「……んん?」
「ぐー、ぐー」
朝起きたら、リビングに寝せておいたはずのギラが、俺のベッドに潜り込んでいた。
なんだこいつ。
慎みってもんがねえのかよ。
頬をつねる。
「いちゃい!」
はあー?
女の子かこいつは?
本当にドラゴンか?
まあ、服ひん剥いて下着を見たら、ちんちんが付いているようなシルエットはなかったが。
「おはよう」
「おはよ……、って貴様!この馬鹿者めが!」
「は?」
「何故、我を一人にした?!」
「いや寝てたし」
「知らないところで一人にされて怖かったのだぞ?!しかも、何故だか、建物を破壊できない《契約》が勝手にかかっているし!」
あ、制限はちゃんと効いているのか。よかったよかった。
「って、ドラゴン様が一人じゃ寂しいのかよ」
「そうではないわ!契約者となれば一心同体だろうが!我をほっぽり出して、このような上等なベッドに寝るとは、なんたる不敬か?!我は最果ての黒龍であるぞ?!」
「あーはいはい。それより、怪我は?」
「む、あんなもの、肉を食って一晩寝れば治るわ」
「トカゲの尻尾みたいだ」
「ドラゴンだ!」
「あーはいはい、飯にするぞ」
「わあい」
俺に引っ付くギラ。
「自分で歩けよ」
「歩くのは得意ではないのだ、いつも飛んでおるからな」
「じゃあ飛べよ」
「家の中で飛ぶ訳にいくまい」
「はー……、まあいいや」
ギラを抱っこする。
そして、キッチンで料理をしてから、朝食にする。
ギラにもフォークとナイフを持たせた。
人間の姿でいるのであれば、人間のマナーを守れ、と。
割と器用らしく、そこそこにぎこちないが、フォークとナイフを使って食事をするギラ。
18ほどの高貴そうな女性が、ナイフとフォークで四苦八苦しながら食事をする姿はちょっと可愛い。
「はぐ、はぐ、もぐもぐ。おおー!お前はこんな上等なものをいつも食ろうているのか?!贅沢だなあ!」
大喜びでソーセージにかぶりつくギラ。
「野菜もこれまた上等だ!甘く、えぐみがなく、青臭くない!パンも柔らかく真っ白だ!」
「そりゃ、異世界から来たからな」
「……なんと言った?」
「異世界から来たんだよ、俺は」
「……ははあ、通りで。貴様は、遙かから来たりしもの、『転移者』か」
ふむ……。
転移者、か。
「転移者とは、遙か彼方から現れる、摩訶不思議たる人間を指すのだ。天稟のしるしたる『スキル』を持ち、世を大きく動かすものよ」
「転移者はどんな条件で現れるんだ?」
「分からぬよ、とんと分からぬ。世界は気まぐれだからな。五十万年の時を生きたこの我にも分からぬのだから、誰にも分からぬだろうな」
だが、とギラは言葉を続ける。
「だが、世界の気まぐれで呼び出されること以外にも、『勇者召喚の儀』というもので呼ばれることがある」
「勇者召喚の儀?」
「人間が生み出した外道の業よ。贄を使い、世界の外側から転移者を引っ張り出す業だ」
ふーん、まあ、俺には関係ないな。
「まあ、貴様はどう見ても、野良の転移者だな。好きに生き、好きに死ねばよい。だがな、転移者であるならば、貴様が動けば世界も動くと知れ」
そんなことは知らんので、俺は好きなように過ごすつもりだが。
「お代わりいるか?」
「む、血は戻った故にな、あまり量は食わずともよいのだ。……だ、だが、くれるのであればもらうぞ?!」
あらそう。
「じゃああげない」
「うぅ〜……」
ふぅ……。
しょうがねーなー。
「ほらよ、作り置きのハムだ」
「わあい」
「ほらこい、走るぞ」
「えー」
「運動だ運動、太るぞ?」
「ドラゴンは太らぬわ!」
「あっそ、じゃあその辺で遊んでろ」
俺は朝のランニングを始める。
異様に体の調子が良く、普段走る距離の三倍近い距離を駆け抜けた。
日課のモンスター狩りも終えて、楽器を弾く。
「おお、上手いものだな」
「そりゃまあ、紳士の嗜みみたいなもんだよ」
「紳士とな?貴様、貴族か何かか?」
「貴族ではないが……、まあ、国を相手に商売するような大商人だよ」
「ほほう、そうなのか。よほど、金とやらを持っていたのだな」
そして、昼食。
作り置きされていたパテを焼いて、パンズを焼いて、輪切りにした野菜を挟んで、チーズとピクルスも挟む。
一つで満腹になるような大きなハンバーガーを二つ、山盛りのポテトとアメリカサイズのコーラを添えて食べるのだ。
「あーーー……、むっ!」
深紅の髪の令嬢の姿をとるギラだが、口が大きく目が鋭いところや尻尾などの、ドラゴンの特徴が隠せていない。
深窓の令嬢、と言った面構えをしてはいるが、その大きな口でハンバーガーにかぶりつく姿はやはり、ドラゴンなんだなと思わせる。
「んんー!うまっ!この肉も柔らかで美味いが、この黄色いのや酸っぱい野菜も美味い!」
「お前普段何食ってんの?」
「むー?まあ、その辺のモンスターや木とかだな」
「そんなもん食ってんのか……」
「この姿の時は燃費が良いので、あまり食わずとも済むのだ」
「って、それだよ。なんでお前、そんな美人な女の子になってんだよ?」
「おお?我はかわゆいか?ん?んー?」
「可愛いけどさ」
「ふふふ……、高位のモンスターともなれば、姿形に意味などないのだ。あの時は、戦うためのドラゴンの姿だったが、今は、貴様と共に生きるための女の姿をとっている。それだけだ」
「ふーん?」
「ああ、あらかじめ言っておくが、我は雌であるぞ。紳士と嘯くなれば、女子である我に優しくせねばならぬなあ?」
「えー、でもお前ドラゴンじゃん」
「いやいや、我も餓鬼ではないのでな、猫可愛がりしろとは言わぬ。ただ、美味い飯を食わせて、あとはほどほどに構ってくれればよいのだ」
「そんな犬猫みたいな生活で良いのかよ……」
昼食後は、ギラにこの世界のことについて聞く。
しかし、ここから南、すなわち大陸の中央部と、西の方に魔族が住んでいることと、南と東には人間が住んでいるということ、大陸の中央で、魔族と人間が争っていることしか知らないとギラは言う。
そして、ここは最果ての荒野と呼ばれる地で、大陸の最北端に位置するらしい。
今は春だが、冬は大雪、夏は乾燥、作物もろくに育たないが、地に満ちる魔力が豊富で、様々なモンスターが現れるそうだ。
ドラゴンだから賢いのかなと思ったのだが、人間の世の中のことについては何も知らないとギラは言った。
「はぁ?使えねーなお前」
「な、なんだその言い草は?!」
「じゃあアレだ、魔法教えろよ、魔法」
「いやいや……、真名なき者である貴様が、どうやって魔法を使うと言うのだ?」
「は?」
は?
思いつき集だから思いつきを書かなきゃなーって。