「……部長の予測では、来る確率は低い、だったけど……、来たんだね」
「あら、イケメンさんねー」
「でも、ちょっと軟派よねぇ。やっぱり男はライザー様みたいに男らしくないと!」
「そうそう!」
ライザー・フェニックス眷属、森へ偵察に行った組、シュリヤー、マリオン、ビュレント。
彼女達は、ユーベルーナの予想通り、リアス・グレモリーの眷属、騎士の木場裕斗と出会っていた。
「にしても、チャチなトラップと幻術、結界ね。この程度で誘い込めると思ったのかしら」
「……実際に、ここに来てるじゃないか」
「馬鹿ね、来てあげたのよ」
そんなことも分からないのか、とでも言いたげな雰囲気のシュリヤー。
「来てあげた……?」
「そ、分かってて来たのよ。全部ね」
「何故そんなことを?」
「手を抜いてあげないと、すぐ死んじゃうでしょー?」
「……成る程、部長の言う通りだ。僕達のことを舐めきっている」
木場のクールな表情に若干の怒りが浮かぶ。
「だったらどうするの?」
「力を、示す」
シュリヤーは鼻で笑って、こう返す。
「やってみなさい。私の愛に敵うならね。愛は絶対勝つんだから」
愛は絶対に勝つ……。シュリヤーの信条であった。
「確か命令は……、ステージの真ん中の体育館を抑えろ、だったっけ」
イッセーはそう独り言を言う。
「おお、スゲー、中まで完全再現かよ……」
体育館の中に入ったイッセーと、小猫。
イッセーは、悪魔の作り出した戦闘用の擬似空間の技術に舌を巻いていた。
「イッセー先輩、はしゃがないで下さい」
「はしゃいでないってば……。いや、でも悪魔の技術?魔法?って本当にスゲーんだな」
「……それは、私も最初は驚きましたけど。……!敵です、イッセー先輩」
小猫が言う。
「はいはい、来てるのは分かってるから。早く出ていらっしゃい」
パンパンと手を叩きながら、そう言うのは雪蘭。
ライザーの戦車である。
「一応、名乗っておこうかしら。私は雪蘭。ライザー様の戦車よ」
「私はミラ。旦那様の兵士」
「イルでーす」
「ネルでーす」
「「兵士でーす」」
と、ライザーの眷属が出揃う。
「ん、あの子は……!」
イッセーの目に、大鎌を抱えた女が映る。
「あの子は、あの時の!」
前に、ライザーが急にオカルト研究部の部室に現れ、不躾にも部長に『イメクラ嬢やんけ!!』と言い放った時にいた……!!
「(落ち着け!二週間も必死に修行したんだ!今なら勝てる!!)」
自分が手も足も出なかった相手を前にして、動揺を見せるが、必死に自らを律する。
二週間、それがリアス眷属に与えられた時間だった。リアス眷属は、今日のレーティングゲームまで、二週間ずっと修行に励み、自信と実力をつけて来たのだ。
「それじゃ、軽く相手になってあげる」
軽く言い放つ雪蘭。
「あの戦車、強いです……」
「小猫ちゃん?」
「私じゃ測りきれない……。相当な強さを持つと見て良いですね」
「マジかよ、力が測れないって、相当な差があるんじゃ……」
「言っても仕方ありません。イッセー先輩は兵士の方を相手して下さい。最悪、逃げ回るだけでも……」
「お、おう。まあ、良いか……。どの道、やることは決まってるもんな!」
「行きます……!!」「赤龍帝の籠手!!」
二人は、駆け出した。
自分達の勝利を夢想して。
しかし、いつだって、そう、いつだって……。
「か、はっ……?!」
「ぐぅ……?!」
現実は、厳しいのだ。
「く、うぅ……」
「あら、小柄な割にはパワーはあるのね」
「どうなってるんですか、貴女は……!!」
リアス・グレモリーの戦車、塔城小猫は、己の力と雪蘭との力との差に絶望しかけていた。
何せ、全く「見えない」のだ。
まず、間違いなく、全力じゃない。
しかし、その力の一端すら見られないのとは、どう言うことだ。
「(速い……、重いッ!!)」
その上、単純に、
「ほらほら、守ってるだけじゃ始まらないわよ!」
リーチの差……。小柄な小猫は、長身の雪蘭の足技に翻弄されてしまうのだ。
「ほらほら、打ち込んで来なさい」
「やぁっ!!」
