ここは、トルニス帝国、パリス辺境伯領の街、リードルフ。
リードルフ周辺は、起伏の激しい岩場、いくつかに分かれた小川、鬱蒼とした森林と、自然に溢れている。基本的にはファンタジー系オープンワールドゲームみたいな土地と思ってもらって結構だ。
そんな自然を南に抜けると、大きな砦が一つ。ノイマイン砦だ。
帝国側と王国側の間は、「どうぞ戦争してください」と言わんばかりの平原である。シュタート平原と言うらしい。
実際に、数年に一度のペースでここで戦争が起きているそうだ。
ノイマイン砦は、その王国との定期的な戦争の時に使われる拠点である。
だから、この地には傭兵がかなり多いみたいだ。
……そうでなくても、自然の中に潜むモンスター達がいるからして、このリードルフには傭兵の需要は大きい。モンスター退治も傭兵の仕事だ。
俺は、しばらくここで金と実績を稼いだら、また別の土地に行こうかと思う。
さて、仕事だ。
内容は、ゴブリン退治。
害獣であるゴブリンの間引きとのこと。
ゴブリンの生態は、陸で生きる邪悪な猿ってところか。
武器を持っていることもあるが、能力的には人間の子供並み。知能は猿並み。
しかし、別種のメスを孕ませ、ほんの一月もしないうちに赤子が成体になる特性があり、積極的に間引きをするべき存在だ。
タイマンなら、大抵の傭兵が勝てる存在だが、ゴブリンは群れたり、道具や、簡単な罠を使ったりすることもあるので油断はしてはいけない。
「レクノア」
ゴブリンに奇襲をかけるぞ、先手を取れる位置に案内しろ。
「分かった、こっちだよ」
話が早くて大変結構。
「いた、あそこ」
森に入って一時間と少し。
早速ゴブリンを見つけた。
俺は、腰からサバイバルナイフを抜き放ち、音もなくゴブリンに駆け寄った。
「シィッ!」
『ギャッ!』
首筋にナイフを突き立てて、ゴブリンを殺害した俺は、そのゴブリンの鼻を切り取る。
ゴブリンの鼻は、ゴブリンを討伐した証になるそうだ。秀吉の朝鮮征伐みたいだな。
「次、あそこ」
「おう」
あ、二体いる。
「俺は左をやる。お前は右をやれ。できるか?」
「できる……、と思う」
「分かった、信用するぞ。三、二、一……、やれ!」
「『マナボルト』!」
『ギャッ!』
俺は、三、と口に出した瞬間から駆け出し、レクノアのマナボルトが着弾すると同時くらいに、左のゴブリンの間合いに入っていた。
「死ね」
『ギッ?ギャッ!ギャッ!ギ、ア……!!』
革手袋の掌でゴブリンの口を押さえてから、ゴブリンの腹に数回ナイフを突き立てた。
右のゴブリンは、マナボルト……、つまりは、魔力の光線にて破壊された。
触ってみたが、高熱って感じではなく、銃創のように穴も空いていない。
例えるなら、電気ショックのような何かのようだ。
左のゴブリンは、ナイフで滅多刺しにされて絶命している。
「次」
「次は……、洞窟にいる」
「洞窟?……ああ、本当だな」
洞窟にゴブリンが入っていった。
ふむ……。
「む?これは……」
鑑定。
《夾竹桃》
ふむふむ。
「レクノア」
「えっと、洞窟の中にはゴブリンしかいないよ」
それを聞いた俺は、近くにある植物を鋼のロングソードで斬り倒し、紐でまとめた。
それに着火すると、俺は、その植物の束をゴブリンの洞窟に投げ入れた!
そして、十分もすると……。
『ガァッ!カハッ!ゴハッ!』『ゴホッ!ゴホッ!』『オェッ、ゴホッ!』
多くのゴブリンがよろめきながら洞窟から出てきた。
それもそのはず、先程投げ込んだ植物には毒があるのだ。
毒ガスを洞窟に流し込んだ訳だな。
毒をたっぷり吸い込んだゴブリンは、吐瀉物を撒き散らしながら、洞窟から出てきた。
俺は、這いずるゴブリンの背中に刃を突き立てるだけ。
ん?何匹か、デカいゴブリンや赤いゴブリンがいるが、これは何だろうか?レアキャラ?
