雨が嫌だ。
馬車の入門のための列に並ぶ。
二人でタバコをふかしながら、しばし待つ。
行商人だろうか、いくつかの馬車が、十台そこらくらい並んでいた。
土煙を上げずに、馬車の倍以上の速さで地を駆け、街の前で急停止したロードランナーは、商人や門番の度肝を抜いたが、俺とシルヴィアは、我関せずといった風に無視して、列に並んだ。
三十分もしないくらい、シルヴィアと談笑しながら待つと、俺達の番になった。
俺は、ロードランナーの窓を開けて、二人分の入門料金を門番に手渡した。
「待て!この乗り物はなんだ!」
「ロードランナー」
「何だそれは?怪しいな」
「何か問題でもあるか?」
「問題は……、いや、だが、そんなものは見たことがない」
「北では流行ってるんだよ」
「む……、おい!指名手配犯の人相書きを持ってこい!」
そう門番が言うと、下っ端門番が羊皮紙の束を持ってくる。
そして、門番は、ジロジロと俺の顔を見て、羊皮紙の束を見て……、と繰り返す。
「………………通ってよし」
「では、失礼」
五分後、入門できた。
「まず、どこへ向かう?」
「当然、冒険者ギルドだ」
「冒険者ギルド?」
何だそれは、古典ネット小説か?
とにかく、指示通りに、大通りにある石造りの二階建ての建物へ。
厩の隣にロードランナーを駐車して、建物を見やる。
看板には、剣と杖が交差しているような図形がある。恐らくは、これが冒険者ギルドを表す紋章なんだろうな。
「剣は力を、杖は知恵を表すらしい。冒険者はその両方を求められる……、と言うことだろう」
看板を見た俺の横顔にそう語りかけるシルヴィア。
「そう言えば、冒険者になるのに金はいらないのか?」
「いらんぞ、金を取られては冒険者になる者が減るではないか」
「減ると困るのか?」
「冒険者は一種の棄民だからな。確かに、高ランクの冒険者は、それこそ貴族になったりなど、国に必要な存在となるだろうが、殆どの低ランク冒険者には、街の外に出てモンスターに喰われろと言うのが本音だろうな」
「効率が悪いな、そうやって捨てられてきた民の中にも、使えるやつはいたんじゃないか?」
「はっ、本気で言っているのか?」
まあ、試しに言ってみただけなんだが。
「国に一々人材漁りする余裕はなく、第一、冒険者として生き残れない『程度』の人間はいらないってところか」
運も実力のうちで、運悪く死ぬようなやつもいらんってことだ。
「その通りだ」
おーおー、酷えな。
「どこの国でも、弱者に居場所はない」
「そうか」
「だが、少なくとも、バランシア帝国になら、強者となれば居場所ができる」
「他の国では強者にも居場所がないのか?」
「ああ、特に教国では、神の名の下に皆平等と嘯かれ、どれだけ努力しても権利は得られない。世襲の生臭坊主共が好き勝手に政治を壟断しているのだ。あの国に未来はない、侵略して膨れ上がったら、泡のように弾けるだろうな」
「共産主義か」
やはり共産主義は害悪だな。
そんなことを言いつつ、ギルドの戸を開く。
おれが入った時は、ベストにトレンチコートという格好が珍しいらしく、そこそこに注目されたが、シルヴィアが入ると、皆シルヴィアの銀の腕に注目した。
「何だありゃあ」
「とんでもねえな」
「化け物か?」
シルヴィアに、好奇と蔑みの篭った視線が向けられる。
しかし、当のシルヴィアは、それを涼しい顔で受け流す。
俺とシルヴィアは、受付にこう言った。
「「冒険者登録を頼む」」
と。
受付には、まあ、そこそこに可愛らしい、小動物風の雰囲気の女がいた。
その女は、背の高く、異風の男女である俺達に戸惑うが、すぐさまに、こなれた営業スマイルを浮かべて対応した。
「登録ですね!では、お名前をお聞かせ願えますか?」
「ザバーニヤ」
「シルヴィア」
すると、受付嬢は、さらさらと分厚い台帳に名前と性別を書き入れる。
そして、透明な水晶を差し出してくる。
「これは?」
「魔力紋を識別する水晶玉です」
「魔力紋?」
「はい、魔力紋は、その人個人を表す魔力の波形です。この水晶玉は、それを数値化しているんです」
指紋をマイナンバーにする、みたいな感じか。
特に問題はなく登録完了。
古典ネット小説では、ここいらでステータスが表示されたりするはずだが……?
「では、次はこちらのプレートに血液を一滴垂らしてください。ステータスとレベルを測定します」
お、テンプレだ。
さて、シルヴィアから。
『シルヴィア
Lv:8
HP:150
SP:75
STR:25
INT:20
AGI:31
DEX:32
VIT:20
MND:18
SKILL
剣術:3
銃術:4
格闘:3
指揮:4
算術:2
MAGIC
ティンダー
クリエイトウォーター
エンチャントウインド』
HPは体力、SPは気力。
上から、強さ、賢さ、素早さ、器用さ、体力、精神力。
「凄い……!レベル8ですね!レベル8と言えば、Aランク冒険者相当ですよ!剣術も一流で銃なんて超一流じゃないですか!」
レベル0でE、レベル2でD、レベル4でC、レベル6でB、レベル8でA、レベル10でS……、と言った、ランク制度があるらしい。
あくまでも、レベル8でAランク冒険者並み、と表現されるだけで、レベル8だからいきなりAランクとはいかないらしいが。
そして俺は。
『ザバーニヤ
Lv:100
HP:1000
SP:1000
STR:100
INT:100
AGI:100
DEX:100
VIT:100
MND:100
SKILL
Negotiation:100
Physical Weapon:100
Energy Weapon:100
Expressions:100
Lockpick:100
Medicine:100
Computer:100
Craft:100
Sneaking:100
PSY:100
MAGIC
なし』
カンストしてしまったわね。
「そ、その、ええと……」
「秘密にしておいてくれ」
「は、はい……」
そういうことになった。
今、汚いダンまちみたいな話書いてる。