奴隷を買う。
その為に、青蜥蜴商店という裏通りの店に行く。
奴隷商人も、どちらかと言えば賎業なのだ。
職人の花形と言えば、金物細工や絹織辺りの、高価な奢侈品を作る人が偉い!みたいな価値観だそうだ。
逆に、安価な日用品を作る職人は賤しい、ランクが低い扱い。
奴隷商人も、このような低級な奴隷を扱う奴は立場が低い。
しかし、それよりも、俺達外国人は立場が低い。
「はいよぉ……、って、なんでえ、外国人か」
店員の薄汚れた中年も、最初は揉み手に笑顔で現れたが、俺達の顔を見るとすぐにやる気をなくしている。
現代社会で、客の人種を見てから露骨にやる気をなくすとかやったら、下手すりゃクビだよなあ。
「外国人には売らないのか?」
「へっ、金があんなら誰にだって売ってやるよ」
丸く膨れたビール腹をポンと叩いた店主らしき中年は、そのまま店の奥へと案内してきた。
言われるがままついていくと、牢屋のようなところに連れてこられた……。
「見たところ、商人か何かだろ?読み書きができる技能奴隷か、あとは性奴隷ってところか?」
「ああ、それ以外にも才能があるやつなら積極的に買いたい」
「あぁ?お前……、まさか、『鑑定』のスキル持ちか?」
ん?あー、希少なのかな?
「くくく……、どうだろうな?だが、俺をぼったくることは難しいとだけ言っておこうか」
と、はぐらかしておく。
「チッ、クソが。しゃあねえな、まあ、適当に見ていけよ」
うっわ、態度悪ぃなあ。
さて、鑑定していくか……。
で、鑑定結果を四人娘と共有して、相談する。
相談の結果、候補に上がったのは四人だ。
まず一人目。
バイロンと言う元傭兵。負け戦で殿を押し付けられて捕まったそうだ。
読み書きはできないようだが、数を数えたり自分の名前くらいは書けるらしい。
そして、C〜Bランク冒険者くらい戦えるようだ。
あと数十人規模の軍団の指揮も執れる。
ここにいる技能奴隷としては一番の当たりらしく、値段は金貨三十枚。
続いて二人目。
ローガンと言う元盗賊のハーフリング。盗賊団から足抜けしようとしたところ、失敗して捕まって売られたそうだ。
読み書きはあまりうまくできないようだが、金勘定は上手く、金になるものの名前なんかは読めるそうだ。
鍵開けや忍び足などのスキルを持ち、戦闘もちょっとはできるし、裏社会での事情に詳しい。
値段は金貨十五枚。
三人目。
ロボと言う狼の獣人。奴隷狩りに追われている同朋を逃して、代わりに捕まったそうだ。片目を抉られている。
読み書きは全然できないが、槍投げで狩りをする狩人だったそうだ。
また、獣人なので匂いにも敏感。
肉体が大きく力も強い。
値段は金貨二十枚。
四人目。
ミレディーと言うエルフの女。奴隷狩りに全力で抵抗したらしく、全身ズタボロ。
具体的には、左腕がなく、右足が切断され、片目を抉られ、耳を千切られている。
しかし、読み書きはバッチリで、計算も数学の領域までできるし、黒と白の魔法も使える。
元々は美しいのだろうが、顔が焼かれているのでよく分からない。
値段は金貨三枚。
それに、健康そうな人間の男を十人と、獣人の男を十人。ハーフリングの男を十人。
ミレディーの妹というエルフの女、ケティとか言う欠損奴隷……、こいつは特に念入りに顔を焼かれている……、このケティとか言うのも購入。
アンヌとシャルロットという、顔面を切り刻まれ、乳房を切り取られた女エルフの二人も購入。
こんなもんだろう。
金貨四百枚ってところか。
「へへっ!なんでえ、外国の黒髪野郎だと思ったら、金持ってるじゃねえか!儲けた、儲けた!」
大笑いしている店主に礼を言って、傷ついているエルフ女四人を馬車に押し込み、町外れの誰もいない空き地へ。
奴隷。
この世界においては、青魔法の一種である『契約』という魔法で、契約の神『マスカウ』に誓いを立てることができる。
神の契約なので、破れば天罰で即死するらしい。
奴隷というのは、自らの持つ全ての権利を、その契約の魔法で主人に売り渡した存在なのである。
「……と、そういう訳らしい」
「怖〜……。捕まって奴隷になるくらいなら自害した方がマシだね」
陽がそう言った。
まあ、そうかもしれんが、実際に奴隷になっている彼らの前でそう言うのは酷いんじゃないのかね。
それに、俺のようにまともな主人に拾われれば、まともな生活ができるんだし、賭けてみる価値はあるってことだろう。
特に技能奴隷なんかは、技能を生かすために生かされるだろうし、そこまで酷い生活にはならないはず。
欠損奴隷になるくらいなら、戦いで怪我をして自らの価値を落とすようなことをせずに素直に捕まり、技能奴隷になった方がマシ……、というカラクリだろう。
連れてこられた技能奴隷や、健康な奴隷達は、あまり悲惨な表情をしていない辺り、その辺の事情が垣間見えるな。
さて、まずは格付けから始めようか。
俺は、奴隷を見回して、声をかける。
「俺が諸君らの主人のティガー・コルレオーネだ」
「「「「………………」」」」
反応は……、まあ、普通だな。
「この中で一番強いのは誰だ?」
「あー……、俺でしょうね」
手を挙げたのは、元傭兵のバイロン。
俺は、バイロンの枷を全て外して、陽の腰から鋼のファルシオンを借り、それを渡した。
「……何の真似です?」
「かかってこい」
「はあ、やれってんなら、やりますが……ねぇっ!!!」
判断が早い。
バイロンは、素早く足元の砂を掬い上げ、俺の顔面に引っかけた。
傭兵らしい、ダーティーな技だ。
だが俺は、そんな砂を全て収納する。
しかし……、次の瞬間には、バイロンの剣の一撃が迫っていた。
俺はそれを、指二本で摘んでやった。
「なっ……?!!!」
俺は、動揺したバイロンに素早く蹴りを入れて吹き飛ばした。
「があアッ……」
さて……。
「実力の差は分かったかな?こちらはいつでも、君達の首を捩じ切れると知っておいてほしい」
と、俺は宣言した。
五人くらいで囲んで殴っても勝てないとかこれもうバグだろ……。
第二形態の隕石爆撃がどうしてもどうにもならない……。
やはりガン盾は不利なのか……?