あんな良い子が死んで良い訳ないでしょおおお!!!
私、結城友奈!
神樹様を守る勇者になって一ヶ月と半分!
今日も現れたバーテックスと戦うために、樹海と化したこの世界で戦う!
んだけどぉ……。
「ふむ、創造主よ、私、パンデモニウムの首領である魔王ルシファーを呼び出して一体何を?」
「熾天使であり、パンデモニウムと敵対するエデンの首領であるこのミカエルもここに呼び出したのは何故ですか?」
真凛君が、また現れた。それも、なんだか凄い人を連れて。
「暇だろ、お前ら」
「「いえ、忙しいですが」」
二人とも「公務が……」と言っているのに、真凛君は。
「そんな創造物であるお前らと交流をしてやろうと思ってな。嬉しいだろう?」
あっ、聞いてない。
「ええ……」
「まあ、はい……」
二人……、ルシファーさんとミカエルさんは嫌そうな顔をした後、表情を正した。
「じゃあまず自己紹介から」
「ユートピア、エデンの総督、熾天使のミカエルです」
「ユートピア、パンデモニウムの王、魔王のルシファーだ」
「今日は二人が実況と解説をしてくれるそうだ」
「「聞いてないんですが」」
「今言ったからな」
うわあ、めちゃくちゃ言うなあ……。
暴君だ。
「あんたねぇ、私達の戦いをショーかなんかだと思ってない?」
風先輩、お怒りだ!
「違うのか?」
「違うわよっ!馬鹿にしないで!」
「馬鹿になんてしてないが。俺にとっては、そう、戦力比的に例えると、カブトムシの相撲を見ているような気持ちだ」
「わ、私達の戦いが虫けらの相撲だって言いたいの?!」
「いや、悪気はないんだ、本当に。悪いのは俺が強過ぎるからで」
「ぐぬぬぬぬ、むっかつくー!!!」
「分かりやすく言えば、そうだな、核ミサイルの数千倍程の威力の攻撃を1秒に数千回、それを数ヶ月やり続けられる持続力と出力がある。お前じゃどう逆立ちしたって勝てないんだ」
「嘘でしょ?!」
「この世界が灰になっても良いなら、やってみせるが」
「むむむむむ〜!そんだけ凄いんなら、私達の代わりにバーテックスと戦ったらどうなの?!」
「はっ、笑わせるな。何が嬉しくてたかが人間ごときのために戦わなきゃならんのだ」
「最ッ低!!!」
ふん、と風先輩はそっぽを向いた。
「む、何故だ、嫌われてしまった」
「あ、あはは……」
「友奈、何故風は怒っている?」
「うーんとね、たかが人間ごときって言うのは、酷いと思うよ?」
「成る程、侮辱されていると感じた訳か。すまない、詫びよう」
「……はぁ。あんたが凄いのはこの前の件で分かったけどね、だからって人間を見下すのはやめて!って言うかあんたも人間でしょうに!」
「いや、種族は魔法使いだ」
「何が違うのよ?!」
「捨食の魔法を使っているんだ。読んで字のごとく食事を必要としない。また、魔法で肉体を弄り、睡眠も殆ど必要ない身体になっているし、身体能力も超人並だ。あと、ある程度歳をとれば、捨虫の魔法で加齢を止めるつもりだ」
「えぇ……」
それってもう、完全に人間じゃないよね……。
「勘違いするなよ、食事と睡眠をしない訳じゃない。嗜む程度はしているとも」
嗜む程度?!
「おっ、来たぞ。さあ、戦え、勇者部。お前らは実況と解説な」
「「はあ……」」
じゃ、じゃあ、行くよ?
って、あれは……。
「おっと、突然赤い勇者が乱入してきたー」
「能天使並か……、その程度かな」
しっかりと実況と解説をするルシファーさんとミカエルさん。それより……!
「ちょろい!!!」
突然現れた、赤い勇者が、バーテックスを即座に封印……、コアを破壊した!
「では、さらばだ、創造主よ」
「さて、決着がついたようですので、私は帰ります」
光に包まれて消えるルシファーさんとミカエルさん。
えーと、取り敢えず……。
「……誰?」
「揃いも揃ってボーッとした顔してんのね、って……、あんた誰よ?!」
「俺か?大魔導師の明星真凛だ。よろしく」
「えっ、ああ、よろしく?」
手を握る真凛君。
「ええっと、あんたは、勇者……、じゃないわよね?何者?何でここに?」
「大魔導師をやっている者だ。ここへは……、そう、物見遊山的な」
「馬鹿にしてんの?!樹海にどうやって入り込んだのか聞いてんのよ!!」
「神樹だか何だか知らないが、この結界程度、入り込めないで何が大魔導師か」
「大魔導師……?魔法でここに来たって言うの?」
「そう言っているんだが」
「はっ、魔法なんて存在する訳ないじゃない!」
「神樹とやらは信じるのに、魔法を信じないのか?魔法は素晴らしい学問であり、真理だぞ」
「へえ!じゃあ証拠を見せてみなさいよ!」
「分かった」
え、真凛君?
