ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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あー、俺も異世界でファンタジーしてー、と思ってるそこの貴方!ネットがない環境に放り込まれたら辛くない?


大魔導師、と銀

地球の日本とは違う異世界。

 

偉大なる大魔導師、明星真凛が生み出したユートピアで過ごして、一月が過ぎた。

 

「創造主様はね、意外と寂しがり屋なの。まあ、寂しがり屋だからこそこんな風に世界を作ったんだと思うけどね」

 

「創造主様は女の子が好きよ。特にこの城のメイドは好みのタイプで固めてるって言ってたわ」

 

「甘えると優しく抱きしめてくれますわ。こちらが堕落しない程度なら、お願いも聞いてくれますし」

 

と、アルカディアのゴールデンドーン城のメイド達は言う。

 

ゴールデンドーン城……。

 

アルカディアって街の中央に位置する真凛さんの住居。

 

私はそこに住ませてもらっている。

 

……しかし、壁も屋根も白色なのに、何でゴールデンなんだろうな。

 

謎だ。

 

……まあ一番の謎はこの人なんだけど。

 

「銀、良い子だ」

 

「わぷ、な、撫でるなよぉ〜」

 

ふわりと、虚空から現れる、つかみ所のないこの男の人。明星真凛さん。

 

抱きしめながら撫でてくるんだよなぁ。

 

でも、割と心地いいから癖になっちゃってる感じはある。

 

だ、だってさ、良い匂いするしあったかいし……、ぎゅってされるとすんごく安心するんだよ。

 

やっぱり、ほら、一度死んだのが結構トラウマみたいで、今でもちょっと悪夢を見たりする。

 

そんな時に、真凛さんにぎゅって抱きしめてもらうとめちゃくちゃ安心するし、怖くなくなるんだよ。

 

そっ、それに、真凛さん、私の好みのタイプで……。優しくて面白くて、頭も良いし。ちょっと色々とズレてるところは欠点だけど、あんまり気にならないし。

 

「愛しい愛しい俺の勇者、俺の腕の中で安らぐと良い」

 

ううー、やめろー。駄目になるー!

 

「てな訳で、銀。今日は他の国に連れて行ってやろう」

 

「え、マジで!じゃあシャングリラに連れて行ってくれよ!美味しいジェラートのお店があるらしくてさ!」

 

「よし、良いだろう」

 

そしてパチンという指パッチンの音。

 

景色は即座に変わる。

 

……もう慣れた。

 

「私も、さ。多少は魔法を教えてもらったけどさ。転移魔法で、しかも詠唱破棄って神業レベルだよな」

 

もし私がやるなら、数十年単位での修行と、根本的な頭の良さをどうにかする必要がある。

 

「俺は大魔導師だ、これくらいは容易い」

 

しかも、距離もかなりあるから、魔力の消費量も半端じゃないはずなのにな。

 

天才を鼻で笑える賢さ、無尽蔵の魔力、馬鹿みたいな練習量があってこそできる大魔法だ。やっぱり、凄い。真凛さんは凄い。

 

「行くぞ、銀」

 

「あ、うん。……って、ナチュラルに恋人繋ぎ?!」

 

手を握られる。

 

「ってか、道分かるの?」

 

「千里眼」

 

「ああ、そう……」

 

 

 

ここはユートピアの都市、シャングリラ。農業や畜産が盛んで、食べ物が美味しい、らしい。もらったパンフレットや雑誌に書いてあった。

 

この世界はファンタジーだ。

 

ゲーム機とかは無い。主な娯楽は雑誌や本だ。後は観光とか、食事とか。ボードゲームも多少はあるみたいだ。

 

……真凛さんは娼婦も中々だって言ってた。

 

最初は娼婦の意味が分からなくて詳しく聞いたけど、聞いて後悔した。

 

……エッチなお店って!

 

でも、真凛君が言うには、エッチなお店は儲かるから、経済効果?が良いらしい。

 

まあでも、難しい話はよく分からないけど、そう言うお店もないと世の中が回らないんだよって教わった。

 

納得はいかないけど、理解はしたよ……。

 

それで、本や雑誌なんだけど、これが結構面白い。

 

本は、最初は活字本かあ、と思って敬遠してたけど、読んでみると挿絵多めの文庫本みたいなのも結構あって中々いける。

 

特に面白かったのは、ユートピアに実在する商業都市アガルタの三番街を舞台に、ワーウルフの私立探偵が街で起こる難事件を次々と解決していく話、『探偵ネロの事件簿』シリーズとか、主人公の悪魔の魔剣士ゾラが悪の魔王を裏切り、善良な人々の為に戦うようになる、『ゾラ・サーガ』シリーズとか。

 

雑誌も面白い。

 

『ユートピア食べ歩き日和』は、著者チームがユートピアで食べ歩きをして様々なお店を評価する、所謂食べログだ。今日行きたいジェラートのお店もこの雑誌で高評価だった。

 

