大切な、本当に大切な親友。
かつて失ったはずの大切な人。
三ノ輪銀……、ミノさんが戻ってきてくれた。
魔法とか、蘇生とか、よく分からないけど。
大好きなミノさんが隣にいてくれるなら。
私は何もいらない。
「わ、凄い!身体が動くよ、ミノさん!」
「良かったな、園子!」
この、目の前の、雰囲気ゆるゆる系のハンサムさん、真凛さん。ゆるふわ系ではないところがミソだね。ふわっとはしてないんだけど、ゆるゆるではある……。
ちょっと可愛いかも?
そして、そんな彼が軽く呪文を唱えると、動かなかった身体が動き出した!
「凄い、凄い!分かる、ちゃんと、ミノさんの手の感触が分かるよ!」
「そっか、そっか……!」
喜んでいる私に、真凛さんは言った。
「しかし、再現率は六割だ。もっと能率を上げるには他の手段が必要だ」
「他の手段?」
私が聞き返す。
「良いか?乃木園子、お前の肉体は殆どが神樹に捧げられ、『死んでいる』。お前にかけた魔法は死霊術、つまり、死んだ肉体を動かす魔法だ」
「つまり……、私はゾンビ?」
「そうだな、ゾンビと言っても過言ではない」
ゾンビ……。
ゾンビかー……。
園子ちゃんも女の子だから、ゾンビになって復活ー、なんて、なんか嫌だなあ。
「ゾンビの肉体は、元の肉体の六割程の性能しかない。息もすぐに切れるし、力も半分、味覚もぼやけて、消化も遅い。嫌か?」
「それは、まあ、嫌だけど……?」
「そこで、だ。お前が望むなら、肉体を作り直すことが可能なんだよ。どうする?」
「作り直す?」
「そうだ、ゾンビになった部分を分解して再構成する。部分的に生まれ変わる感じだ」
「生まれ変わる……」
「因みに、オプションとして、人間以外に生まれ変わることも可能だぞ。天使、悪魔、龍人、獣人……、どれも人間より優れている」
えー……。
「なんか、それはちょっと怖いから、普通で良いんだけどな……」
「今なら無料、魔剣も三本おまけして……」
「真凛ー、園子を惑わせないでくれる?」
「いやいや、人間の身体は何かと不便だろ?人外になった方が便利だし美しいぞ」
「はいはい、私なら好きにして良いから、園子は普通にしてやってね」
「言ったな?!言ったな?!言ったからには後で犬耳生やすからな?覚えてろよ銀」
「良いよ、真凛に救われた命なんだから、真凛が好きにして良いんだよ」
ああっ、私の知らないところで親友が改造される約束を?!
それはともかく……。
「その、真凛さん。私、元に戻りたいです」
「分かった。それと、あまりかしこまらなくて構わない。俺は個人個人のキャラを大切にしたいから、へりくだられてキャラを曲げられる方が嫌だ」
「えーと……、お友達みたいに接した方が良いの?」
「友達以上でも構わないぞ」
「んにゃっ?!な、何で突然の愛の告白?!」
「可愛かったからつい」
「まーりーんー!」
「どうした銀」
「そういうのは……、良くないぞ!だ、駄目なんだぞ!」
「生娘め。俺は童貞じゃないぞ」
「んにゃなっ?!」
ああ……、私のミノさんが弄ばれてるうー……。
うー……。
「さて……、おぼこは放っておいて園子をどうにかするか」
「あ、普通でお願いね?普通で」
「……チッ」
何で不満そうなの……?
怖……。
「ほらよ」
ぱちん、軽い音。
「……うわ!凄い!元に戻った!」
身体が軽い!頭が冴える!
「ミノさん!」
「うわっ」
ミノさんを抱きしめる。
「えへへー、ミノさんあったかいー!」
「………………」
「んにゃあ?!な、なんで真凛さんまで抱きついてくるの〜?!!」
「ノリで」
ノリで?!
「あと真凛で良いぞ」
えー?
それはつまんないから……。
「んー、まーりんじゃ駄目?」
「俺をあのクソ野郎と一緒にするな……!!」
「ひえっ」
え?
何?
何の話?
「すまん、俺の師匠の一人にマーリンってクソがいるんだ」
「え?そのマーリンって……?」
まさか?!
