六時間寝て過ごしたが、ログアウトを強制するような警告はなし。
完全にゲームの世界に取り込まれたことを理解した。
まるで、百年以上前のテンプレネット小説だ。
俺は絶望して、それで……。
「でもどの道、最近は現実世界よりΩ鯖の方に長くいるんだからあんまり関係なくね?」
と思ってしまった。
あれ?
いや、となると、そんなに困ることでもないよな。
22世紀には、全国民にベーシックインカムが支給され、ただ生活するだけなら誰にもできた。
職業とは自己実現の場であり、糧を得るためにやることじゃあない。
俺は、大学を出てから、自衛軍に籍を置いたが、10年で退役した。
金も充分にあるから、高等遊民として悠々と暮らしていたのだが……。
今のVR機器の完成度なら、ほぼラグはないので、スポーツも格闘技もVR空間でやるようになっている。
サーバーの管理維持もAIが行うから、ほぼ永遠に存在するし、ミスもない。
サーバーの本体も、人工衛星の中にあるナノマシン駆動の量子コンピュータの中にあるので、保守点検が百年おきでもほぼ永遠に動く。
別にゲームの世界で生きることもおかしくはない。
最近では肉体を捨てて、VR空間で生きる人もいるそうだ。
なら、別に良いかな。
ニュークリアデターランス13の続編が出たら、そっちの鯖に移動したいと言うのはあるけど。
気を取り直して俺は、ニュークリアデターランス13の世界にある人工衛星基地から、地上を見つめた。
「うーん?んー?」
……俺はさっき、VRの世界に骨を埋めるのも悪くない、的なことを言ったが。
「こりゃナシだろ」
人工衛星基地から見下ろした地図は、ニュークリアデターランス13の崩壊した地球ではなく……。
全く見覚えのない……、所謂『異世界』が広がっていた……。
「そんな馬鹿な」
俺が唖然としていると、あの子が話しかけてきた。
『マスター、異常事態です』
この子は『アリス』と言う。
補助AI搭載式の実体のあるナノマシンの集合体。
電子妖精のアリスだ。
俺が自作した万能型MODの『Wonderland System』の中核をなす存在だ。
見た目は、『7歳とちょうど半分』ほどの、青いドレスに金髪の少女。つまりは、古典的なアリスの姿。少々どころじゃなく美化しているから、とんでもなく美しいが。
「ああ、異常事態ね、分かってるよ」
『シェルター102も、アイアンウィル本部も、アソシエイションも、ヴィジランテも、カジノギャングも……、全ての反応がロストしました。地上は、地球ではありません』
「分かってる……、人は住んでいるのか?」
『未知のクリーチャー、人間、人間と思わしき知的生命体の存在を確認しました』
はあ?
俺は何となくアリスの頬を摘む。
『ふにゃ』
おお、ぷにぷに。
全身がナノマシンでできたサイボーグだと言うのに、可愛いもんだ。
「人間と思わしき知的生命体とは?放射能ゾンビか?それともミュータント?」
俺の問いかけに対して、アリスは、頬を摘まれたまま返答する。
『いいえ。獣の耳や尻尾が生えた人間や、下半身が蛇だったり、背中に羽が生えていたりする人間もどきです』
なるほど……、つまり、獣人ってことか。
「文化レベルは?」
『マスケット銃、大砲などはあるようですが……、一般的に使われているのは、魔法と呼ばれるPSYの変異系ですね』
「魔法〜?世界観が違うだろォ〜?」
俺は思わずそう言ってしまった。
こちとらポストアポカリプスの世界線の人間(?)だ。魔法とか言われても困る。
「言語は?」
『英語です』
「大気は?」
『問題ありません。放射線に塗れた前の世界と比べるとまさに、月とスッポンですね』
「気候は?」
『場所によってまちまちですが、人が住める空間が多いです』
「そうか……」
俺は少し考え込んで、インベントリからタバコを出し、PSY(超能力)で指先に火を灯してタバコを吸った。
おや……、自然にPSYを使ってしまった。使えてしまったな。
「と言うことは……」
俺は、脳内のステータスインターフェースを開いた。
そこには、しっかりと、様々なMODマシマシでめちゃくちゃなステータスになったプレイヤーこと、『ザバーニヤ』の姿が。
「……俺は、ザバーニヤなのか」
『はい、マスターはザバーニヤです』
秩序崩壊者絶対殺すマン、ミステリアスおじさん、荒廃世界のオラエモン、辺獄天使……、地獄の管理者。
そうだ、俺はザバーニヤなのだ。
ザバーニヤは、そこらを旅して、秩序を大きく乱すものを抹殺し、初心者を助ける。
一部では、「ひょっとして九大天王はそう言うNPCなのでは?」とされる。
そう……、そうだ、ザバーニヤは、九大天王は、自らの法に従い、自らに尽くす。
そうだ、そうだ。
なら、俺は。
「アリス」
『はい』
「旅をしよう。そして、九大天王の名に恥じぬ偉業を成し遂げよう。秩序崩壊者絶対殺すマン、ミステリアスおじさん、荒廃世界のオラエモン、辺獄天使……、地獄の管理者。俺の生き様を見せつけてやろう」
そうだ、そうだとも。
異世界だろうと何だろうと、この身がザバーニヤであるならば、やることは変わらないはずだ。
『オーダー、了解しました』
斎藤義龍に転生した医者のやつおもしれーな。