「では取り敢えずあの神樹とやらを吹き飛ばして見せようと思うのだが」
「駄目ーーー!!!」
真凛君ならやりかねない?!
「冗談だとも、冗談冗談。では、そうだな。これなんてどうだ」
冗談に聞こえなかったんだけど?!そして……、
『ーーー!!!』
「「「「………………え?」」」」
全員の声が重なる。
「局地的に時間逆行を行い、先程破壊されたバーテックスとやらを再生したんだが、どうだ?」
「この、馬鹿ーーー!!!倒したバーテックスを再生する馬鹿がいるかーーー!!!」
風先輩がキレる。
「また倒せば良いだろう?」
「あんたはねぇ!!!」
「分かった、それなら、俺が倒す。それで良いか?」
「そうね、責任とってあんたがどうにかしなさい」
風先輩が責めるような目で真凛君を見やる。
「ちょ、無茶言ってんじゃないわよ!一般人にバーテックスをどうにかしろだなんて……」
赤い勇者の子が指摘するけど……。
「大丈夫よ、こいつ……」
『ストップ』
「一般人じゃないし」
呆れた風に、風先輩が吐き捨てる。
「ま、真凛君……、今度は何したの?」
「ああいや、時間停止だが……、折角だ、友奈、使って欲しい魔法とかはないか?友奈は良い子だ、ご褒美にこの大魔導師真凛の大魔法を見せてあげよう」
「えぇ……」
時が止まったバーテックスをバックに、私の手を取り、囁いてくる真凛君。
……優しげな眼差しにちょっとドキッとしたのは秘密だ。
真凛君、私達に優しいなあ。ひょっとして、私達のことが好き、なのかな。私に可愛いって言ってくれたし……。もしそうだったら照れちゃうなあ。
真凛君、見た目がカッコいいし私達に優しくしてくれるし……、おまけに強いし。
もしも、恋人になって、って言ったら、一緒にバーテックスと戦ってくれるかな……。
でも、そんな不誠実な理由で恋人とかは、いけないよね。
「友奈?」
「あっ、えと、魔法?じゃあ、カッコイイのが良いなあ!」
「ならばこれなんてどうだ」
真凛君は止まっているバーテックスに手をかざして、
『マテリアルバースト』
一言、唱えた。
その瞬間、球状のエネルギーの塊?みたいなのができて……、それは段々と膨らんでいき……。
やがて全てを飲み込んだ。
後に残ったのは、巨大な球状の破壊跡だけ……。
勇者部一同、改めて真凛君の力を見て……、そしてちょっと引いた。
「何よ、これ……」
赤い勇者の子も開いた口が塞がらないようだ。
「マテリアルバーストは質量をエネルギーに変換して破壊力とする魔法だ」
「……それって、凄いの?」
質量?エネルギー?
「ゆ、友奈は分からないのか?アインシュタインの相対性理論に基づいてE=mcの二乗のエネルギーを生成する魔法で、術式の簡潔さといい完成度といい芸術的な大魔法なんだが」
「ご、ごめんね、私馬鹿だから、難しいことはよく分からないや……」
相対性理論って何?
「真凛君、その魔法の射程範囲と最大変換量は?!」
東郷さんが焦ったように聞く。
「射程範囲は俺の知覚範囲だから無限大、異次元も含めてだ。最大変換量は星数個分くらいか」
「な、なんて事なの……」
「えっ、東郷さん、どういうこと?」
「……真凛君は地球を消滅させることができます」
「……え?」
「いい、友奈ちゃん。アインシュタインの特殊相対性理論のE=mcの二乗って言うのはね、物の重さと、光速度……、秒速三十万キロメートルをかけたものなの。三十万キロの二乗って時点で、ほんの少しの質量でもとんでもない量のエネルギーが生まれるのは分かるわよね?」
「えっと、うん、なんとなく」
「真凛君の言うことが確かならね、ほんの数グラムにこの魔法をかけるだけで、核ミサイルくらいの熱量が発生するの……」
「か、核ミサイル……!!」
「しかも、星数個分の質量を変換できるとなるとそれは、地球どころか太陽系、いえ、宇宙の全てを焼き尽くすくらいの威力が出ると言うこと……」
宇宙を、焼き尽くす……?!
