異世界生活、三十日目。
しっかり記録しておかないとな。
この日記は貴重な資料だ。
基礎魔導書を日記がわりにする男はそうそういないだろうが。
さて……、それでどうするか?
亜人に物資を提供して戦わせて、北にある大陸にあるカストラ帝国本国を根伐りにする。
これが当面の目標だ。
そして、直近の目標は、国力の回復。
エルダウンなどという滅んだ連合王朝の復興は考えていない。
むしろ、これを機に、権力を一本化すりゃいいと思っている。
連合王国なんてアホなことやってるから駄目なんだよ。
イギリスだってグレートブリテン連合王国だけど、議会は一つだろ。
船頭多くして船山に登ると言うだろ?
大して広い国土でもない癖に、連合王国なんて不安定な状況じゃ、そりゃ滅ぶわ。
確かに、連合王国でも誰も文句を言わない温和さというのは素晴らしいのかもしれないが、闘争心のなさは民族として欠陥かもな。
優しいってのは必ずしも良いことじゃないんだよ。
ケイトとソニアの話を聞いた限りでは、連合王国特有の意思決定の遅さと、無駄な温厚さでエルダウンは滅んだ……、と俺は見ている。
やっぱり、亜人は滅ぶべくして滅んだんだな……。
「ダ、ダーリンっ!」
「ん?ソニアか」
「そっ、それは……、魔導書ではないか……?」
「いやこれ日記」
「まっ?!!魔導書を日記にしているのかっ?!いや、そもそも、エルフの秘伝である魔導書の作成を何故……、って、やはり本当に大神ゼロなのかっ?!!!」
「はいはい」
さて、頭に回るべき栄養が乳に行った哀れなエロエルフを小突いて、あとは街の視察か。
俺の仕事?
金属の精製待ちで今やることないんだよね。
オリハルコンとか精製に一週間もかかる。早急に炉のアップグレードが望まれる。
魔法合金とかこれから使うし、それを考えると各施設のアップグレードを急がないと後々面倒なことになるんだよなあ。
俺は夏休みの宿題は初日に全部終わらせるタイプだ。戦争は始まる前の準備段階で勝敗が決まると思っている。
今は色々と余裕がある。時間がある。
今のうちにやるべきことをやっておこう。
俺は鎧を着込んで剣を帯刀して魔法の杖を腰に差して移動。
いざとなったら盾にするようにバカ犬のケイトとエロエルフのソニアを連れて拠点内を見て回ることに。
「ここって何人くらいいるんだ?」
「三十万人くらいだよ」
ケイトが答えた。
ケイトはバカだが、仕事が出来ない訳じゃない。統治者としての仕事はこなしている。
王族としての実務的な統治の勉強に励んでいたが故に、経済や流通、外交やマナー、教養……、その辺りに詳しい。
ソニアは、エロいことばかり考えているアホに見えるが、年齢は五百歳で、五百年間蓄えた知恵と知識は本物だ。
単なるハーレム要員ではないようだ。
ただ、こいつらは根本的な部分が古代人で、その辺りが俺の感覚とズレているんだ。
さて、この街は、俺が昔行った五稜郭のふわっとした記憶を再現した要塞と、海の近くの城下街とでできている。
その上、サンマルコス砦の様に城壁も作ったから最早よく分からんオリジナルの何かになっている。
「ステラ要塞は、危なくなった時の避難地にしてます」
亜人達はこの巨大な星形要塞をステラ要塞と呼び、要塞の周りをハーピィが飛んで警戒している。
「夜間はどうしてんだこれ?」
「ハーピィの仲間に、ナイトオウルって言う夜目が利く種族がいるんです」
なるほどな。
この世界観で空を飛べるのはかなり大きなアドバンテージだ。
周辺の警戒をやってくれるとかマジで大助かりだな……。
機械兵や魔導オートマトンを並べれば全ての村人は陳腐化するんだが、それまでの長い間、こいつらの世話になりそうだ。
城下街はそれなりに賑わっている。
木材は既にほぼ無限に供給できるので、亜人にくれてやっているが、その木材で亜人は、小屋を作ったり、薪にしたり、船を作ったりしている。
船は、俺が作った湖や、近くの海や川で漁船として運用されているらしい。
「と言うより、ジーク様の作った湖に何故か成体のクラーケンが出たそうなんですけど……」
「ああ、そうか、クラーケンがポップしたんだな」
一応、要塞内は常に明るくしてあり、モンスターが湧かないようにしてあるのだが……。
クラーケンはモンスターってか食用の動物に近いのかもな。
「何で湖に成体のクラーケンが出るのだ……?」
ソニアが引いている。
「それと、家畜もたくさん飼っています」
「うむ、牛が馬鹿みたいにたくさんいるから、若い牛の肉が定期的に食えるぞ」
「えっ、エルフって肉食うの?」
「は?食うが……?」
ああ、そう言う感じなのね。
エルフって草食かなって勝手に思ってたけど、肉も食うんだ。
亜人って結局、雑食なんだな。
ん……?