『週刊文秋』は著名人のスキャンダルをセンセーショナルな感じで書き連ねた悪名高いゴシップ記事。今週は崑崙の首領である八仙につきまとったそうだ。

 

『冒険家ルーファスの旅日記』はそのまま、冒険家であるルーファスの旅の日記だ。旅番組見てるみたいで面白い。今週はゴモラ郊外編らしい。

 

『冒険野郎』は、ユートピアでは一般的な職業である冒険者へのお役立ち情報が多数掲載されている。今週はソドムのエッチなお店が凄い!とか書いてある。

 

「それにしても、シャングリラか」

 

「え、駄目だった?」

 

「いや、悪くないとも。しかしシャングリラは農業や畜産がメインで、観光的にはそうでもないからな」

 

「そう?私はこの、長閑な風景が良いと思うよ?牧場みたいで」

 

麦畑はまるで金色の絨毯で、菜の花畑は黄色い地平線。のんびり徘徊する家畜の群れに、どこかゆったりした様子の人々。

 

とても、良いところだと思う。

 

「お前が喜んでくれるならそれで良いさ」

 

そう言って私の肩を抱く真凛さん。

 

ううー、滅茶苦茶優しくてカッコいい……。

 

……もし、ユートピアに永住することを選択したら、ずっとこんな日常が続くんだろうか。

 

真凛さんは、私のことを愛してくれるそうだ。勇者だから、と言う理由以外に、可愛いからとか色々だと本人は言っている。最終的に愛することに理由なんて必要か?と聞き返されて、逆に答えに詰まったけど。

 

真凛さんに、ずっと愛してもらって、それで……。

 

いずれは、結婚、とか……。

 

………………。

 

その、私、似合ってないのは自覚してるけど、将来の夢はお嫁さん、なんだ。

 

でも、やんちゃで、男勝りで……、男の子となんて、縁がなかった。

 

それが、ここにきて。一回死んでから、こんな人と巡り会えるなんて、思ってなかったよ。

 

真凛さんと、結婚したら……。

 

やっぱり、幸せな家庭ってのが、築けるのかな。

 

………………。

 

いっそのこと、全部手放して。

 

真凛さんと一緒になれば。

 

そう、すれば……。

 

………………。

 

「どうした、銀」

 

「ん、ああ、何でもないよ、何でも……」

 

 

 

ユートピアに来てから、半年が過ぎた。

 

「ハロー、銀ちゃん」

 

「おはようなのね、銀!」

 

「あらぁん、銀ちゃん、オハヨ!」

 

「おはよう、みんな!」

 

城のメイドさん達にも顔を覚えられて、気安く言葉を交わすようになった。

 

本も、沢山読んだ。

 

気付いたら読書家だ。

 

アルカディア城下街の本屋には足しげく通い、店長の、ワーキャットのイッパイアッテナさんとはよく話す。

 

因みに店員のワーキャットの女の子の名前はルドルフ。

 

資金源?真凛さんがお金をくれるよ。お小遣いだって。

 

一月で本を数十冊買えるくらいだから、結構貰ってると思う。

 

この世界での本の価値と、ユートピアでの貨幣価値がイマイチ分からないから、日本円でどれくらい、とかは分からないんだけども。

 

因みに単位はゼニーで、金銀銅鉄の硬貨だ。これより上の単位のものは一般人には縁がないけれど、プラチナ、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンなどの貨幣も存在するらしい。小切手もある。

 

……そもそもミスリルとかって存在するんだ。

 

本は一冊大体千ゼニー、金貨一枚分。

 

この大体って言うのがミソで、商人によって価格が違うんだ。日本みたいに適正価格がある訳じゃなくって、商人がその時その時の景気や色々な事情によって価格設定するらしい。

 

外を歩けば、よく、値切り交渉をする冒険者を見かける。

 

……「まとめ買いするから百ゼニーまけてくれ!」

 

……「うーん、消費税もあるからなあ」

 

などなど。

 

それでも、イッパイアッテナさんの店は良心的な価格設定、らしい。

 

……真凛さんに何でゼニーなのか聞いたら、「分かりやすいだろう?」とのこと。割と適当?

 

そして貨幣はユートピア全国共通で、税金もある、っぽい。

 

で、だ。

 

「あれこれ私駄目女じゃない?」

 

気付いてしまった。

 

「よくよく考えたら働いてないし……、それなのにお小遣い沢山貰ってるし!」

 

いかんいかんいかん!は、働こう!

