1話 異世界転移
俺は永瀬レオ。
漢字で書くと麗央。
何故こんな名前かと言うと……、俺がハーフだからだ。
日本人とアメリカ人のハーフだ。
そして、俺は……、世界各国にその名を轟かせる、永瀬グループの御曹司であった。
酒屋から一代にして成り上がった明治の巨人、永瀬雪之助を祖に、この令和に至るまで成長し続けた巨大財閥、永瀬グループ。
永瀬グループは、海運貿易会社から始まり、近年ではITや、運送事業も行なっている。
世界で初めてIT分野に手を出して、検索エンジン『ググーレ』を開発したことにより、極めて巨大な、国際的な企業に成長した。
その御曹司である俺は、永瀬グループの企業を取りまとめている。
数年前、両親を飛行機事故で亡くした俺は、毎日勉強を重ねて、トップクラスに良い大学を出て、今は経営者としてそれなりに活躍している。
本音を言えば仕事なんざしたくはない。
ぶっちゃけ、親戚に丸投げしたいくらいだ。
でも、両親が俺に残してくれたのは、この、世界的に見てもかなり広いと言われる屋敷と、永瀬グループのみ。
両親が残してくれた永瀬グループは、俺が経営しなきゃならないな、という義務感の元、今日も俺は仕事をする。
「さて……、明日は館でパーティーだな。食材の搬入は済んだか?」
執事に聞いた。
「もちろんです、おぼっちゃま。万事滞りなく」
「セバスチャン……、おぼっちゃまはやめろ、俺はもう二十八歳だぞ」
「ほっほっほ、私からすれば、おぼっちゃまは今でもおぼっちゃまでございますよ」
全く……。
セバスチャンはいつまでたっても俺をガキ扱いしやがるな。
まあ、ダメじゃないけどね。
「ところでセバ、ス……?」
セバスチャンが消えた。
「セバスチャン……?どこだセバスチャン?!」
ドアを開く。
誰もいない。
「セバスチャン?!メイド?!誰もいないのか?!!!」
俺は、人を探しながら道を歩く。
誰もいない……。
「け、警察……!」
携帯は繋がらない。
ネットは繋がる。
窓から外を見る。
「は、はは……、嘘だろ?」
そこには、ビル街ではなく、荒野が広がっていた……。
しばらく立ち尽くし、混乱がおさまった頃。
俺は、守衛棟に行った。
「ここも、誰もいないのか」
そこで俺は、守衛の銃器を拝借する。
そして、他人が使えないように、守衛棟に鍵をかけておく。
半自動銃とハンドガン、そしてフラッシュバン。
使い方は知っている。
父がハンティングが趣味で、よく付き合わされていたから、そこそこに上手い……、と信じたい。
因みに、父は酒も大好きで、うちにはワインセラーと酒保管庫がある。
「っし、行くか」
俺は、守衛棟のボディアーマーと銃器を携え、正面門へ。
「オアアアアア?!!!」
俺は叫んだ。
何故なら、正面門に、見たこともない化け物が体当たりしているからだ。
黒くて、目の四つある犬のような化け物。
その大きさはグレートデン並み。
『ギャガアアアアアア!!!!!』
しかし、よく観察してみると……。
「ん……、あれ?門そのものにはぶつかってないな」
門の一メートルくらい手前で、まるで、見えない壁にぶつかるかのように……、いや、違う。
よく目を凝らすと、本当にうすーくだが、白い色の膜が、この屋敷全体を薄く覆っている。
その膜にぶつかって、目の前の黒い獣は屋敷に入れないみたいだ。
『ギャアオオオオオ!!!!』
黒い獣は、俺に出てこいと言っている、のだろうか。
みすみす出て行って食われちゃたまらん。
屋敷の前で暴れられても迷惑だ。
よし、殺そう。
俺もハンティングでライオンやら象やらをぶっ殺してきた。
目の前のこいつも普通に殺せるだろう。
……銃が効けば。
鉄棒を縦に並べた形の門。
その隙間にライフルをねじ込んで、黒い獣に向けて銃をぶっ放す!
『ギャガアッ?!!!』
一発じゃ死なないか。
連射!は、できないから、何度も連続でトリガーを引く。
『ギャア!ギャッ!ガァッ!』
「死ね」
二、三発、弾丸をぶち込んでやると力なく倒れた。
「ヨシ!」
指差し確認。
さて……、とりあえず、やべーと言うことは理解した。
ふむ……、これ、屋敷は安全っぽいが、屋敷の外に出たら死ぬパターンだな。
「………………食料!!!!」
俺は食料庫に向かった。
電気は点いてる。
ってことは、何故だか知らんが通電はしてる。
キッチンに立ち寄り、蛇口をひねる。
水が出た。
ガスコンロをつける。
火が出た。
電気ガス水道は繋がるみたいだ。
そして、スマホからネットにも繋がる。
そうだ、電話は繋がらなかったが、メールなら!
……エラー。
ツブヤイターは?
ツイート……、って、アカウントが消えてる!
じゃあ、アカウントを作り直してツイート……、できた!
これで助けを呼ぶ……、って無理か。
誰も信じないだろうよ。
だが一応、「家ごとどこか別の場所に移動してしまいました、助けてください。永瀬グループの社長です」とツイート。
リプ……、きた!
「永瀬グループって何?だと?!」
そんな、永瀬グループを知らない?!
長者番付にもトップスリーくらいの大企業だぞ?!
永瀬グループで検索!
「………………検索、結果、ゼロ件だと?!!!」
ない!
ない!
ない!
永瀬グループが、歴史から消え去っている!!!
永瀬グループが、最初からなかったことになっている……!!!
「そんな馬鹿な!」
ネット掲示板で検索、結果はゼロ件。
何だこれは?!!!
しばらくネットで情報収集。
その結果、永瀬グループがなかったことになっている以外は、特に変わったことはなかった。
どう言う事だ……?
「って、そんなことより食料!!!」
俺は今度こそ食料庫へ……。
「うおおう……」
そういや、明日はパーティーやるんだったな。
そのせいか、食料は山ほど、多種多様にある。
それだけじゃなく、あとは焼くだけの状態の発酵済みパン生地や、作り置きのミートソース、サルサソースなどもある。
「………………いや、腐るだろこれ!!」
俺は、急いでパンを焼き始める。
ついでに、冷蔵庫の肉を干し肉に加工する。
冷凍庫の肉はしばらく保つだろうし、生ものを処理しなくては!
できる限り、生ものを処理して、卵なども燻製にした。
でも、あまりにも数が多いから、ほぼ全て破棄することになるだろうな。
今日は料理と情報収集で一日が終わってしまった。
枕元にハンドガンを置いて寝る……。
なろうを意識して1話短め。