「んお?」
なんだありゃ。
馬車が横倒れになって、何人かの剣士が野盗らしき奴らと戦ってる……、のかな?
商人が襲われてるとか?
サブクエストにありがちだな。
まあ、めんどくさいから助けないけど。
自衛隊だからとかそう言うの関係ない。誰だって自分が大事。それが俺、我如古雷という男だ。
いや、今は偽名でラインと名乗ることにしたんだが。DQNネームで良かった、異世界で役立つな。
俺は、街道の草陰に隠れる。
あれは……、奴隷商人かな。
貫頭衣の女が複数人いる。
「クソァ!何だってこんな!」
「げひひ、死にやがれ〜!!」
野盗の方が優勢だ。
奴隷の女の何人かは巻き込まれて死に、何人かはうずくまって震えている。
ん……?
一人……、白髪を短く切った、もうなんかものすごい極彩色に輝く瞳を持つ少女と目が合った。白髪ちゃん目つき怖っ!
「『ジエイタイ』の『ライ』お兄さん!助けてくださいっ!!!」
少女が叫んだ。
それと同時に、俺は駆け出した。
「『パイロキネシス』ッ!!!」
それにより、『奴隷商人とその護衛ごと』野盗を蒸発させる。
俺は女に近寄って、鑑定した。
×××××××××××××××
名前:レクノア
体力:H
精神:D
筋力:H
耐久:H
器用:G
知覚:G
学習:D
意思:G
魔力:D
魅力:C
スキル
教養:E
礼儀作法:E
全知の魔眼:A
×××××××××××××××
全知の魔眼。
なるほど、それで俺の心を読んだのか。
生かしておくと面倒だな、殺そう。
「待って!殺さないで!」
そんなん言われましても……。
「何だってするから!」
じゃあ死んでくれる?
「お、お願い、助けて……!」
腰の鋼の剣で首を刎ねてやろう。
苦しめるようなサディストじゃないからな。一撃で殺してやる。
ほらよ。
「いやっ!!!」
うお、避けやがった。
そうか、読心か。
仕方ないな、パイロキネシスで……。
「っ!」
お、そうか、パイロキネシスが何なのかもバレてるか。
だから、思い切り間合いを詰めて、俺に抱きついたんだな。そうすれば、パイロキネシスを使えば俺まで引火するから。
ふーん?
凄い能力だな。
「は、はいっ!私は凄いんです!だから、きっとライさんのお力になれます!」
でも、判断力がないよな。
間合いを詰められたら、こんな細っこい女一人、簡単に絞め殺せる。
「ぐっ……!!」
「すまん、生かしておくには危険なんだ」
「か、は……っ!お力に、なれ、ます……!」
うーん……。
俺は、少女の首を離してやる。
「かはっ、ごほっ!」
「嘘偽りなく答えろ。あそこの女奴隷は何を考えている?」
「ごほっ……、ライお兄さんに取り入って街まで保護させたら、裏切って衛兵に密告して金をもらって逃げようと思っています」
ふーん。
「なっ?!で、でたらめ言うんじゃないよ、この化け物女!!!」
「あの女は?」
「はい、私が心を読むから、表面上はどうやって媚びるか悩んでますが、考えてることは一人目と大差ないです」
「そ、そ、そんなことないわよ!私は本心から感謝を!」
「なるほど。あらかじめ聞くが、この中で俺に逆らわないと本当に心の底から思っている女はいるか?」
「一人もいません!」
よし。
女を一人ずつ始末していく。
そして、最後に……。
「あ、あのっ!ライお兄さん、私、役に立ったよね?だ、だから、殺さないで……!」
うーん……、どうしようかな。
確実に役に立つんだよな。もし、傭兵になって仲間ができた時、謀反の兆しが確実にわかるし、街中に紛れる暗殺者を見つけることも可能だろう。
「はいっ!できます!」
「だが、そうだとしても、俺の秘密を知る奴は生かしておけん」
「……勇者だから、ですね?」
「そうだ」
「聞いてください、ライお兄さん。勇者召喚は他の国もやっています。ライお兄さんと同じ世界から呼び出された勇者も何人かいます」
「で?」
「取引をしましょう。他の勇者の弱点を教えます。その代わり、私を助けてください」
ふーん。
「馬鹿だな、取引ってのは対等な立場同士でやるもんだ。無理矢理吐かせることだってできるんだぞ?」
「え、えっと、無理矢理吐かせるつもりなら、私は嘘をついちゃいます!」
「ならここで殺すわ」
「う、うう……。こうなったら、奴隷契約をしましょう」
ふむ。
メリットが見当たらないが……?
「奴隷は、主人が不利になるあらゆることをできません。やろうとすると、一時的に身体が動かなくなり、喋れなくなるのです」
つまり、百パーセント裏切らない、と。
うーん……、迷うな。
「奴隷にならなくても裏切るつもりなんてないですよ!でも、安全のために奴隷にして良いってことですよ?!破格の条件です!」
セールストークには騙されないぞ、現代人の若者舐めるな。
「セールストークって……。ここで本気のアピールしなきゃ、私死んじゃうもん!本気でアピールするでしょそれは!」
うーん。
「飯に文句は言わないか?傭兵になる予定だから、飢えたりするかもよ?」
「言いません!元から貧農の忌子なので慣れてます!」
「傭兵だからな、俺が死ねばお前はろくな死に方しねーぞ?」
「上等ですよ!その時は一緒に死にましょう!」
「お前も身を守るくらいは戦わなきゃ駄目だぞ?」
「もちろんです!」
そうか、なら。
「奴隷契約とやら、やってやる」
弟から借りたゲームソフトの箱を踏み潰して破壊してしまった。