ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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ちんちん。


蝿の王と九尾の狐

またもや心が折れたベアトリクスだが、周りの魔物娘に励まされて復活した。

 

折れるのも早いが立ち直るのも早いのがベアトリクスの良いところだ。

 

「うう……、パパ、ママ、見ててぇ!私は絶対に負けないわぁ!絶対に暁人を私の旦那様にするわぁ!!!」

 

 

 

「と言う訳で遊びに来て?」

 

「良いだろう」

 

どう言う訳かは不明だが魔物娘城に案内される暁人。

 

暁人がベアトリクスと魔物娘城を視察している間……。

 

 

 

「藤太郎やい、藤太郎やい」

 

『何ですか?』

 

神殺しの退魔師、安倍藤太郎と、九尾の妖狐、佳代のカップル(?)はと言うと……。

 

「藤太郎が好きなものってなんじゃろか?」

 

『日本です。国を愛せと習いました』

 

「えっ、えっと、そうではなく!好きな食べ物とかは?!」

 

『海の魚ですね。僕が修行していた修練場は山奥にあり、海の魚はあまり食べたことがないのです』

 

「そうか、海の魚か!分かった、調べておくぞ!」

 

手元のメモ帳に熱心に書き込む佳代。

 

「それじゃあ、嫌いな食べ物は?」

 

『特にありません。蛆の湧いた人間の死体も訓練の一環として食べました。屍肉を喰らい夜に眠らず、肉体が滅んだとしても戦い続ける防人であれと望まれました。それがハルアキラです』

 

「ひっ、人を、食べた、のか?」

 

『僕だけでなく、魔人ならば大抵は人間の味くらい知ってますよ』

 

「ひ、ひぃい……」

 

基本的に魔人は人間を辞めているので、食人や近親相姦などの異常経験を積んでいる。草も生えない。

 

「じゃ、じゃあ、好きなおなごのタイプはどうじゃ?」

 

『優秀な胎盤を持つことですかね』

 

「そうではなく!顔が可愛いとか!おっぱいが大きいとか!」

 

『僕にヒトの美醜は分かりません。ヒトも、神も、肉の詰まった皮袋に過ぎませんから』

 

「なっ……?!なんで、そんな、悲しいことを言うんじゃ!」

 

『悲しいとは』

 

「悲しいじゃろうがぁ!恋を知らず、色を知らずに育つなどと!!!」

 

『それで、護国に支障がありますか』

 

「護国などと!お主の意思はどうなんじゃ!」

 

『ハルアキラに個人の意思など不要です』

 

にべもない。

 

佳代は泣いた。

 

声をあげて泣いた。

 

魔人ベルゼブブの名の通り、虫のような瞳をする想い人を見て泣かない女はいないのだ。少なくとも、魔物娘ならば。

 

「……お主がそうまでして守る、ハルアキラとは何なんじゃ?」

 

ぽつりと、呟くように問いかける佳代。

 

それに対して、藤太郎は答える。

 

『八百万の神という言葉はご存知か』

 

「……ああ、この国には八百万の神がいるんじゃろ?」

 

『その通りです。基督教の宣教者が現れ、現代に入って他国の神々の情報が日本にも入り、あらゆる神々が八百万の神として定着しました。それこそ、欧羅巴の大神ぜうすから、悪魔王じゅすへるまで、多くの神々が』

 

藤太郎は答えを続ける。

 

『つまり、この日本は、霊的に不安定な状況にあるのです。隙を見せれば、南蛮の神々に征服されるやもしれません。つまり、誰か、霊的に国を守るものが必要なのです』

 

「………………」

 

『その中でも、ハルアキラは、三貴子と呼ばれる三つの国防機関、アマテラス、ツクヨミ、スサノオのうち、最も直接的な戦闘力を持つスサノオ機関に属する陰陽師です』

 

アマテラスは監視を、ツクヨミは記録を、そしてスサノオは破壊を司る。

 

藤太郎は、続けて筆を走らせる。

 

『そして、ハルアキラとは、ドウマン、カワヒト、ホウゲンなどの数ある名家よりも抜きん出た、最強の陰陽師の称号です』

 

ドウマン、カワヒト、ホウゲンも、もちろん強大で歴史のある陰陽師、退魔師である。ハルアキラ以外にも神殺しを成した退魔師は多い。

 

しかし、ハルアキラほど強い退魔師はいない。

 

「最強の陰陽師……」

 

『ハルアキラの名の誇りにかけて、僕はこの日本を守らなければならない』

 

「なんじゃ、それ……。お主は、それで幸せなのか?」

 

『無辜の民の日常を守り、陛下を、国を守ること。それこそが僕の幸せです』

 

「違う……!お主自身の幸せはどうした!」

 

『ハルアキラとは、言わば機械の部品です。機械が幸せを望みますか』

 

佳代は、思い切り藤太郎を抱きしめた。

 

耐えきれなかった。

 

人間を愛する魔物娘として、というのももちろんあるが、心から愛する男が、自ら全ての、人としての幸せを放棄する言葉を吐いたのだ。

 

佳代にとってその言葉は、身を裂かれるような苦痛であった。

 

「やめい……、もうやめい!」

 

藤太郎は、不思議そうな顔をして……、相変わらずの虫のような虚空を映す瞳のまま、佳代を抱き返した。

 

「なあ、なあ、藤太郎やい。温かいじゃろう?これが命の温度ぞ?」

 

『今日日虫でも熱を持ちます。命の温度とは』

 

「何故、そのような寂しい物の見方をする?妾を愛してくれ!妾と恋をしよう!」

 

『愛、恋。それは国防に必要か』

 

「人を愛せぬ男が、どうして国を愛せようか!」

 

『愛せずとも国は守れます』

 

「そ、そうだとしても……!これだけは信じてくれ!妾はお主を幸せにしたい!心から愛しているっ!だからっ……!」

 

ああ、だが……。

 

『分かりました、善処します』

 

虫に、蝿の王に愛は伝わらないのだ。

 




あー、こってり系チャーシューメン食いてえ。

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