における準列強国ってやつらしいな。
まあ、クソみたいな国であることは確かだ。
目下の課題は、このカストラに目をつけられないように、森に隠れつつ力を蓄えることだな。
さて、汚い獣共がクリンナップされた。
服も、新しいものを木綿で作って配っておいた。
と言っても、簡単な《ズボン》と《半袖シャツ》、それと《下着》と《サンダル》だけなんだけどな。女には《ワンピース》を渡してある。
適当なガキを捕まえて匂いを嗅いでみる。
……うん、臭くない!
「あう、ジーク様?臭いですか?」
オスのカラカルっぽい短髪のガキ……、さっきのカラカル男の息子らしい。そいつの髪の匂いを嗅いだ。
匂いはあまり気にならなかった。
動物はちゃんと洗わなきゃ駄目だな、やっぱり。
「何でもない。ほら、《チョコチップクッキー》をやるよ。ガキ共で仲良く食べろよ」
「くんくん、甘いお菓子ですか?!ありがとうございます!嬉しいです!」
ほお、見たところ十歳くらいか?その割に礼儀がなっているな。
「みんなー!ジーク様がお菓子をくれたよー!食べよう!」
「「「「わーい!」」」」
さて……。
チョコ食って倒れないか観察してみるか。
治験治験。
もしも倒れたら、さっき作った《アンチドーデポーション》使うから平気だろ。
それでも駄目なら?
そんときゃ知らんわ。
「美味しい!」
「あまーい!」
「サクサクだー!」
そのあと、五分ほど観察したが、倒れたりはしないようだ。
ふむ、カカオじゃ死なないのかな?
次はネギとか、イカとか食わせてみるか。
ヒロインちゃんは主人公を神だと思い込んで、助けてもらえると信じ込んでいるアホなだけで悪意は一切ないんです!ただアホなだけで!
……でも、インターネットどころか古代ローマ並の文明しかなかった世界の王族ですよ?!多少アホなのはスルーしてあげてください!
尚、これからもっとアホが増えます!