私、岬風香は、絶句しました。
凄い。
その一言に尽きます。
それは、私達が四人がかりでなんとか殲滅した盗賊団を、たった一人で、一分もしないうちに倒したその力を指して。
それは、盗賊団を皆殺しにした後、盛大に吐いて、子供のように泣き叫んでしまった私達と比べて、人を殺した後も一切の変化が見られず、平静そのものであるその精神力を指して。
二つの意味で、景虎さんは凄かったのです。
一度目の盗賊団の襲撃に対して、私達は命をかけて戦いました。
それは、ある種の儀式であり、洗礼でした。
あの戦いの意味するところは、私達も、『仲間のために命をかけて戦える』存在であると示すためのもの。
事実上、私達は、圧倒的な力を持つ景虎さんに保護されています。景虎さんがその気になれば、私達なんて全くいらない存在であることは確かですね。
陽さんやアンジェラさんは気づいていないようですが、私達が人殺しができると価値を示したところで、立場は対等ではなく、景虎さんと私達は、主人と奴隷の関係くらい溝があります。
つまり、景虎さんの配慮の上で成り立つ『仲間』という立場にいるのです。薄氷の上、砂上の楼閣、ですかね……。
景虎さんは、仲間は平等であるとか、一方的に頼られる存在はフェアではないとか、そう言った思考回路をしているんだと思います。
恐らくは、とてつもなく心が強い人間なんでしょう。
なので、他人にも、自分と同じ……、とまではいかなくても、自分に近いくらいの精神性を求めてしまうきらいがあるようです。
前の街で、貴族の使いを晒し者にして謝らせたのも、その『フェアな勝負をするべきである』という心情のまま行動したからでしょうね。人が人に一方的に、上から目線で何かを要求されるのが我慢ならなかったのでしょう。かなりプライドが高い人間であることが窺えます。
にしても、『フェアに』と言うのは、酷く子供っぽいですが、あまりにも正論で、だからこそ人を傷つける意見です。
人間は、そんなに強い生き物ではないのですから……。
景虎さんは強い。
そんな景虎さんの提示した、仲間として認めてもらうための入社儀式が、殺人の完遂であったのでしょう。
仲間のためなら殺人すら厭わない存在ですよ、と私達が自らの価値を提示したことで、少なくとも、事実上、奴隷として飼ってもらえるくらいまでの地位には立てたと思います。
そうです、殺人ほどのことをして、やっと奴隷の立場です。
景虎さんは『フェアであること』に拘る人なので、仲間として扱ってはもらえるでしょう。
しかし、私達に何ができるでしょうか?
景虎さんのように、安全な水と食料をいつでもどこでも用意できるのか?
景虎さんのように、清潔な毛布と天幕を用意できるのか?
景虎さんのように、衛生環境の整った風呂場や洗面台を用意できるのか?
できませんよね。
では、私達が景虎さんに返してあげられることとは何か?
それが、血を流して戦うことだけなんですよ。それが、最低限できることです。
命がけで、景虎さんを守るために戦うこと。私達が景虎さんに受けた恩を返すには、それしかできないんです。
だから、殺し合いをさせられたんですね。試験として。
景虎さんを守るために、命がけで殺し合いをする。これが、これから景虎さんと対等に付き合っていく上で、私達がやるべき最低限のことです。
ああ……、にしても、景虎さんは凄い。
まさしく超人ですね。
脳漿が飛び散り、内臓がこぼれ落ちたあの地獄のような情景を作り出したにも拘らず、今は、血の滴る3ポンドのステーキと山盛りのガーリックライスを美味しそうに食べているのですから。
昔、死体処理業者さんの実録エッセイ漫画などを読んだことがあるのですが……、常人であれば、死体を見た日は、肉類などとても食べられず、それどころか、食事すらろくにできないのが普通だそうです。
ところが景虎さんは、あれだけの殺戮を成した後に、山ほど肉を喰らっています。
肝が太い、などという言葉ではまとめられないくらいの、超人的なメンタルの持ち主です。
強い……、とても強い人。
この段階から彼の庇護下に入れたのは幸運でした。
次は、できることなら抱いてもらいましょう。
先ほども考えましたが、彼のために人殺しができて、ようやく部下として認められるのです。
であれば……、後、私達が渡せるものと言えば、無駄に守ってきた貞操のみ。
この世界の商売女は、梅毒などを持っているのもよくあると聞きます。
であれば、生娘である私達は、安全な存在。
彼の情婦になれれば、より立場は安定するはずです。
もしも、愛していただけたならば、大切にしてもらえるかもしれません。
末長く関係を続けるためには、彼の愛人になるべきですね。
……とは言え、恋愛の経験など一切ありませんから、どのように誘惑すれば良いのか全くわからないのですが……。
まあ、焦っては事を仕損じます。
ゆっくりと距離を詰めていきましょう。
「景虎さん、よく食べますね」
「ん?ああ、昔から大食いでな」
「たくさん食べる男性って、男らしくって素敵ですよ」
「そうか?」
「はい!私達、景虎さんの大ファンですから!今日は守ってくださってありがとうございました!ナイト様から守っていただけるだなんて、まるでお姫様になったみたいですね」
「ナイト様、ねぇ」
軽く笑う景虎さん。
その笑みは、喜びなのですか?それとも、私を馬鹿にして?
まあ、褒めるのはタダですからね。
毎日たくさん媚を売りましょう。
好きなガンダム?
ディープストライカーですかねえ?
もしくは重装フルアーマー7号機?
好きなモビルスーツならフライルーとか?