 

「と、言う訳で、だよ?」

 

真凛さんに相談する。

 

「……働きたいのか?」

 

「流石にお小遣い分くらいは稼がないとなあ、と思って……」

 

「お前は学生だろう」

 

「今は違うじゃん」

 

「……メイド服でも用意するか?」

 

「それも思ったんだけど……、ここのメイドさん達、みんな料理も掃除も洗濯もその上警備も、何でもできるじゃん。私が何かする余地ないよね」

 

「そりゃそうだろ、ここのメイドは俺がメイドとして創ったんだからな。相応の技能を持つぞ。見た目は俺の好みだし」

 

「だから私は決めたんだ」

 

「おう」

 

「冒険者になるっ!!!」

 

「……おう?」

 

 

 

冒険者……。

 

ユートピアにおいてとてもポピュラーな存在。

 

仕事の内容は多岐に渡り、戦闘、護衛、DIYと様々だ。

 

平たく言えば、何でも屋ってとこか。

 

「そう言えば、忘れかけてたけど私勇者じゃん。戦えるかなー、って」

 

「まあ、戦いたいなら、好きにすれば良いんじゃないか?反対はしないが」

 

「それとやっぱり、憧れもあるよなー。冒険者、やってみたかったんだよね!」

 

「そうか?」

 

「あとは仲間達と悪の大魔王を倒しに行くのが定番ってやつだよな!」

 

「ルシファーを倒しに行くか?」

 

「い、いや、それは良いよ、迷惑だろうし……。ってか、あの人も魔王だけど百パーセント悪いって訳でもないんだよな……」

 

悪魔って種族も契約はちゃんと守ったり、知恵や勇気を示せば相応の態度を見せたりとか。完全な悪って訳でもないみたいだ。

 

逆に天使も完全な正義とは言えないよな。天使以外の種族を見下していたり、秩序や規則を破る者に対しては容赦がなかったり。

 

そんな印象だ。

 

「それじゃあ、冒険者組合に行くね」

 

「ついて行こう」

 

「ひ、一人で大丈夫だってば!」

 

「いや、十二歳だろう?門前払いもあり得る」

 

あ、そっか。

 

「ユートピアでは概ね、十五歳で成人だ。まあ、最年少の冒険者は六歳くらいのもいるそうだが」

 

「じゃあ私も大丈夫じゃないの?」

 

「念の為だ。それと、心配だしな。もう一度死にたくはないだろう?」

 

そりゃ、そうだけど。

 

 

 

冒険者ギルドに着いた。

 

各国に沢山あるらしい。もちろん、ここ、アルカディアにも。

 

本部はユートピア西のティルナノーグにあるとのこと。

 

役所みたいに大きな建物、二階建て。

 

中は……、お酒と、あとちょっと煙草の匂い。

 

エールがなみなみ注がれた鉄のカップで乾杯する冒険者達。

 

武器の手入れをしたり、モンスターから剥ぎ取った素材を持ち込んだり。

 

おお、それっぽい!

 

よし、と。

 

エルフの女の人の受付に話しかける。

 

「はい、ご依頼ですか?」

 

「あ、いえ、登録を……」

 

「あら?まだ子供なのに?冒険者は危険も伴いますよ?死んだりしても自己責任ですからね?」

 

「か、覚悟の上ですっ!」

 

「では、まず、登録料に千ゼニーをお支払い下さい」

 

金貨を払って、注意事項を聞く。

 

「それでは、ここにサインを」

 

「え、あ、日本語でも良いですか?」

 

「ニホン……?どこですか、そこは?」

 

「あ、えっと、ジパングです」

 

「あ、ジパング出身なのですか。ジパング語でも大丈夫ですよ、本人と分かれば良いので」

 

因みに、共通語は英語らしい。

 

翻訳の魔法がかかった指輪を貰って、装備してるから、気にならないけど。

 

さて、三ノ輪銀、と。

 

早速、冒険の始まりだ!!!

 

 

 

「最初の依頼は……、アルカディア南の平原の、ジャイアントード討伐、か」

 

真凛さんもついてきた。

 

見物してる。

 

『ゲコ』『ゲコ』『ゲコ』

 

「ああ、いたいた。それじゃ、変身!」

 

お、おお、本当に変身できた。勇者システムのまんまだ。

 

「行くぞぉ!」

 

地面を踏みしめて、斧を構えて突撃だ!

 

『ゲ』『コ』『ゲ』

 

うーん、バーテックスより全然弱いな。

 

まるで手応えないや。

 

でも……。

 

「うげっ、斧に血がべっとり……。ううっ、生臭っ」

 

あー、そういうのは考えてなかったなあ……。

 

 

 

「どうだった?」

 

「なんか、こう、返り血とかグロいね……」

 

「そういうもんだ」

 

「そういうもんかな」

 

でも、まあ。

 

「冒険者、続けてみるよ」

 

「そうか、気をつけろよ」

 

「うん、頑張る。せめてお小遣い分くらいは稼がないと」

 

頑張ろう……。

 




このままじゃ銀ちゃんがメインヒロインになっちゃうだろ!!!

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