見た目は豪華で味は不味い食事をした私達は、大き目の部屋に案内されました。
なお、途中でお手洗いを借りようと思ったのですが、トイレはおまるでした……。現代人の私からすれば酷い辱めです。うう、死にたい……。
部屋は、まあ……、ヨーロッパ的な……。
特に詳しくはないのですが、ベッドに毛布があるので、最底辺ということはありませんね。
さて、と。
相談タイムですね。
私は、大学ノートに色々と異世界で考えられる注意点を書きました。
「フーカ?何書いてるデースか?」
アンジェラさんが話しかけてくる。
「日記みたいなものですよー、見ますか?」
「見るデース!」
『まず、これを読むとき、声を上げないでください。
なんで筆談なのかというと、もしかしたら、密偵みたいな人に監視されてるかもしれないからです。
ここが、中世並みの文化を持つ異世界だとして、考えられる注意点を書いておきます。
・日本の宗教観で他人と接すると異端者扱いで処刑
・衛生レベルが低いから、なんらかの手段で身体を洗わなければならない。魔法が使えたら、それで身体を洗うべき
・現代知識チート!とか間違っても思ってはいけませんよ!下手なことをすれば異端者扱いで処刑です!
・貧弱な私達が今ここを脱走しても、すぐに野垂れ死にです。とりあえず、ここで体力をつけておきましょう。食事は美味しくなかったですが、たくさん食べて力をつけなきゃ死んでしまいます
返事は筆談でしてください。』
この文章を読み終わったアンジェラは、全てを察してこう言ってくれた。
「あは、ははは!面白いデース!ヒナタとアキラも見て下さーい!」
「え?なになにー?」
「はぁ、もう、何よ……?」
そして、ひなたさんとあきらさんはこれを見て……。
「なっ、なるほどー!面白いねー!」
「あは、ははは、面白いわね!私達も日記を書きましょうか!」
「ああ!良いデスねえ!私も書きマース!」
と、みんなノートに書き始めました。
察してくれて助かります。
まず、ひなたさんから。
『ありがとー!助かるよー!
これってどう考えても激ヤバな展開だよねえ!
それと、私からも報告ね。
おじさんについて。
おじさんは、何らかのチート能力を持っていると思う。
巻き込まれ転移者はチート、ってジンクスだけじゃなくって、あのおじさん、泣いたフリして、名前も偽名っぽい。
多分、役者さんだと思う。あんなみじめなかっこ悪いおじさんを、わざわざ演じているんだよ。
すごーく、あやしいよね。
だから私は、あのおじさんに恩を売るようにするよ。
もしかしたら、ものすごーくチートな能力を持ってて、私達を保護してくれるかもしれないし。』
次にあきらさん。
『分かったわ、ありがとう、気をつける。
で、あのおじさんを支援するって事ね。
それと並行して、私達の訓練ね。』
そしてアンジェラさん。
『OK、thanksです。
この世界、アブナイですね。
クンレン、大事。でも、誰かを殺したり、私、自信ないです。
でも、やらなきゃやられる。
おじさんを助けるのはagreeです。でも、演技とか、見てもよくわからない。演技してたでしたか?わからないです。
でも、ヒナタは演ゲキ部なので、見ればわかるですか。わかりました。』
最後に私が続きを書き加える。
『分かりました、報告ありがとうございます。
そして、あのおじさんについてですが、私も不審に思っていました。
お名前を花形敬と伺いましたが、花形敬というのは、昭和の有名な暴力団員です。恐らくは偽名かと思われます。』
よし、と。
にしても、あのおじさん、何者なんでしょうか?偽名とは言え、暴力団員の名前を名乗るとは……。
「あー!日記に書き忘れてた事思い出したー!」
ひなたさんがそう言って、更にノートに何かを書きました。
『おじさんの正体、分かったかも!
あのおじさん、多分、元覆面ライダー俳優の鬼山景虎さんだよ!
覆面ライダーのスーツアクターとか、ヤクザ映画とか!この前は、ドラマ「青の飛沫」の主演男優!
高校の頃、新体操のインターハイで準優勝、筋肉もモリモリですごい人だよ!』
鬼山景虎……、鬼山景虎さん!
そうですね、あの顔は鬼山景虎さんです!
弟と一緒に見ていた覆面ライダーの敵キャラクター役でしたね!