「大きいのがホブ、赤いのがレッドキャップ、人より大きいのが……、キングだね」
「ほーん、レアキャラか」
鼻を削ぐ。
「あ、それと、洞窟の中には生き残りのゴブリンはいないみたい」
「おけ、帰るぞ」
「こ、これは……!ギルドマスターを呼んでください!!!」
おおっと〜?
なんか大事の予感。
傭兵ギルドに帰還して、ゴブリンの鼻を百個くらい納品したところ、大騒ぎになってしまった。
いや、俺も、これは多分かなり多いんだろうなとは思っていたのだが。
それでも、ガチャを回す為に少しでも金が欲しい。
難しいところだが、俺は、より金が得られる方を選んだ。
レッドキャップや、ボブゴブリンなどのレアキャラも、倒せばたくさん金がもらえそうだと思ったからだ。
俺は公務員として安定した生活を送っていたが、この世界での俺は非正規雇用。
非正規雇用は……、と言うより、この世界では保険もクソもない。
自営業は会社員の倍稼がないとキツいなどとはよく聞く話。
何においても金!金!金!
まずはとにかく金!金!金!
自衛官として恥ずかしくないのか?黙れ、異世界転移者以外の発言は認めない。
やがて、ギルドの建物の奥から、「えっバイキングの方ですか?」みたいな、筋骨隆々な髭面のハゲが出てくる。こいつがギルドマスターらしい。
「こいつは……!オメエら、ホブに、レッドキャップ、キングまでやったのか?!」
「そうらしいですねえ」
「オイ!アンネマリー!」
「はーい!」
アンネマリー……、受付の女だな。平坦な胸の。
「こいつらは?!」
「はいー、えーと……、昨日登録したばかりのリクルートのお二人ですねー」
「ふむ……。どうやって殺した?」
「洞窟に巣食っていたので、毒草を集めて焼き、毒煙を洞窟に流し込んで、出てきたところを斬り伏せた……、ってところですね」
「ほう……、なるほどな」
ギルドマスターは、禿頭をペチペチと叩く。
考え事をしているようだ。
「おう、坊主。良いか?お前は良くやった」
「はあ」
「このゴブリンってのは雑魚ばかりで、ガキでも殺せるんだが、五十匹くらいの群れを作ると話は変わってくる」
ふむ。
「ある程度デカい群れになると、ゴブリンは、統率者である『ゴブリンキング』を生むんだ。ゴブリンキングは、ゴブリンを指揮して、組織的な行動をとる。それは、スタンピードっつう大規模なモンスターの侵攻だ」
「つまり、そのスタンピードとやらを未然に防いだ、と?」
「ああ、そうだ。しかも、これは……、ゴブリンの変異種であるホブゴブリン、上位種であるレッドキャップだ。もし、こいつらがスタンピードを起こしていたら、相当な被害を出していたと見える」
なるほど、で?
「異例の事態だが……、こいつは昇級もんだ!だが……」
「何ですか?」
「毒で殺したとなると、お前らの実力が証明された訳じゃあねえんだよな。もし、真正面から戦って倒していたんなら、一気にメンバー級まで上がってもおかしくなかったんだが……」
「なるほど、賢しいだけで力はないのではと、実力が疑問視されている、と」
「言っちまえば、そんな感じだ。俺が見たところだと、メンバー級にしてやっても構わないくらいの腕はあると思えるがな……」
「それでは、周りは納得しないと」
「そうだ」
「では、どうしろと?」
「適当なアプレンティス級と模擬戦をしてくれ。もし勝てたら、その場でアプレンティス級に昇格。負けてもトレイニーは確約しよう」
なるほど、な。
「分かりました、何人潰せば良いですか?」
やる夫がスカベンジャーになるやつ、メガテン4、フォールアウト、メトロ辺りを参考にするしかねえ……!