「うむ……、受けが悪かったな。もう一度挑戦させてくれ」
そして再生させられるバーテックス。
「ま、真凛君、真凛君が凄いのはもうよく分かったから、もう良いよ……?」
「チャンスを……、チャンスをくれ」
『トリプレットマジック・リアリティスラッシュ』
「どうだ?!リアリティスラッシュは問答無用で時空間を切り裂く魔法だ。それを三重化して唱えた。これができるのは魔王クラスだけだぞ!」
時空間を、切り裂いた……?
驚きのあまり声も出ないでいると、何を勘違いしたのか、真凛君はまたもやバーテックスを再生させた。
「くっ、次だ」
『トリプル、フレアー、アーダー、コラプス』
「三連化魔法でフレアー、アーダー、コラプスを同タイミングでぶつけた。それぞれ最高峰の無属性、火属性、聖属性の魔法だ。……これも駄目か?」
空が光って、炎で埋め尽くされ、白の大きな魔法陣から光線が発射される。
やっぱり、声が出ない……。
「くっ、俺は女の子一人喜ばせることができないのか……。こんな体たらくで何が大魔導師だ」
止まった頭をどうにか再起動させて、先程からバーテックスを蘇らせて、色んな手法で倒すと言う作業を続ける真凛君を止める。
「ま、真凛君、もう良いから!真凛君が凄いのは十分分かったから!もうやめて!」
私は真凛君に抱きついた!
「ん、何だ?甘えたいのか?」
普通に頭を撫でてくれる真凛君。ほ、包容力あるなあ。
って、そうじゃなくって!
「真凛君、もうやめて、お願いだから」
「だが、俺は友奈を喜ばせられなかった。大魔導師としてのプライドが傷ついた……」
「えっと、あまりにも凄くて声が出なかっただけだよ?」
「慰めはいらない……!」
「ほ、本当だよ〜!」
「で、お前は誰だ」
何とか立ち直ってくれた真凛君は、いつも通り、黒い玉座に腰掛けると、タバコを吸いながら赤い勇者の子に尋ねた。
「私は三好夏凜!大赦から派遣された、正真正銘の勇者よ!」
「あの薄汚い連中から派遣されたと?」
「あんた……、大赦を何だと思ってんの?!」
「神樹とか言う下らん神に贄を供え続ける弱き者達、と言ったところか」
「神樹様まで馬鹿にする気?!」
食ってかかる夏凜ちゃん。
「あ、あのね真凛君?神樹様は私達のことを今まで守ってくれていた神様なんだよ?確かに、真凛君程凄くはないのかもしれないけど、それでも大恩ある存在なんだ。だから、酷いことは言わないで欲しいな……?」
「神を名乗り、贄を欲するものは醜いだろう?」
贄……、生贄のこと?
それって、私達?
私達が生贄ってこと?
確かに、私達は、神樹様に捧げられた生贄なのかもしれない、でも……。
「私は、それでも良い。みんなの為になるのなら、喜んでこの身を捧げるよ」
「ッ、みんな、などと言う不特定多数に捧げてしまうくらいなら、俺にくれたって良いだろう」
「ごめんね、真凛君。私、みんなの為に戦うつもりだから。必要ないかもしれないけど……、真凛君も守りたいんだ!」
「くっ、ううお、お前は……、天使か?お前のような天使、作った覚えがないぞ?」
「て、天使だなんて……。えへへ」
褒められちゃった。
「うちの天使どもときたら、メガテンのlawルートが如く融通のきかない頭でっかちばかりで……。やはり欲しい、お前が欲しいぞ友奈。俺のものになってくれ」
「えぇ?!こ、困っちゃうなぁ……」
「兎に角っ!あんた達はもう用済みなの!これからのバーテックスはこの私が倒すんだから!!」
と、夏凜ちゃんが締めたところで、樹海が元に戻っていく。
「じゃあ俺は取り敢えず夏凜をユートピアに連れて行くから」
「いきなり名前で?!しかも呼び捨て?!」
「駄目なのか?」
「ま、まあ良いわ。名前くらい好きに呼びなさい。で?どこに連れて行くって?」
「ユートピアだ」
「……理想郷?」
あ、夏凜ちゃんもターゲットなんだ。
……女の子なら誰でも良いとか?
それはちょっと、嫌かな。
「では、さらばだ」
「あれ、これ、光が溢れて……、ちょっと、どうなってんのこれ?!どうなってんの?!!」
あっ、真凛君が夏凜ちゃんを引っ掴んでから、光に包まれて消えた……。
俺つえええ。