あきらさんとアンジェラさんも思い当たったらしく、目を見開いていた。
『そう言えば、インタビューでギャング映画やVシネマが好きだとおっしゃっていましたね!通りで、暴力団員の名前を偽名に名乗ったのですね!』
『確かに、あの人ってそうよね?!』
『オー!ダークライダー「ベルフェス」ですね!』
みなさん、分かったようですね。
「っと、そうだ!おじさん、食事の時食堂にいなかったよね?食べ物もらえてないのかも!」
ひなたさんがそう言いました。
確かにそうですね……、心配です。
「そうね、それと、毛布とか持って行ってあげましょう!」
「ええ、そうですね!」
「じゃあ、行きまショー!」
景虎さんに、パンとチーズ、ワイン一瓶に毛布を一枚渡しました。
ふわあ……!
本当に、憧れの俳優さんである、景虎さんですぅ……!
こんな間近で見れるとは、びっくりですね!
私達、四人とも景虎さんのファンなんです!
ふわぁ……、シブい……、カッコいい……!
興奮を抑えながら、恩を売っておきます。
景虎さんは、相変わらず、情けないおじさんを演じているようですね。
そして次の日、訓練をすることになりました。
服は訓練用の、麻のシャツに革のズボン、硬いブーツでやるそうです。
ブーツは新品らしく、革が硬いですね。
景虎さんは作業着のままですね、訓練用の服を用意してもらえなかったみたいです。
そして、魔法が使える人、武器が使える人、それ以外の人に別れました。
あきらさんは魔法、アンジェラさんは武器、私とひなたさんはその他。
能力の使い方はなんとなく分かるので、手当たり次第使ってみます。
「『大地の神秘』!」
すると、地面に穴が空いた。
大地の神秘はもっとすごいことができますが、隠しておきます。人に見られると不味いですから。
「『地図作成』!」
こ、これもまた、すごいですね……!
リアルタイムで更新される半径一キロの衛星写真ですか……。
「『ものまね』!」
ひなたさんの『ものまね』は、見たことがあるノーマルスキルを三つまでストックして、『MPを消費せずに』模倣できるスキルだそうです。
それって、ずるくないですか……?
「『火遁の術』ッ!!!」
アンジェラさん、火を吹いた?!
あれが忍術ですか……。
「『ファイアアロー』!」
魔法!すごいですね!ファンタジーって感じです!
後で聞いた話ですが……。
黒魔法は攻撃魔法。
白魔法は回復魔法。
赤魔法は強化魔法。
青魔法は妨害魔法。
緑魔法は工作魔法。
銀魔法は時空魔法。
金魔法は古代魔法。
そんな分類らしいですね。
レベルは、人でもモンスターでもなんでも、殺せば高くなり、スキルレベルは、そのスキルをたくさん使うとレベルが上がるそうです。
最初は、走り込みとスキルの扱いを習います。
もちろんスパルタでしたが……、私達はどうやらスキルだけではなく、身体能力もチートだったようです。
私達はまだレベル1なのに、レベル10くらいの正規兵並みのステータスがあるそうです。
とは言え、それでも、何人か脱落者は出ましたが……。
かく言う私も体力ないので、走り込みで最後まで走れなかったです……。
景虎さんは、訓練開始三十分もしないうちに、弱音を吐いて倒れました。
鬼山さんはレベル1で、ステータスも子供並みとのことです。
絶対嘘ですね……。
なんか、読者の皆様はざまあ的な展開をお望みのようですが、そこまで盛大なざまあにはならないんじゃないかなこれ……。
勇者達、無理な戦争に駆り出されて、心身をぶっ壊しつつも敗退
↓
その頃、おっさんは、ヒロイン四人を嫁にしつつ、手柄を立てて大国で貴族になる
↓
勇者達は野盗同然の集団となる
↓
おっさんの領地は、ネットスーパーにより栄えて、世界一の先進的な大都市に
↓
そこに、落ちぶれた勇者達が噂を聞きつけてやってくる。そして、同じ世界出身のよしみで養えとかわがままを言う
↓
おっさんが「なんやこいつら……、怖……。とずまりすこ」と街から追い出して、キモい人たちのことを脳内から消去して、遊んで暮らす
みたいな、勇者達はものすごく不幸にしてから殺します!的な報復要素はないと思いますよ……?
って言うか、作者の俺が、一番惨めなのは見下されたりするよりも、「なんやこいつら……。キモ……、引くわ……」みたいな感じで、憐みの表情をされる方がずっと惨めなんだよな、と考えているってのがありまして。