「どこに行くの?」
「ん?うーん、この近くに街とかないか?」
「えっと……、博士は、『ジュージョーダイ』の街に行くって言ってたよ」
「じゃあ、まずはそこに行くか」
十条台。
自衛隊駐屯地がある地域だな。
十条台の街に移動するにあたって、俺は、行商人に偽装することにした。
いやそりゃ美容師なんだから美容師の名目で街に入っても良いのかもしれんが、旅する美容師ってのは謎だろ?だから、空気を読んで行商人にしておいたんだよ。
そして……、クイナは、数回だけだが、街に行ったことがあるらしい。博士の隣で色々と見ていたとのことだ。
その、クイナが見聞きした情報をもとに、身支度を整える。
それだけじゃなく、不可視化したパンチをあらかじめ街に潜入させて、街の中で情報収集をさせる。
ああ、その気になれば、俺はパンチと視覚聴覚を同期できるんだ。
それで偵察したので、色々とバッチリだ。
その結果、こんな感じになった。
まず服装はそのままで良いとして、俺とクイナは腰に護身用のグロック17というハンドガンを装備した。
その予備弾倉を、腰の左側に二つ、専用のホルスターに付けておく。銃本体は利き手側の右だ。
銃は、あまり持っている人は多くないのだが、丸腰の人ってのがそもそも少ない。威嚇のために武器は持っておくべきだとクイナから聞いた。
服装は、ミュータントの革やミュータント化した植物……、大麻などから作られるものがメインらしいよ。
余談だが、大麻は麻薬にもされていて、割と流行っているそうだ。
北国『ホッカイドウ』での大麻利権の話なんてのも調べたが、全体的に世知辛かった。
そして、乗り物はLAPVエノク軽装甲車。四駆じゃないとこの破壊された道路は無理だし、防弾じゃないと怖い。あ、エノクはドイツの装甲車ね。
そんなエノクの後ろの荷台に荷物と商品を詰め込む。
乗り物は、非常に珍しいらしい。
道端に見かけるが、ちゃんと動く車は希少とのこと。普通は牛馬のミュータントなどに荷物を運ばせているらしい。
荷物は、散髪に使うハサミと櫛のセットに散髪マント。それと演奏用のサックス。商品は、戦前の食料と嗜好品だ。ついでに武器弾薬もつけちゃう。
さあ、これで万事OK!
十条台の街へレッツゴー!
検問。
十条台自衛隊駐屯地の街の周りには、自衛隊駐屯地としての柵に幾つかの車や平積みタイヤ、土嚢などでバリケードが設置されていた。
北側にある正門は、手動で開閉する門であり、門の前には、狩猟用水平二連のショットガンを持った衛兵が二人。
俺は窓を開けて、衛兵に呼びかける。
「おおい、開けてくれ」
「何者だ?」
「しがない行商人だよ」
しがない、ね。とてもそうは見えないだろうが、訳有りの人間に突っ込んではこないはずだ。
「そっちの女は?」
「可愛いだろ?恋人なんだ」
「ふむ……、荷物を検めさせてもらうぞ」
「えー……?食品とかだぞ?べたべた触られたら売り物にならなくなる」
「見るだけだ」
「はいよ、っと」
俺は車から降りて、トランクを開ける。
「この段ボールは?」
「戦前のカロリーバーと、缶コーヒーに、紙パックの焼酎だ」
「この黒い箱は?」
「これはサックスって楽器だ。俺の私物」
「これは?」
「散髪用のハサミ」
「この銃器と弾薬は?」
「売り物だ」
「ふむ……、騒ぎを起こさないようにな。よし、通れ!」
はい、勝ち〜!
十条台の街。
自衛隊の駐屯地を改造して作られた街で、周辺にある学校施設も街の一部に組み込まれている。
塀がある自衛隊駐屯地は、城郭都市のような扱いらしい。それなのに、入門料金を取られなかったのは少し驚いた。
だが、この後に知り合った人々に聞いたところ、十条台のような小さな街で行商人から税金を取ると、行商人が立ち寄らなくなってしまうらしい。行商人も貴重な労働者なのだそうだ。
もし、税金を取れば、この街の隣の小台の街に行けば良いだけだしな。貴重な行商人様に止まってもらうには、税金なんて取らないほうがいいってことだそうだ。
街の近くにある運動場は畑にされ、よく分からない作物が育っている。見た感じではイネ科の……、黍か何かだろうか。その他にも、野菜らしき何かが育っている。
その隣の自然公園は開墾され、牛のミュータントが数頭放牧されている。それと、鶏のミュータントを閉じ込めた鶏小屋もある。
牛のミュータントは、長い毛で茶色、そして馬鹿みたいにムキムキだ。普通の牛の1.5倍くらいはデカい。力が強そうだ。
鶏のミュータントは、羽毛のないピンクの肌をした何かだ。
両方とも、解体して食肉にするってよりは、労働力や、卵の採取などに使われているようだ。
自衛隊員の宿舎は、街の住人達の住居や、宿として使われているらしい。
その他の、学校施設などの建物は、改造されて店舗などになっている。
そして、グラウンドは、雑多なトタン屋根の建物が建ち並ぶ、繁華街のような街になっていた。
人間は数百人はいるだろう。とは言え、本来街に住んでいた人の数と比べれば総数は少ない。ただ、人口の密度が高いので、人がたくさんいると錯覚しそうではあるな。
とりあえず……、俺は、その辺にいる衛兵に声をかけた。
まだ始まったばかりだから!これから面白くなるから!
と、言いたいところだが、一話目から面白くないやつは切られちゃうんだよなあ。