「アーサー王伝説の、あのマーリン?」
「そうだ、あのマーリンだ」
「わー!凄い!じゃあ本当の本当に凄い大魔導師なんだね!」
「そうだ」
「マーリンに何を習ったの?」
「あいつには主に幻術や性魔術の類だ」
「性魔術?」
「ああ、性行為を始めとする粘膜接触などをキーにして発動する術式だ。試すか?」
「えっちなやつ?」
「そうだ」
「えっちなのは……、駄目です!」
まだ駄目!
もっと仲良しになったら、考えても良いかな?
「そうか」
「他はどんなこと習ったの?」
「ソロモン王とアレイスター・クロウリーに召喚術、スカサハにルーン、パラケルススに錬金術、ダイアン・フォーチュンにカバラ、メデイアに死霊術、キルケーに変幻魔法……。まあ、色々だ」
「………………はぇ?」
な、何それ?
「そ、その……、聞き間違いかな?伝説の魔術師が……」
「聞き間違いではないぞ。腹立たしいことに、俺の師匠は皆、超一流の魔導師だ」
え……?
じゃあ……、その……。
「凄くないかな……?」
「俺は凄いぞ」
い……、いやいや、凄いなんてもんじゃないよね?
名だたる伝説の魔法使いから魔法を習った大魔導師とか、凄いよね?!
じゃあ、真凛さんは……、本当の本当に凄い大魔導師なんだ!
「真凛さん、凄いんだね!」
「ああ、俺は凄い。あと、呼び捨てで良い」
えーと、じゃあ。
「りーくんって呼ぶね!」
「好きにしろ」
りーくん……。
りーくんかぁ。
りーくんは私の身体を治してくれた優しくてかっこいい、素敵な人だ。
ミノさんも狙ってるみたいだけど……、私も狙っちゃおうかな?
いかにユリスキーと言えども、私本人はノーマルだからね?
うーん、でも、明らかに距離が近いミノさんも多分狙ってる……。
ミノさんに悪いかな……?
でも、こんなに凄くて素敵な男の子、他にいないし……。
乃木家に残っても、政略結婚とかお見合いとか……。
どうせ、ろくな人と付き合えないだろうし。
りーくんと一緒に行くのが一番面白そうだねー。
まあ、そこら辺は追い追いで良いよね。
だって。
『この世界なんてどうでも良い』もん!
あ、でも……。
「あの、ね?助けてもらって図々しいと思うんだけど、りーくん……」
「お前の大好きな鷲尾須美ならば、他の勇者もだが、回収の手筈は整っている。世界の終わりと共に回収するつもりだ」
「本当に?!なら安心して『この世界を捨てられる』ね!」
「そうか」
この世界に未練なんてないし。
ミノさんもわっしーも助かるんなら、世界なんて勝手に滅びれば良いんじゃないかなぁ?
『こんな終わった世界より』もっと面白い世界に連れて行ってくれるんだって!
素敵な世界、ユートピア!
そこで私は、ミノさんと、後から来るわっしーと、一生幸せに暮らすんだ!
わっしー、今はたくさんお友達がいるみたいだし、わっしーのお友達は私ともお友達になってくれるかな?
それは、後々の楽しみとして……。
「さて、取り敢えずこれを」
「スマホ?もしかして……」
「そうだ、勇者システムだ」
「な、何で?私、嫌だよ!」
「違う、誤解するな。これは俺が魔法で作った礼装だ。マナとオドを使って擬似的に勇者になるものだ」
「えっと……?」
「俺が作った勇者システムだ。デメリットはない。しかし、満開には制限時間があると言う点は留意しろ」
「本当に、大丈夫なの?」
「園子、本当に大丈夫な奴だぞそれ。ほら、私も持ってるんだ!真凛式勇者システム!」
ミノさんの手には私と同じ色のスマホが。
「これを使って変身して大活躍してるんだー!」
「大活躍?」
「ああ!冒険者って言って、悪いモンスターと戦ったり、薬草摘みをしたり、たまに掃除とか子守とか、バイトっぽいこともする……。そんな感じだ!」
「ぼ、冒険者って……」
そ、それって、ネット小説投稿サイト「小説家になれる!」みたいな……、なれる系じゃ?!
「まあ、確かに、ちょっと危ない仕事だけど、給料は良いし……、一緒に冒険者やってみない?」
「ミ、ミノさんがそう言うなら」
危ないことなのかな……?
で、でも、ミノさんがそう言うなら私もやりたいかな?
「大丈夫だって!本当にヤバイ時は真凛が助けてくれるから!」
「そ、そうなの?」
「ああ!真凛は言ってしまえば、全能の神様みたいなもんだしね!この世界だって、地球より広いけど、真凛一人で全部作ったんだよ?」
「そうなんだ」
「っと、取り敢えず、城下街の案内と、ギルドへの登録を済ませよう!」
「では、これを」
「これは……?」
何かが入った袋。
じゃらじゃらと言う音がする。
中身は……、金貨だ!
