模擬戦で勝ったら、アプレンティス級に昇格。
そんな訳で、ギルドの裏の訓練所に移動した。
俺は木剣を渡され、レクノアは木杖を渡された。
まずはレクノアから。
レクノアには一応、杖術スキルを習得させておいたが、そんなものがなくても相手の動きが確実に分かるので何の問題もない。
「始めっ!」
開始の号令がかかった瞬間、アプレンティス傭兵の袈裟斬りを最小限の動きで躱すのと同時に、杖で喉を突き、倒した。
「ハハッ!凄えな!ありゃ未来が見えてる動きだ!正に『神眼』だな!」
ギルドマスターは快活に笑った。
次は俺の番だ。
俺は、木剣を八相に構える。
「何だありゃ?どういう構えだ?牛の構えでも、犀の構えでも、鳥の構えでもないな」
ギルドマスターは訝しげにこちらを見る。
「まあいい、始めっ!」
俺は、素早く間合いを詰めて、小手を打つ。
「あ、あああああああっ!!!!」
あ、へし折れた。
「ヒュウ!速いな!そして重い!」
ギルドマスターは口笛を吹いた。
うーん、あまりにも弱過ぎる。
「こんなもんなのか」
俺がそう呟くと、見物に来ていた他の傭兵がそれを聞いたらしく、いきり立って木剣を手にした。
「てめえ!」「舐めやがって!」「囲め!」
ふむふむ。
「ギルドマスター、これはやっていいんですか?」
「できるのか?」
「できますが……、殺してしまったらすいませんね」
「ほう!なら、やってみせろ!始めっ!」
「「「うおおおおっ!」」」
ここで一つ解説。
八相の構えを試合でやる奴はいない。
剣道なんて心技体などとくだらないことばかりの的当てゲーム。
だがこれは殺し合いだ。
なら、お行儀の良さはいらない。
左、逆胴。
右、突き。
後ろ、様子見。
俺は、右の突きを掻い潜る動きと、左の逆胴を避ける動きを組み合わせて、右の傭兵に突っ込む。
そして、勢いよく体当たり。
身長190cm超え、体重100kgほどある俺が、この世界の、幼少期に充分な栄養を摂れずに成長できなかった160cmもない小男に突進すれば、小男はピンボールみたいにはね飛ばされる。
そして。
「がああああああっ!!!!」
俺は大声で吼える。
「ひっ……!」
殺気と共に怒声を浴びせかけられた左の男は、一瞬立ちすくむ。声を出すのは護身術の基本だ。
その隙に俺は構え直し、素早く重い袈裟斬りを放った。
鈍い音が一つ。
左の男は鎖骨を叩き折られ、右腕が上がらなくなった。
それを確認するや否や、俺は振り返り、後ろの男が放っていた面打ちを払う。
「う、後ろから打ったのに何で?!」
風切音、踏み込みの音、息遣い。
それの上に、更にこの世界で得た察知のスキル。
それにより、俺は、後ろからの奇襲にも対応できた。
剣を払われた後ろの男に、面打ちを放って額を割ってやろうとしたところで……。
「やめっ!」
ギルドマスターの声がかかった。
「いや、素晴らしい!正に『荒獅子』だ!」
俺は、木剣も傍に放って、言った。
「これで、アプレンティスへの昇格は許されましたか?」
「いや」
は?何だてめえ?
「お前らは今日から、メンバー級だ!」
え?
「何故ですか?」
「こいつら、三人ともメンバー級だぞ?メンバー級三人を一瞬で、更に殺さないように加減して潰せる奴がアプレンティスであるものかよ!」
「はあ」
何はともかくやったぜ。
「俺としてはもっと上げても良いんだかな!流石に、これ以上はそうもいかん!すまねえな!ガハハ!」
「いえ、過分なお言葉です」
とりあえず謙遜。
「ガハハ!何だそりゃ、敬語ってやつか?アンネマリー!ついでに、こいつらのプロフィールに、教養もあると書いておけ!」
「はいー」
さあ、そんなこんなでとんとん拍子でメンバー級までに到達できた俺。
傭兵に限らず他のギルドでも、普通の人間では、リクルートからトレイニーまで数ヶ月、トレイニーからアプレンティスまで一年、アプレンティスからメンバーまで数年は要するらしい。
それを考えると大幅なショートカットだな。
だがまあ、俺は元から軍人だったからな。
それを考えると当然なのかもしれない。
例えば、商人ギルドならば、いきなり入ってきたリクルートは、文字も読めないし計算もできないことが多いらしい。
そこから、他の商人の丁稚として奉公し、その合間に読み書き計算を覚え、何年かそうしたのちに商人になるものだ。
リクルートの時点ではただの村人Aで、そこから最低限に使える奴だと認めて貰えば、トレイニーとして訓練開始。
最低限の訓練を終えて下働きを始めてアプレンティス。
下働きを終えて、一般的に正規のメンバーとして使える存在になって初めて、メンバーと呼ばれるそうだ。
俺は、その下積みの部分を地球でやったというだけの話だな。
何にせよ、一人前の傭兵になれたのは正に僥倖だった。
さあ、行こうか。
まだ序盤だから、と言いつつ、じゃあ山はどこだよ?と自問自答。