「はい、これは木券一枚ね」
「おう、これで」
「はいどうも」
今、串焼きを売っている男に、買い手の男が、木製の板を渡していたが……?
「ああ、あれは木券ですよ。お金の代わりです」
ほう……。
「私が考えたんですけど、やっぱり経済を回さないといつまでたっても亜人は独立できませんから!新しい国を作るためには必要なことです!……ジーク様は、いつか天界に帰ってしまいますから」
ケイトが言った。
ああ、やはり、亜人は馬鹿だが仕事はできる。
俺は元営業部で経済は分からんが、経済活動の大切さは、現代日本人として知っている。
こんな状況でもとりあえず経済活動を始めようと考えるとは、仕事はできてるな……。
だが。
「偽装されないのか?」
「その点は大丈夫だ。アレは我々エルフの秘伝の魔導墨でマーキングしてあるからな!」
とソニアが言った。
ほうほう、お札の透かし技術みたいな?
「魔導墨は特殊な薬品以外ではインクが落ちないのだ!だから、木券を水につければ本物かどうかわかる!」
なるほどな……。
そして、最後に。
「ここは……、負傷者を寝せておく医院です」
先の戦で負傷した兵士達が倒れ込んでいる。
「傷病人か。死んだらしっかり燃やせよ」
「そ、そんなこと言わないでください……」
「いや、これは意地悪で言ってるんじゃない。病気の人間の死体からは病気が広まるんだよ」
俺が言った。
「ふむ……、エルフの間でも、疫病が流行した土地は焼き払えと言い伝えられている」
ソニア達、エルフも、病原菌を熱で焼き払うことを経験則として知っていた。
「じゃあここも燃やそうぜ。足手まといの傷病人なんて生かしといても得ねえだろ」
「し、しかしそれは……!ち、治療をすれば!」
「じゃあしろよ」
「そ、それは、その……」
んー?
お?
何だ?
「お初にお目にかかります……、ってやつかな?僕はクララ、太陽神グレンの末裔だよ」
ふむ……?
片腕を斬り落とされた孔雀色の羽根のハーピィ。
「君が、僕らの神様かい?」
羽と同じく、孔雀色の短い髪を揺らしながら尋ねてくるクララ。
「そうらしいな」
俺が適当に返す。
「それにしては、傷病人を殺せだなんて、酷いことを言うんだね」
「邪魔だからな。労働力にならない村人は要らない」
「……でもさ、傷病人の安全が保障されないなら、命をかけて戦う人なんていなくなるよ。誰もが、怪我や病気になる恐れがあるんだから」
「なら聞くが、今まではどうしていたんだ?そして、この状況でどうすればいいと思う?最後に……、そこまで俺に迷惑をかけて、何様のつもりなんだ?」
中性的で整った綺麗な顔を歪ませるクララ。
「それは……、ごめんなさい。でも、僕達にはもう後がないんだ。それこそ、神様に縋らなくちゃならないくらいに」
言葉を続けるクララ。
「……普段なら、僕くらいに身体が欠けたら、スラム行きだよ。でも、多少の傷や病気ならポーションで治るんだ。だけど今は薬草が足りなくて」
ほーん。
「伝説の《世界樹の葉》さえあれば……」
ほーん?
「え?世界樹の葉で良いの?」
「うん……、でも、世界樹は、一千年前の大火災で焼け落ちたから、この大陸にはもう……」
「世界樹の葉って言えば……、伝説級再生ポーションか?アレで治るんだな?」
「え、あ、うん……」
なーんだ。
世界樹で良いなら……。
俺は外に出て、懐から《世界樹の種》を取り出す。
「はい骨粉だばー」
「………………???!?!?!!!」
はい、世界樹でーきた、っと。
グラが軽めで重厚さがないっすね。
最近のリアルロボット系の軽快な挙動。
そしてハクスラ要素がダルい。
まあ、結構面白いんじゃないですか?