「これって、お金?」
「小遣いだ。好きに使え。足りなければ言え」
「わ、悪いよ」
「気にするな」
良いのかなあ……?
「園子ー!こっちこっちー!」
「ミノさーん!待ってー!」
それから私は、ミノさんと色々なところを回った。
ユートピアのゴールデンドーン城。
ファンタジーな道具屋。
武器屋とか本屋も。
演劇とか、闘技場も。
凄い。
凄かった!
こんなに面白い世界にいられるなんて、幸せだよ!
りーくんとミノさんと一緒に、お城に行ったり遊びに行ったりして、楽しく暮らした。
そんなある日。
「鷲尾須美に会ってみるか?」
「え……?」
学校は夏休みらしい、夏の日。
りーくんは、わっしーとその親友の友奈ちゃんを呼び出した。
正直、どんな顔をして会えば良いのか分かんないんだけど……?
あっ、でも、満開と散華のことはちゃんと教えてあげなきゃ。
もう乃木のお家も大赦も世界もどうでも良いから、勿体ぶって意味深なことを言う必要はないし……、あ、でも、いきなりわっしーって呼んだら駄目かな……?
うーん、どうしよ?
「あの……?」
あ……。
駄目だ。
抑えきれない。
たとえ私のことを覚えていなかったとしても。
会えただけで、とっても嬉しい。
「……やっと会えたね、わっしー!」
「え……?」
「あー、えっと、わっしーって言うのは……、その、私の親友!貴女にそっくりなの!えっと、東郷さんと結城さんだよね?」
「「はい」」
「久し振り……、じゃなくて、初めましてかな?私は先代の勇者だよ」
「先代の……?」
「その、私達、真凛君にいきなり呼び出されて、何が何だか……」
「あ、それは、私が呼んだの」
「貴女が……?」
「そう。先代の勇者としてのアドバイスがあってね」
「アドバイス、ですか」
うーん、直球で良いかな?
何だか、りーくんに似てきちゃったかも?
「あのね、満開って分かる?」
「はい!凄いですよね!バーって強くなって!」
「あれ、副作用あるんだ」
「「………………え?」」
「散華って言ってね、満開した花は、あとは散るでしょ?それと一緒。一度使えば一つ、二度使えば二つ。何かが持って行かれるんだー」
「「………………!」」
あー、思い当たる節があるみたいだねー。
「私も満開を沢山して、ほぼ全身が動かなかったんだけど……、りーくん、ああ、真凛のことね、りーくんにお願いして、全部治してもらっちゃった!」
「そ、それなら、満開を使っても平気ですね!」
「ううん、そうかなあ?私の場合、全身が駄目になってたから、一から作り直してもらったんだよね。親から貰った身体を捨てても良いなら、満開を使っても良いんじゃない?」
「そ、そんな……」
「あ、あともう一つ。例え満開を使って使って、沢山使って、指一本動かなくなっても……、『勇者は死ねない』からね。動かない身体で生きるのは辛いってことはあらかじめ言っておくね!」
何せ、二年も体験したからね!
「「………………」」
「惨めなんだあ、自分でおトイレにも行けないし、ネットも携帯も使えない、本も読めない、季節が変わっても外を見ることができない……。平たく言って地獄だよ!」
「そん、な……」
「酷い……」
「でも大丈夫!りーくんが後で助けに来てくれるから!またバーテックスが出ると思うけど、頑張ってね!世界が滅んでから、こっち側に来てね!じゃあ、私、逃亡勇者だから、大赦に見つかったら捕まっちゃうんだ!バイバイ、わっしー!ゆーゆ!」
「待っ……!!!」
「ちょっ……!!!」
真凛製勇者システムの転移機能を使って、ユートピアに帰還!
「ただいま!ミノさん、りーくん!」
「おかえりー」
「おかえり」
「私も冒険者?って言うのやりたーい!」
「お、やるか!」
「晩飯までには戻ってこいよ」
「「はーい!」」
んぐぐぐぐ………………。
ゆゆゆは最終的なオチは決まってるんですが、そこに至るまでの過程が考えてないです。プロットガバガバで進行中。
今は新しく、転生勇者が現代に帰還して、実は現代日本の裏にあった魔法組織に対してオレツエーするss書いてます。人外ハーレムです。