「今更ながらに、この街は何て言う街なんだ?」
「名前などない」
「え?」
「正確には、まだない」
「できたばかりの街なのか」
「そうだ。便宜上、辺境の開拓街と呼ばれているらしい」
そんな話をしながら、これまたテンプレ的に依頼が張り出されている掲示板に向かう。
E〜Cランクの常時張り出されている依頼は、看板に直接インクで書いてある。これは常時依頼と言って、薬草摘みやゴブリン討伐なんかだ。
即応性を要する依頼は、黒板にチョークで書かれている。大体は、大工の手伝いなんかだが。
Cランク以上の、ちゃんとした依頼は、羊皮紙に書かれて掲示板に貼られている。
今、俺達は、新米のEランク。
だが、だからと言ってEランクの依頼しか受けられないのかと言えばそうではなく、信用さえあればいきなりAランクの依頼も受けられる。
失敗すればどんどん信用を失っていく。
信用を失えば、受けられる仕事は少なくなっていく。
この辺は基本的に、ニュークリアデターランスどころか、人生とかいう80億人がプレイしているクソゲーと一緒の仕様だ。
よし、じゃあまずは軽い依頼からこなしていこう。
Eランクの、ゴブリン退治だ。
この辺境では、とにかくモンスターの質も量も凄いらしい。
モンスターが現れるメカニズムは全くの不明で、生殖だけではなく、明らかに何もないところから湧いて出るようなことがあり得るそうだ。
街の中にいきなりモンスターが現れた、ということはないので、街を作ろうとしている、とのこと。
バランシア帝国は領地拡大に積極的であるが、いかんせん、周囲には様々な小国が多数存在している。
例えば、A国、B国、C国とバランシア帝国が隣接しているとしよう。
バランシア帝国はこの辺では大きめの国だ。
もし、領地を広げるためにA国に侵攻したら、B国とC国が共同で攻めてくる……。
にっちもさっちもいかないとはこのことか。
なので、バランシア帝国は、どこの国の領地でもない、北のヤツン草原とエジダの森を開拓し、国力を増強した上で、周辺国家の侵略をしようと考えている。
さて、ゴブリンだ。
ご存知、雑魚キャラ。
しかし、一般市民からすれば恐ろしいモンスターだ。
家畜を襲う、群をなす、女を犯す、罠も張る、刃物や棍棒を持ち、人間でも何でも食う。
そして、ボブゴブリンやゴブリンメイジなど、様々なバリエーションもある。
その癖、数も多くすぐに増える。
そして肉や革などに価値はない。
害獣という言葉でまとめるにはあまりにも邪悪な存在だった。
ゴブリンは、通常種なら一体につき大銅貨一枚で依頼が張り出されている。
つまり、一体千円だ。
それの意味するところは、『割りに合わない』のただ一言。
故に、ゴブリンは好き放題に繁殖して、一般市民の生活を脅かす。
かと言って、狩っても何の価値もないゴブリンを狩れと強制はできない。そんなことをすれば、冒険者は外国に逃げる。
それもまた、にっちもさっちもいかない。
まあ、世の中の大半は、にっちもさっちもいかないし、痛し痒しだし、塞翁が馬だしな。
ん……?
「おいっ、早くしろ!」
「あ、開かないんだよ!」
「鍵穴を探せ!」
ロードランナーの前に盗人がいるな。
「やあ、景気はどうだ?」
俺は気さくに話しかける。
「ああっ!!!い、いや、へ、へへへ」
「盗人か」
シルヴィアがそう言った。
「い、いや、つい、魔が刺して!ゆ、許してくれ!」
「ああ、許すとも!ところで君の利き腕はどっちだい?」
俺が芝居がかった、大きな、アメリカ的リアクションで言った。
「へ、へへ、え?右だけど?」
「それは良かった。シルヴィア、こいつと仲直りの握手をしてやれ。……思い切りな」
「それは良い、人類皆兄弟だからな」
そう言って、シルヴィアは男の右腕を掴み取り、握手、否、握り潰した。
シルヴィアの右手のバイオニックアームのパワーなら不可能ではない。
紙屑のようにペシャンコになった手を見て、盗人は悲鳴を上げる。
「ぎ、ぎ、ぎぃやああああああ!!!!」
「「ひ、ひいいいいっ!!!!」」
「おや、君達も握手をしようじゃないか」
「「結構ですうう!!!!」」
逃げて行った。
ロードランナーに乗って数分。
エジダの森に入る。
森の前にロードランナーを駐車して、降りる。
俺は『レーザーライフル』と『レーザーピストル』、そしてサバイバルナイフのユニーク武器である『ミートスライサー』を装備している。
ついでに『グレネード』も装備して、シルヴィアの隣に立つ。
「ここら辺にゴブリンが現れるらしいな」
「あ、アレじゃないか?」
『ゲゲギ!』
「そうだな、殺すか」
ちゅん。
小鳥の鳴き声ではない。
レーザーが迸る音だ。
音よりも遥かに速いレーザーの閃光は、一瞬でゴブリンの脳を焼いた。
ゴブリンは、断末魔の一つも上げずに倒れ臥す。
俺は、ゴム手袋を装備して、革袋にゴブリンの鼻を削ぎ落として入れる。
ゴブリンの鼻は、ゴブリンを討伐した証だ。
「あ、またいた」
「撃て」
「ああ」
ちゅん。
ネズミの鳴き声ではない。
もちろん、レーザーライフルの発射音。
この通り、音がほぼ出ないので、ゴブリンを各個撃破できた。
よって、奇襲を受けることもなく、合計で百体のゴブリンを討伐できた。
金額は大銀貨一枚だ。
「え……?たった二時間でゴブリンを百体討伐……?」
「ああ……、あまりにも弱くて相手にならなかった。次はもっと割りのいいモンスターを狩りたいんだが、何かあるか?」
「は、はいっ!」
あんまりにも楽過ぎて、簡単にゴブリンを百体討伐できた。
時間が余っているので、もっと割りのいい依頼をこなしておこう。
受付嬢は、俺達がレベル8以上の初心者冒険者という異常者であることを加味して、色々な依頼を厳選する。
その時、ギルドにたむろする他の冒険者達が声をかけてきた。
「二時間でゴブリンを百体だあ?ふかしてんじゃねえぞ!」
ふむ、揉め事の始まりか。
梅雨だー。