態と見せられた隙。誘われていると分かっていながら、打ち込む他ない小猫。
まるで上級者との武術のお稽古のように、完全に行動を抑制されている。
自分の思うように手を出せない。
その事実は、小猫の心を酷く掻き乱した。
精神的な不安を抱えながらも繰り出した一撃は、
「まだまだね」
容易く弾かれた。
「ふぅ、はぁ……」
「そう、深呼吸して、一旦冷静になりなさい」
「くっ、馬鹿にしてるんですか!」
「嫌ねぇ、馬鹿になんてしてないわよ。ただ私は、貴女達を応援してるの。是非、私達に勝って欲しいわ」
「……ッ!!」
馬鹿に、されている。
小猫はどちらかといえば温厚な性格だが、こうして侮辱されて黙っていられるほどではない。
「はぁぁぁ!!!」
「そうそう、その調子!」
だが、ああ、なんてことだろう。
必死に放った拳は容易に受け止められ、
「行くわよ、防ぎなさい!スピニングバードキック!!」
「ああああっ!!!」
敵の攻撃は重く、響いた……。
「痛ッ……、ああっ」
「ふーん、こんなもんか。まあ、二週間でこれならまあまあじゃない?」
大鎌を肩に抱えながら言うミラ。その表情には余裕が見られる。
「えー、ミラ甘ーい」
「私達的には失格かなー」
イルとネルはその一方で辛口の評価を下した。
「そりゃ旦那様レベルの目線から見るからでしょうよ。素人からこれならまあ、及第点くらいはあげてもいいはずよ」
失格の烙印を押されたイッセーは悔しそうに呻く。
「ち、く、しょう……!!」
その怒りをバネに、一撃を放つが。
「波動拳!!」
「ぐぅあ!!!」
その一撃を潰されるように、気の塊を叩きつけられた。
強烈な攻撃に堪らず、イッセーは倒れこむ。
「何だよ、今のは……!!」
「んー?これ?」
イルが口を開く。
「これは波動。所謂気功の類だよー。私、イルと、妹のネルが使う技術。技術、だからね。頑張って鍛えたの」
「き、気功?!ドラグ・ソボールかよ?!」
「あ、ドラグ・ソボール?あれは名作だね!」
「お?あの漫画の良さが分かるなんて、中々の女の子だな!」
「でも最近は設定がゴチャゴチャしてきてよく分かんないよね」
「それを言っちゃおしまいだぜ」
「……イル、敵とお喋りするんじゃないの」
冗長な会話をミラが止める。
「ほら、赤龍帝!立ちなさい!リアスお嬢様を守るんでしょう!こんなところで立ち止まってる暇はないわよ!」
「!!、そうだ、俺は、部長(の処女)を守るんだ……!!行くぜ!!」
はっ、とした様子のイッセーは、立ち上がり、拳を振り上げた。
「うおおおおおお!!!赤龍帝の籠手ァァァ!!!!」
《Boost!!》
「おっと!……力を倍加させての打撃ね!でも、素の力がそれじゃあ、ねっ!!!」
「ぐうっ!!」
しかし、それでは。
それでは足りない。
圧倒的に。
「く、くそ……!触りさえすれば……」
「……あのね、言っておくけど、分かってるわよ」
「……え?」
「私、こう見えてもそれなりに賢いのよ。魔法は使わないけど、知ってるわ」
「………………」
「その術式、手で触れた相手の服を剥ぎ取るみたいね」
「あ、あう……!」
「……イッセー先輩」
「こ、小猫ちゃん?」
「……最低ですね」
最低である。
「まあ、仮に私に触れられたとしても意味はないけどね。私は魔力の殆どを身体強化と魔力へのレジストに使っているの。その術式で私達の服を剥ぎ取りたいなら、その十倍は強化しなさい」
「ち、畜生……!」
「さて……」
「「それじゃあ……」」
「終わりにするわよ」
「「!!」」
ライザー眷属四人が動く……!!
「今よ、ユーベルーナ!」
「くっ、何だ?!」
「イッセー先輩!外から魔力の反応が!!」
「ま、まさか、体育館ごと俺達を?!!」
「荒れ狂う炎灼の消滅結尾(フレイムバニッシャー)!!!!」
「うわあああああ!!!」「きゃあああ!!!」
悲鳴をあげる一誠と小猫。
しかし……。
『ライザー様の戦車一名、兵士三名、リタイア』
極太の破壊光線が「ライザー眷属四人を」飲み込んだ。
「「………………えぇ(困惑)」」
田舎に帰りてえだべー。